家族4人で1年に出すごみの量がわずかガラス瓶1本分(=1ℓ)という驚異の「ごみゼロ生活」を紹介する『ゼロ・ウェイスト・ホーム』。生活のシーンごとに実践的な取り組みが紹介されていて、興味のあるところや身近なところから少しずつ始めることができます。「日本でもできるの?」という疑問にお答えすべく、翻訳を手掛けた服部雄一郎氏による実践リポートをお届けしていきます!

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第4回 いざ買い物へ


◆ゼロ・ウェイストの買い物術(ベア・ジョンソン編)

ゼロ・ウェイストの暮らしへの第一歩は、まず「ごみになるもの、使い捨てのものを家の中に持ち込まない」(=リフューズ)です。

たとえば、買い物。ベア・ジョンソンさんは、こんな買い物セットを準備して、「ごみを持ち帰らない買い物」を無理なく続けています。

ベア・ジョンソンさんの“ごみを出さない買い物セット

日本でも「エコバッグの持参」はかなり浸透してきましたが、エコバッグをひとつ持参するだけでは、ごみはなかなか減りません。果たしてベアさんは、というと、写真のとおり、黒い大きなエコバッグの中に、何枚もの清潔な布袋やガラス瓶を忍ばせて買い物に出かけています。


こちらが、買い物後の様子。何ともうつくしいですよね。日本のスーパーでおなじみの、ビニール袋とプラスチック容器を何重にも持ち帰る光景とは雲泥の差です。これなら、帰宅後の片づけもさぞや気持ちがよいでしょうし、もちろんごみ箱に入るものはひとつもありません。


欧米では、こんな買い物の仕方を支える「量り売り」が充実しています。過剰包装がちの日本では、野菜ひとつ取っても、ほうれん草、キュウリ、トマトなど、何もかもがパック済みで売られていることが多いですが、欧米のスーパーなら、このとおり。


もちろん欧米のスーパーでもほとんどの商品はパック済みなのですが、こうした量り売りコーナーや量り売り専門店を中心に買い物することで、店によっては油やメープルシロップやシャンプーなどの液体まで、ほとんどの必需品を量り売りで買うことが可能です。


◆ゼロ・ウェイストの買い物術(わが家編)
近所の直売でさえ、ほとんどの野菜がパック済み。

この点、われらが日本は、著しく不利かもしれません。ゼロ・ウェイストの暮らしをはじめるにあたって、改めて近所のスーパーやショッピングモールの売り場を注意深く眺めてみましたが、予想通り、あまりにほとんどすべての商品がパック済みで、眩暈がするほどでした。最近では、欧米スタイルの量り売りを取り入れた店も一部登場しつつありますが、大半の方にとっては「量り売りなんてどこにもな~い!」というのが現状かもしれません。


でも、ここで諦める必要はありません。チャンスは意外に広がっているのです。たとえば、肉屋、魚屋、八百屋、パン屋、ケーキ屋などの専門店(スーパーの中のカウンターを含む)。これらは「量り売り」で買い物できる大チャンスです。たとえばパン屋なら、布袋を1枚持参して、このとおり、中に入れてもらえばいいのです!


たしかに、布袋を持参する人なんてあまりいないでしょうから、最初は少し驚かれるかもしれません。「ここに……直接ですか???」なんて、まるで不潔な提案でもしているかのような反応が返ってきたこともありますが、布袋は台所のふきんと一緒にきれいに洗濯済みですから! 何の問題もありません。胸を張って「はい。ビニール袋、もったいないので、そのまま入れてください」と答えればOK。行きつけの店なら、じきに店員さんが覚えてくれるので、緊張するのは最初の数回だけです。油っぽい総菜パンやケーキなどは、大きめの弁当箱や保存容器を持参して入れてもらうのがおすすめです。これだけのことで、生クリームがほんの少しついただけの、まだほとんどきれいなケーキ箱を丸ごとごみ箱に放り込むストレスからも解放されました。

先日は蒸籠を持参してみました。ケーキのラップフィルムは、わが家は目をつぶっています。
肉や魚も、保存容器に入れてもらいます。二種類以上まとめて入れると、洗い物も減って◎。プラスチックトレイに敷かれた臭い不織布ともおさらば!

ほかにも、豆腐、お茶、コーヒー豆などの専門店が近所にあれば、「量り売り」とうたっていないお店でも、パッケージフリーで買い物ができるはずです。こんなふうに視点を変えてみると、量り売りのチャンスは意外と身近に隠れているかもしれませんよ。

朝市が盛んな高知では、朝市に通って野菜を量り買いするのも一案。妻はこんな市場かごを引っ提げて、ゼロ・ウェイストの買い物へ繰り出します。


「布袋が足りなかったから」と、帽子ににんにくを詰めて帰宅した妻。 概念にとらわれずにいると、たのしさが広がります。

こうした工夫をするだけで、無駄はかなり減ってきます。もちろん、すべての食材をパッケージフリーで買うことは、今の日本ではできません。わが家も、パスタや小麦粉類、豆腐、かつおぶしなどの乾物類など、まだまだほとんどの食材をパック入りで買っています。でも、大切なのは「できない部分を嘆く」ことではなく、「まずできることをする」こと。それだけで生活は確実によい方向に変わります。どうしても出てしまうビニールやプラスチックのパックは、ごみ箱に捨てず、「容器包装プラスチック」として分別しましょう(※分別資源化を実施していない自治体もあります)。


プラスチックの資源化 日本 vs カリフォルニア
 ベア・ジョンソンさんの住むカリフォルニアでは、プラスチック類の資源化はごく一部しか実施されていないため、ほとんどのプラスチック包装は「ごみ」になってしまいます。一方、日本では、「容器包装プラスチック」や「プラスチック製容器包装」などの名前で分別資源化を実施している自治体が多く、一応「資源物」として分別することが可能です。
 「資源物」とは言え、単に燃料にされるなど、すぐに循環の輪が途切れる「ダウンサイクル」になりがちなプラスチック類。石油資源の枯渇にもつながり、マイクロプラスチックによる海洋汚染も懸念されるなど、使用しないに越したことはありませんが、それでも「ごみ」に混ぜずに分別資源化することで、少しはエネルギーを有効活用できるでしょう。


◆ネット通販のごみを減らす

便利なネット通販。高知の山のふもとに住むわが家も、近場で手に入らないオーガニック食材など、ネット通販をフル活用しています。包装資材の無駄や輸送エネルギーのことを考えれば、ネット通販は使わないのがいちばん。とはいえ、よい食材や製品にお金を落とすことも劣らず大切だと考えています。

そんな時、ほんのささやかなひと手間で、ネット通販のごみや無駄を劇的に減らすことができます。注文ボタンを押す直前、備考欄に以下のように書くのです。

「ごみを減らしたいので、できるだけ簡易包装でお願いします。破損などのクレームはつけません。お手数おかけしますが、地球環境のため、ごみ出しの手間軽減のため、できる範囲でお願いいたします。納品書類も、封筒やプラスチックパックに入れず、裸で入れてください。ぬれたり折れたりしてもかまいません。」

この“たった数行”で、ほとんどのお店はきちんと「簡易包装」にしてくれます。ある食材販売サイトは、今まで、小麦粉や砂糖やドライフルーツなど、割れる心配がまったくないものでも、ぐるりと気泡緩衝材(いわゆる“プチプチ”など)でくるみ、請求書をご丁寧にクリアファイルに入れてくれていましたが、この一言を入れるようにしてからというもの、ご覧の通り。

気持ちいいったらありゃしません! 気泡緩衝材って、とてもかさばって、保管に困りませんか? 再利用しようにも使い切れないほど送られてきてしまうので、こうして根元からカットするのがいちばん。

こちらのチーズ専門店も、新聞紙を使って簡易包装してくれました。チーズをくるむサランラップなどのごみは出ますが、「大物」が減るだけで全然違います。

某大手通販サイトは、インクカートリッジひとつでも、この大がかりな包装です(近所の電気屋さんに足を運んで買うべきですね)。このサイトだけは、注文時の備考欄がなく、問合せ窓口も公開されていないため、簡易包装のお願いができません。ただ、同じサイトの「マーケットプレイス」など、別の出品者が発送する商品であれば、注文後に「注文履歴」から出品者に連絡することが可能です。わが家はなるべくこのパターンで簡易包装をお願いするようにしています。

簡易包装のリクエストは、「梱包の流れ作業を止めてしまいそうで、申し訳ないな」と思う部分もあります。でも、みんなが遠慮していたら、システムはいつまでも変わりません。それに、簡易包装は、お店にとっても、包装資材代の節約にもつながるし、梱包の手間も減るし、メリットは大きいはずなのです。ひとりでも多くが声を伝えることで、よい方向に社会が変わっていく手助けができると思います。


◆発表! わが家の1か月間のごみ

さて、ベア・ジョンソン流に、ごみ箱をガラス瓶に変えてから1カ月。わが家の燃えるごみがどのくらい減ったか、発表いたします。

わが家の1か月間の燃えるごみ

結果はこのとおり、激減です。重さは350グラムでした。ベア・ジョンソン一家は「1年間でこの半分」ですから、まだまだ誇れるような結果ではありませんが、それでも、日本人のひとり1日あたりの燃えるごみ排出量は500~700グラム以上ですから、5人家族で1カ月に350グラム(=ひとり1日あたり2グラム強!)というのは、既に「ほぼゼロ」と言ってもよいくらいの少なさです(連載第2回で紹介したフランスのゼロ・ウェイスト家族、ピションさんとモレさんのお宅に匹敵する量です)。

この1カ月にわが家がやった大きなことは、次のたった4つです。

●変えたこと

  • ふたりの子どもの紙オムツをやめる。
  • パック入りの豆乳とヨーグルトをやめる。
  • ティッシュペーパーはトイレットペーパーで代用し、使った場合はコンポストに入れる。

●既にやっていたこと

  • 生ごみ処理

ごみの中身。右上から、野菜などのラベル、使用済みのペン・歯ブラシ、子供服のタグ、はがしたガムテープ、図書館の貸し出し票、飛行機の預け荷物のタグ、妻が持ち帰った紙コップひとつ、間違って買ったヨーグルト容器ひとつ、バターの包みやアルミホイルなどの銀紙、ひもやテープなど子どもの工作の残骸、綿棒、絆創膏とその包装、宅急便の伝票やその台紙、脱酸素剤や乾燥剤。

ごみの中身を見ると、まだいろいろできることはありそうですが、とりあえず最初の1カ月としては、ちょっと頑張っただけですぐに目に見えてごみが減り、大きな自信になりました。もちろん、古い道具が壊れたり、家のDIYをしたりすれば、すぐにいろいろと「大物」が出てしまうかもしれないので、この成果だけで「ごみはこんなに減る」と豪語することはできません。このペースが継続できるか、引き続き検証していきたいと思いますが、少なくとも「日常的なごみだけなら、割にラクにゼロに近づけられるなぁ」と実感できた最初の1カ月でした。

さて、「量」は予想以上に減らすことができたとは言え、暮らし全体にはまだまだ無駄も、工夫の余地もたくさんあります。ベア流のたのしいヒントを生かしつつ、どこまで家を快適に変えられるか、試行錯誤してみたいと思います。

次回は“台所”を取り上げる予定です。


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服部雄一郎(はっとり・ゆういちろう)

1976年生まれ。東京大学総合文化研究科修士課程修了(翻訳論)。葉山町役場のごみ担当職員としてゼロ・ウェイスト政策に携わり、UCバークレー公共政策大学院に留学。廃棄物NGOのスタッフとして南インドに滞在する。2014年高知に移住し、食まわりの活動「ロータスグラノーラ」主宰。自身の暮らしにもゼロ・ウェイストを取り入れ、その模様をWEB連載「翻訳者服部雄一郎のゼロ・ウェイストへの道」(アノニマ・スタジオ公式サイト)や、ブログ「サステイナブルに暮らしたい」(sustainably.jp)で発信する。最新の訳書に『プラスチック・フリー生活』(NHK出版)。


ゼロ・ウェイスト・ホーム
ーごみを出さないシンプルな暮らし―

著:ベア・ジョンソン
訳:服部雄一郎

本体価格1700円(税別)

家族4 人が1 年間に出すごみの量がガラス瓶1 本分(= 1 リットル)という、驚異の「ゼロ・ウェイスト(ごみを出さない)」生活を続けている著者。そのクリエイティブな工夫を紹介する、実践ガイドの日本語版です。「ごみの分別先進国」と言われる日本でもシンプルな生活や生き方が話題となっている昨今、環境問題やリサイクルに意識的な方のみならず、大きな注目を集めているテーマです。モノを減らせばごみも減り、環境的・経済的にも大きなメリットが生まれる。本当の豊かさとは?快適な生き方とは?「断捨離」「ミニマリズム」のさらに一歩先を行く、持続可能でシンプルな暮らし方の提案のみならず、人生で大切なことや見つめ直すべきことに気づかせてくれる一冊。先進的で洗練された暮らしぶりも必見です。