家族4人で1年に出すごみの量がわずかガラス瓶1本分(=1ℓ)という驚異の「ごみゼロ生活」を紹介する『ゼロ・ウェイスト・ホーム』。生活のシーンごとに実践的な取り組みが紹介されていて、興味のあるところや身近なところから少しずつ始めることができます。「日本でもできるの?」という疑問にお答えすべく、翻訳を手掛けた服部雄一郎氏による実践リポートをお届けしていきます!

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第2回 世界に広がる“ゼロ・ウェイストの暮らし”


◆続々登場! ゼロ・ウェイスト実践者
ローレン・シンガーさん

ゼロ・ウェイスト、つまり「ごみをほとんど出さない暮らし」は、いま世界各地で脚光を浴びています。本書、ベア・ジョンソンの『ゼロ・ウェイスト・ホーム』が火付け役となり、アメリカとフランスを中心に“快適でおしゃれなゼロ・ウェイスト”を暮らしに本格的に取り入れる人が続々と登場しています。
その筆頭格がこちら、ニューヨークに住むローレン・シンガーさん。

まだ20代半ばの彼女は、数年前、ニューヨーク大学の学生だった頃に、たまたまベア・ジョンソンの「ゼロ・ウェイスト・ホーム」の存在を知り、単身ゼロ・ウェイストの実践を開始、大都会の真ん中でいとも簡単にごみゼロを成功させてしまいました。そのごみの量は、2年間で、たったこれだけ!

ひとり暮らしということもあり、ベア・ジョンソン一家の「1年で1ℓ」という驚異のラインをさらに上回る「2年で500ml」です。公式サイトtrash is for tossersほかyoutubeなどで、彼女がゼロ・ウェイストのたのしい工夫をわかりやすく紹介する動画やスピーチを見ることができます。

ほかにも、ちょっとインターネットを検索してみるだけで、ごみをほとんど出さない暮らしを発信するブログがいろいろ見つかります。よくメディアに取り上げられているものをいくつかご紹介すると……

カリフォルニア在住のキャスリン・ケロッグさん。毎日フルタイムで働きつつ、過去1年間のごみ量は250mlという冗談のような数字。

フランスの地方在住のジェレミー・ピションさん&ベネディクト・モレさんは、ふたりのかわいい女の子のいる4人家族。特技のイラストを生かした軽妙なブログで人気を博し、今年出版した本(フランス語)もベストセラーに。ごみ量は「半年にごみ箱ひとつ分」(1年で5kg)ということで、いくぶん親近感の湧く量ですが(そのくらいならわが家も頑張れば届きそう!?)、これはあくまでも途中経過で、これからもたのしく挑戦を続けていこうというプロセスがブログに綴られています。

シカゴ在住の、シリア・リストウさん。やはりまだ20代にして、上質な暮らしぶりが光ります。

これらはほんの一例に過ぎません。発信元も、アメリカやフランスだけにとどまりません。ゼロ・ウェイストの動きが確実に、そして急速に広まりつつあることが伺えます。

◆ゼロ・ウェイストは簡単!?

これらの人たちが口を揃えて言うのが、「ゼロ・ウェイストは簡単!」ということです。「ホントに!?」と思いたくなりますが、どの人も「無理やり頑張ってごみを撃退している」わけではなく、あくまで「快適だから」「心地よいから」という理由でゼロ・ウェイストに無理なく取り組み、その暮らしを心底たのしんでいる様子なのです。

いやはや、快適で、地球環境にもより良い、とくれば、ゼロ・ウェイストを目指さない手はありませんよね。でも、どうやって? これら実践者に共通するキーワードは「シンプルな暮らし」です。ミニマリストにも重なりますが、モノが少なければ、部屋はすっきりし、壊れるモノや手入れすべきモノも減り、最終的にごみも減るのは当然の帰結。さらに、プラスチックを中心とする「使い捨て」への依存を減らし、金属や木製など、繰り返し使える耐久性にすぐれたモノに、暮らし全体を切り替えていきます。浮かび上がってくるのは「少ない数の大切なモノに囲まれた上質な暮らし」です。それって、ごみ云々を超えて、とても魅力的で理に適った暮らし方ではないでしょうか?


◆ゼロ・ウェイストの暮らしが目指すもの

ゼロ・ウェイストは決して「ごみの少なさコンテスト」ではありません。上記のような華々しい成功例に目を奪われていると、つい「ごみの少なさ」ばかりに目が行きがちですが、忘れてはならないのは、最終的には「ごみの量なんて実は関係ない」ということです。たしかに、「ゼロ・ウェイスト」と銘打つ以上、ごみの量を減らすことは大きな主軸に違いありません。でも、最終的に私たちが手に入れたいものは、「ごみ箱がどれだけ空っぽに近づくか」ではなく、「ごみ箱の中身が減った先にある、快適で持続可能な暮らし」なのです。仮にごみが1リットルまで減らなくても、ごみが今までよりも減って、そのお陰でより快適で環境負荷の低い暮らしが実現されるなら、それだけで十分に大きな価値があるはずです。

ベア・ジョンソン自身もこう書いています。「出るごみの量がどのくらいかなんて、実は重要ではないのです。(中略)誰しも、その人なりに、できる範囲で暮らしを変えていけるはずです。そして、持続可能な暮らしへの一歩は、それがどんなに小さな変化であっても、私たちの地球と社会に必ずプラスの影響をもたらすのです。」(『ゼロ・ウェイスト・ホーム』p.22「はじめに」より)これは、絶望的と思えるほどの環境危機を前に、つい無力感に支配されがちな我々にとって、とても希望に満ちたビジョンではないでしょうか? そして、その射程は、これまで私たちが思い込んでいたよりも(=ごみは少ししか減らせない)、ずっとずっと大きい(=やろうと思えばほとんどゼロまで減らせる)のです。

わが家も、この点を踏まえて、「たのしくお得なゼロ・ウェイストの暮らし」を手に入れたいと思います。無理はしないし、子どもたちにも理不尽な思いはさせない。その中でも、できることはいろいろあるはずです。目指すは「暮らしがより良く変わること」。そのうれしい変化を後押ししてくれる「わかりやすい指標」として、ごみをどこまで減らせるか、試してみたいと思います。

さて、すっかり前置きが長くなってしまいましたが、いざ出発! ということで、わが家の挑戦もいよいよ本格的に始まるわけですが、「ゼロ・ウェイスト」を目指すからには、まず「何をゼロにしたいのか」、敵(=ごみ)を知る必要があるのは言うまでもありません。そこで、次回はわが家の今のごみ箱の中身を検証してみたいと思います。さあ、一体、何が出てくるでしょうか!?


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服部雄一郎(はっとり・ゆういちろう)

1976年生まれ。東京大学総合文化研究科修士課程修了(翻訳論)。葉山町役場のごみ担当職員としてゼロ・ウェイスト政策に携わり、UCバークレー公共政策大学院に留学。廃棄物NGOのスタッフとして南インドに滞在する。2014年高知に移住し、食まわりの活動「ロータスグラノーラ」主宰。自身の暮らしにもゼロ・ウェイストを取り入れ、その模様をWEB連載「翻訳者服部雄一郎のゼロ・ウェイストへの道」(アノニマ・スタジオ公式サイト)や、ブログ「サステイナブルに暮らしたい」(sustainably.jp)で発信する。最新の訳書に『プラスチック・フリー生活』(NHK出版)。


ゼロ・ウェイスト・ホーム
ーごみを出さないシンプルな暮らし―

著:ベア・ジョンソン
訳:服部雄一郎

本体価格1700円(税別)

家族4 人が1 年間に出すごみの量がガラス瓶1 本分(= 1 リットル)という、驚異の「ゼロ・ウェイスト(ごみを出さない)」生活を続けている著者。そのクリエイティブな工夫を紹介する、実践ガイドの日本語版です。「ごみの分別先進国」と言われる日本でもシンプルな生活や生き方が話題となっている昨今、環境問題やリサイクルに意識的な方のみならず、大きな注目を集めているテーマです。モノを減らせばごみも減り、環境的・経済的にも大きなメリットが生まれる。本当の豊かさとは?快適な生き方とは?「断捨離」「ミニマリズム」のさらに一歩先を行く、持続可能でシンプルな暮らし方の提案のみならず、人生で大切なことや見つめ直すべきことに気づかせてくれる一冊。先進的で洗練された暮らしぶりも必見です。