アノニマ・スタジオWebサイトTOP > 野村美丘×一田憲子トークイベント“自分自身が肩書き”な人たちの、仕事のはなし@代官山 蔦屋書店2019年2月20日 イベントレポート 後編

野村美丘×一田憲子トークイベント
「“自分自身が肩書き”な人たちの、仕事のはなし」
イベントレポート 後編




2019年2月20日に、代官山 蔦屋書店さんで『わたしをひらくしごと』刊行記念、野村美丘×一田憲子トークイベント「“自分自身が肩書き”な人たちの、仕事のはなし」が開催されました。著者の野村さんと編集者・フリーライターの一田さんをお迎えして、本のことや仕事についてお話いただきました。イベントレポートとして、当日のお話の一部をお届けいたします。



■「しごと」の定義とは


一田さん

その「やりたいことを持たなきゃいけないとかからも解放される」、というのはどういう意味ですか?

野村さん

たとえば、(本に出てくる)アイリッシュダンサーのタカさんは、自分のやりたいことのために、行ったこともないアイルランドに、仕事やめて行っちゃって。

一田さん

すごいですよね!すごいパワーだと思います。

野村さん

彼なんかはみんながとても真似できないようなことをやったと思いますけど、彼にとってはそれは無理がないこと、というか。(気持ちが)そういう風になってるからそうした、という感じ。それはみんなそれぞれそうで、花屋の翠ちゃんも、読んでいただければわかる通り、流れに身をまかせてるというか(笑)

一田さん

うん、うん。

野村さん

(決意が)固いか柔らかいかはそれぞれなんですけど、とにかく自分の気持ちに素直でいるということかなあと。なぜかというと、正解はないじゃないですか。自分の中でさえ日々正解は変わっていくものなので、「正しい」ということを拠りどころにするのは難しいんですよね。となると、自分の気持ちしかもう拠りどころにすることはないと思うんです。それが例えば不安な気持ちのようなネガティブなことでも、そこを拠りどころにするしかないんですよね。ほかには求められないので。そういうことを(この取材を)やってて思いました。

一田さん

うーん、なるほど。
この中で、心に残っている方のエピソードとかありますか。

野村さん

そうですね……「しごと」ってタイトルにしていて、みんなに仕事について話を聞いているんですけど、必ずしもそれで食ってるってわけじゃない、ということですね。ビジネスになってない人も実はいて、それも含めて「しごと」と。「しごと」の定義って何かという話なんですけど・・・

一田さん

それで食ってない人は、ほかに収入源があるということ?

野村さん

そういう人もいます。でも(その人も)分けてないですね、ビジネスとプライベートを。

一田さん

その人の糧(収入源)となる仕事と、自分が自然にやりたいことが、分かれてないということですか。

野村さん

はい、ごちゃごちゃな感じです。

一田さん

そうなると、「しごと」の定義って何だろう、ということになりますよね。
世間一般的に言うと、その仕事をすることで対価を得て、自分の生活の営みを支えていくのが仕事、みたいなイメージあるじゃないですか。そうではなかった、ということですか?

野村さん

それももちろんあるんですけど、結局自分がやることで誰かと「つながる」……というと陳腐なんですが、他人と関わる方法が「しごと」なんだなあ、と思いました。

一田さん

へぇぇ〜〜。

野村さん

というのは、他人と関わらないでそれをやるとしたらそれはただの趣味なので。それによって誰かの役に立つとか、そういうことですね。本の「おわりに」にも書いたことですけど、それの交換し合いが「しごと」だと思いました。

一田さん

「誰かの役に立つこと」をお互いに、交換する。

野村さん

そうです。

一田さん

そこに、お金が生まれなくても。

野村さん

お金が生まれなくても。交換すればいいので。

一田さん

そうか。あなたのできることと私のできることを交換する、という意味?

野村さん

はい。

一田さん

ということはこの人たちは、お金のことを考えないで、自分が自然にやりたいと思うことだけを見つめている、ということですよね。

野村さん

全員が全員そうとも言いきれないかもしれないですけど、でもそれ(お金)が目的ではなく、あくまでも(お金は)結果としてついてくるものというか。

一田さん

そっか。それによって「わたしをひらく」ということが起こるということですね。

野村さん

そうです。さっき言った「自分の中の思い込みを解放する」ということで自分をひらき、そうすることで他人とつながるツールが生まれ、他人に対してもひらき、世の中に対してもひらき・・・というような。そんなこと考える前にタイトルつけてましたけど(笑)答えあわせ的にそうなりました。

一田さん

インタビューをはじめるときにこのタイトルは思いついていたんですか?

野村さん

はい。取材する前にタイトルは決めていました。

一田さん

「わたしをひらく」というのはどういうことなんですかね?

野村さん

解放……自分らしく、自分に素直な気持ちでいるということですかね。

一田さん

野村さんにとって自分をひらくということは、振り返ってみるとどういうことだったなあと思いますか。

野村さん

あんまり意識したことないんですけど……ひらきっぱなしなので(笑)

一田さん

意識してひらいている感じじゃなくて、自然にひらけている感じなんだ。

野村さん

そうですね。あんまり区別して考えたことないですね。

一田さん

なんだかうらやましいですね。私はどっちかというと、すごく堅いサラリーマン家庭に育って、親も「ちゃんとした大企業に就職しなきゃだめ」とか言われて就職をし、みたいに育ったので、フリーライターになったことを親は嘆きまくっていた。「そんな不安定な、いつどうなるかもわかんないのに」、みたいに言われていたので、そういう刷り込みが……自分はそういう権威主義の父親がすごく嫌で、反発して家を出たりしていたのに、やっぱりどこかにそれが刷り込まれていて、自分が仕事をするときも「ちゃんと稼がなきゃいけない」とか、「ちゃんと自分がやりがいがあると感じなければいけない」とか考えてしまう。だから、(野村さんと私は)おんなじような仕事してるんだけど、メンタル的には正反対かもしれないですね。私はわりとまじめというか(笑)

野村さん

(私は)ふまじめ?(笑)

一田さん

いい意味でね(笑)
(私は)殻を破れない、というか「ひらけ」ない。自分をひらきたいと思いながら、ずっとひらけない、みたいな苦しみをずっと味わってきたような気がするんですよ。

野村さん

最近、本を読んでいて面白いと思ったんですが、その時選んだことは、その時の自分の最善の選択で、今日の自分はその積み重ねでできてるから、全部OKって書いてあって。すごく良い言葉だと思いました。たしかに、その時「どっちがいいかな」と悩んだ上で、良いと思った方を選んだんだから、そのあとどうなろうとその時は最善で、その連続なんだと思ったら超ハッピーだなと。

一田さん

なるほど。さっき私が不安がることについて、不安がるのをOKと思えばいいとおっしゃったけど、たしかに若い頃不安だった時は、すごく苦しかったし嫌だったんですけど、今から思い返してみると、私がフリーライターとしてがんばれたのは、その不安が裏にあったから。本当にヒリヒリするほど不安だったけれども、その不安があったから「よし、今度は」とがんばれた、ということはあるんですよ。だから私は、絶えず不安を燃料として燃やしながら生きてきたような気がするんです。ひらくのがヘタクソだったからこそ、「ひらく」というプロセスについて書きたいと思った。だから私にとっては、すぐひらけなかったことが、ライターとして書くエネルギーにつながっていたんだと思います。

野村さん

なるほど、とても面白いですね。

一田さん

だから、全然真逆なんだけど、結局言ってることは同じなんだな、と(笑)


■正解を求めるのではなく


野村さん

本当にそうですよね。一田さんのこの本(『キッチンで読むビジネスのはなし』)は本当に私のアプローチとは真逆で、「ビジネスから仕事を考える」という意味で反対なんですけど、結局同じことを言ってるんです。

一田さん

そうなんですよ。私のこの本は、私がビジネスのことまったくわからないから、やっている人にお話を聞きに行ったんです。要するに私は仕事というのは、ビジネス的に成り立たないと仕事って言えないんじゃないかと思っていた。つまり今、野村さんがおっしゃっていたのと真逆で、お金を稼がないと仕事って言えないんじゃないかとずっと思ってたんですよ。
で、いろんなビジネスマンに話を聞きに行ったら、ビジネスとしてお金を得るために彼ら彼女らがやっていたことは「相手のことをとことん考える」ということだった。

野村さん

はい。

一田さん

たとえばこのギャラリーfeveの引田さんという方がいらっしゃるのですが、IBMのコンピュータを売るというすごく大きなビジネスのために何を考えるかというと、相手の企業の人が何を困っていて何を望んでいるのか、ということをとことん聞いて、相手の身になって、自分ができる120%のことを考えること、それがビジネスだっておっしゃったんですよね。私は「そういうことがビジネスの基本だったんだ!」と驚いたんです。ということはさっきのように、仕事とは何かを考えるときに、相手の喜ぶことだったり、相手とつながることだったりする、ということと似ている気がするんです。

野村さん

そうですね。1人で生きていければいいですけどね、なかなか1人で生きていくの難しいですから。

一田さん

この本を読むと、インタビュアーというよりは友達みたいな感じで茶々を入れるところが、すごく面白いな、リアルだなと思ったんです。本音で聞いてるし、自分の生活のなかから出た質問を聞いてるし、だからこそ読んだ人が共感するんだなと。ライブ感あふれる、リズム感のあるやりとりがこの本のすごい魅力だなと思いました。

野村さん

ありがとうございます!それは狙ってたところなので嬉しいです。

一田さん

そうなんだ。こういう文体というか構成というか、こういう感じで書きたいと思ってたの?

野村さん

それは版元の編集担当と相談しながらですけど、塩梅についてはけっこう考えました。基本的には今おっしゃったように、隣で会話を聞いてるみたいな、その人の人となりをテキストと写真で見せたかったので、自然に過ごしてるときにおしゃべりしている感じをそのまま出したい、というのはありました。ただそれは、読み物として成り立つかどうかとはまた違いますよね。なのでそこの塩梅はけっこう考えました。

一田さん

それは、ご自身は著者として、聞いたことに対する分析はしない、という意味ですか?

野村さん

はい、しないです。

一田さん

ですよね。その人の話を聞いて、「こうだったよね」みたいな結論を導き出すとか、そういうことがないですよね。

野村さん

ないですね。それも心がけてました。というのは、そうしてしまうと私を通した私の「正解」になってしまって、それは何かの押しつけになると思うので。どうしたって私というフィルターを通すことにはなっちゃうんですけど、なるべくそのまんまのその人を面白がってもらえるように、と思っていました。

一田さん

だからたぶん、それぞれの方が語ってらっしゃる内容からも、そして結論付けないという構成からも、「世の中いろんな人がいるよね」、「しごとっていろいろあるよね」っていうのが、このまるごと一冊からメッセージとして伝わってくるなあと思いました。

野村さん

ありがとうございます!

一田さん

ということで、あっという間に時間が経ったんですけど、たとえば今日来てくださった方、どういう方が来てくださってるかわからないけど、仕事に悩んでたりとか、私の仕事つまらないなとか、これからどうしたらいいのかわからないとか、何かしら求めるものがあって来てくださってるのか、わからないのですが、そういう方に対して、仕事について何か言うとしたらどう?

野村さん

そんな……私が言えることはないです。
(あるとしたら)本当にさっきの話、自分の気持ちを拠りどころにするということだけ。
一田さんがさっきおっしゃったように、お父様の言っていたことが知らないうちに刷り込まれて、そういう価値観になっているというように、自分の価値観って、けっこう他人のものさしだったりする。そこを疑ってみるということですかね。

一田さん

なるほど、そうですよね。私は刷り込まれて不安がってたのですが、不安がるって、努力でやめられないんですよ。
いくら意志の力で「不安がらないでおこう」と思っても、不安なものは不安なんですよね。だから野村さんがおっしゃっているのは、それを丸ごと受け入れるということなんだろうなと。不安だったら不安でしょうがない、そこから生まれるものもあるのだ、と。

野村さん

そうですね。そうするしかないというか。

一田さん

受け入れてみればこんなに、野村さんみたいに毎日ハッピーに過ごせるんだなって。

野村さん

(笑)






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一田 憲子(いちだ・のりこ)

編集者・フリーライター。 OL生活を経て、編集プロダクション勤務後、フリーライターとして数々の書籍や雑誌で執筆。 ムック「暮らしのおへそ」「大人になったら、着たい服」(主婦と生活社)では企画から編集までを担当。 近著は「暮らしに必要なものは、自分で決めていい」(秀和システム)「面倒くさい日も、おいしく食べたい!」「丁寧に暮らしている暇はないけれど」(SBクリエイティブ)など。自身のホームページ「(そと)()(うち)()」でも、暮らしの知恵を綴っている。
http://ichidanoriko.com


野村 美丘(のむら・みっく)

1974年、東京都出身。 明星学園高校、東京造形大学卒業。 『スタジオ・ボイス』『流行通信』の広告営業、デザイン関連会社で書籍の編集を経て、現在はフリーランスのインタビュー、執筆、編集業。文化、意匠、食、旅、犬猫、心と体、ルーツなど、自分の生活と興味の延長上をフィールドに公私混同で活動中。初の著書『わたしをひらくしごと』の撮影はカメラマンである夫が担当。
http://www.photopicnic.pics/



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