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夏休みの自由研究
(生き物編)

1.標本作り
 博物館に通い、図鑑が一番の愛読書だった昆虫少年としては、まずは憧れたのは「標本作り」だ。昆虫の身体のつくりがよく理解でき、しかもわりと簡単にできる。甲虫類や直翅類(バッタ・キリギリス類)などの標本作りには「展足板てんそくばん」という器具が必要だが、そこらへんにある発泡スチロールでもOK。マチ針を胸部もしくは腹部に刺し、これまたマチ針で脚を折らないように整えていく。
 標本作りというのは、簡単に言うと「乾燥させること」。ぼくが子どものころ、標本は虫が湧かないように冷蔵庫で乾燥させていた。その子どものころの感覚で先日ミルンヤンマを三角紙に入れたまま冷蔵庫に入れていたら妻に本気で怒られた。標本をめぐって家族で大げんかになるのは望むところではないので注意が必要だ。
 直翅類は、絶食をさせて糞を完全に出させると標本が綺麗に仕上がる。あと鱗翅類(チョウ・ガ類)やトンボの類は「展翅板てんしばん」というのが必要。安価なので一つ買っておけばいい。
 標本を作る時の注意点を2つほど。
 まず、標本には必ず「虫が湧く」と思っておいたほうがいい。密閉性の高い通称「ドイツ箱」でも防虫剤は必須。必ず入れておこう。
 ふたつ目はラベルを付けておくこと。種名・いつ・どこで・だれとだれが採集したのかなど、どんな紙にでもよいので書いておこう。思い出のためという意味もあるが、来年同時期に同じ場所で全く違う種類の昆虫が採集できるかもしれない。「なぜ?」この疑問がまたちがう自由研究への出発点になるかもしれない。

2.定点観測
 参加した博物館の行事に影響を受け、近所の公園のセミの抜け殻を毎日集め、日々の変化、種類の同定、オス・メスの数といったことも調査したことがある。祖母に「あんた、セミの抜け殻で佃煮でも作るんかいなと呆れられたものだ。これはセミの成虫でもよい。別の年は親の車に乗せてもらい、同地点の水銀灯に集まるカブトムシとクワガタムシの採集数と気温、月齢(月が明るいと水銀灯に集まりにくいと感じたので)などの相関図を作った。
 こんな感じで、いつも遊んでいる公園だとか近くの河原などで、毎週同じ時間帯にとか、毎朝とかにずっと同じものを採集し続ける。夏休みならではの調査方法だ。だいたい昆虫好きな子どもなら「しつこい」性質を少なからず持っていると思う。
 ちなみにセミ捕り網は自作することをお勧めする。「部材の提供」という意味でお母さんの協力が必要だが、めちゃくちゃ使いやすいので一度ぜひ作ってみて欲しい。


3.飼育記録
 なんでも飼ってみる。捕まえてきた生物はとにかく図鑑を引き、インターネットで検索し、飼ってみる。種はなんなのか同定し、どんな餌をあげたのか、どんな住環境を考慮したのか、温度はどうだったのか、その日の天気は、そして愛すべき生き物たちはどんな様子だったのか。こういったことを記録に付けてみてはいかがだろうか?先日も息子(小3)が採集してきたカナヘビ(トカゲの仲間)を飼育していた時のこと。彼らはなぜ「金蛇」などというブッソウな名前がついたのか、理解できた。アゴが外れる蛇のごとく大きな口を開け、ショウリョウバッタを捕食していた。毎日、妻の協力も仰ぎバッタの採集に追われる日々だったが、勉強になったものだ。ぼく自身も子どものころ、日長一日カブトムシやらクワガタムシやらを食卓に並べて餌を食べる様子を眺めていた。幸せだった。先日も食べかけの桃の汁を舐める様子を食卓に広げ眺めていたら、妻が本気で怒っていた。
 おすすめは、同定できなかった種類のイモムシなり青虫をその食性ごと採集してきて羽化させてみるということ。ものすごい綺麗な蛾や蝶になるかもしれない。本連載の「チョウに親しむ」なども参考に、ぜひ挑戦してみてほしい。



【さいごに】
 ぼくの子どもの頃(昭和50年代)、大阪市内では完全にシャーシャーと鳴くクマゼミが優勢で、アブラゼミがその次、朝夕にツクツクボウシ、ニイニイゼミを狙うという土地柄だった。有名なミンミンゼミは市内には皆無。だから例えばマンガを読んでセミの鳴き声が「ミーンミーン」という意味が理解できなかった。青緑のラインが美しいミンミンゼミを初めて採集したのは、小学校も高学年になってから。生駒山の中腹の桜の木に止まっていたのを捕まえた感動を今でも覚えている。それを未だに忘れられずに困っている。東京に出張すると街路樹で鳴いているミンミンゼミを見ては「あー綺麗だなぁー」と感動し、「捕りたいなー」と、年齢も仕事も忘れて考えてしまう。
 普通に考えて、子どもが何匹もセミを捕ってきては虫カゴの中で死んでしまうということに、我慢のならないお母さんやお父さんも多い、というのもよく分かる。そもそも虫とか爬虫類を捕まえてくるのもどうなんよ?というご意見も、あるだろう。しかしここはぜひ子どもの興味のあるうちに「ちょっと●●して調べてみてはどう?」と、ぜひ子どもたちの興味を全面肯定し、少し手を差し伸ばしてあげて欲しい。今年も楽しい夏休みになることを願って。


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