アノニマ・スタジオWeb連載TOP > 暮らしのなかのSDGs もくじ > その11 コンポスト、いろいろ。【雨宮みずほさん編】

イラスト/江夏潤一


その11

コンポスト、いろいろ。
【雨宮みずほさん編】


昨年来、家庭菜園を始める方が急増しているというニュースをよく目にします。
同じように、最近では「コンポスト」が注目され、家庭で取り入れている方が増えてきています。コンポスト自体は昔からあるものの、暮らしを心地良くするためのアイデアや手段の一つとして楽しむ人が増えているのは、近年ならではの傾向といえるでしょう。
今回は、フリーライターでコンポストアドバイザーの資格をもつ雨宮みずほさんにお話を伺いました。それぞれのきっかけや魅力など、コンポストの “今” を探っていきます。




■コンポスト とは
「堆肥(compost)」や「堆肥をつくる容器(composter)」のこと。家庭から出る生ごみや落ち葉、下水汚泥などの有機物を微生物の働きを活用して発酵・分解させ、昔から伝承されてきた日本の大切な知恵のひとつ。
※参考「LFCコンポスト



庭がなくても、都心でも楽しめる
ベランダコンポストの魅力

フリーライター/コンポストアドバイザー
雨宮みずほさん


きっかけは野菜作りへの興味から
区民農園への参加を機に、野菜作りに目覚めたという雨宮みずほさん。その後、自宅マンションのベランダで菜園を始め、8年前からはダンボールコンポストもスタートしました。
「野菜作りはまったくの初心者。区民農園では1年を通じていろいろな野菜を育てましたが、最も感じたことは土づくりの大切さでした。江戸時代から続く農家さんの土はふかふかで真っ黒。太くて長い練馬大根もすっと抜けるほどやわらかでした」。
ベランダで育てている野菜は実にさまざま。春から夏はトマトやゴーヤー、シシトウ。秋から冬は、ブロッコリーやカリフラワー。小松菜やスイスチャード、ミックスレタスは通年楽しめるといいます。野菜のほかにはオリーブや山葡萄なども。「マンションの4階に住んでいるので、風に強いツル性の植物を選んでいます。特にゴーヤーは害虫や病気も少なく、園芸初心者にもおすすめ。緑のカーテンとしても楽しめます」。









初夏の緑が眩しい夏のベランダには太陽の恵みがたくさん。
秋には山葡萄やオリーブ、和綿なども。
青いりんご箱のプランターは、冬に育てているブロッコリー。

コンポストは
我が家の「ペット」

土づくりの大切さを実感した雨宮さんは、友人からダンボールコンポストの話を聞いたり、無料講座に参加した後、コンポストをスタート。ベランダ菜園にコンポスト堆肥を活用するようになりました。
ダンボールコンポストは、ダンボールにくん炭(籾殻を炭化したもの)とココピート(※)を入れた資材に生ごみを入れてかき混ぜるだけで、約4カ月で堆肥化するという仕組み。「生ごみが気軽に堆肥になる喜びや、目に見えない微生物が生ごみを分解してくれる不思議が面白くて。コンポストにはいろいろな種類がありますが、マンション住まいでズボラな私には、ダンボールコンポストがピッタリでした」。その魅力について、次のように話してくださいました。
※ココナッツの殻の繊維を原料とした、天然素材の有機培土。

・毎日の変化が楽しい
・電気を使わないのでエコ
・ダンボール一箱でできるのでコンパクト
・においが少ないので、マンションのベランダでも可能
・投入する生ごみは少々傷んでいてもOK
・途中でお休みできて、いつでも再開できる
(ぬか漬けは失敗しても、コンポストなら大丈夫!)


さらにはこんなお話も。
「冬には湯気があがることもあるし、柑橘の皮を入れると良い香りがしたり、肉や魚などのたんぱく質を入れたりすると、においが強くなったり。生ごみの種類によって日々、コンポストの表情がかわるので、かき混ぜているだけで楽しいんです。まるで我が家のペットです(笑)」。




コンポストはまるで生き物のようだと話す雨宮さん。
生ごみの種類によって、においなども変化するのだとか。
冬には湯気が上がることもあるというから驚き
(写真2枚目)

半径2mの中で生まれる循環の輪
現在、ライターとしての仕事の傍ら、LFCコンポストのエコアンバサダーとしても活動する雨宮さん。しかし、エコやサステイナブルな意識をそこまで強く持っていたわけではなく、「なんだか面白そう」という気持ちで始めたといいます。生ごみをコンポストに入れることで堆肥ができ、それが植物の栄養となり、収穫した野菜は食卓へ。「キッチンからベランダまで、わずか半径2m。その中で微生物たちが生ごみを分解し、ベランダ菜園には虫たちが訪れ、四季折々の表情を見せてくれます。身近にありながら、今まで気づかなかった自然の営みに思いを馳せる瞬間、その積み重ねが環境への意識を変化させてくれている気がします」。難しく考えるのではなく、自分が楽しいと感じることから始めてみる。それがSDGsへの一歩なのかもしれないと、雨宮さんは話します。

プランターで育てたケール、ミックスリーフ、スイスチャード、プチトマト、バジル、パクチーにナッツを加えたミックスサラダ。

「千石ちいさな森」プロジェクトのこと
コンポストの循環は家庭の外でも生まれています。2018年に、文京区千石でスタートした緑化活動「千石ちいさな森」。ダンボールコンポストの堆肥で植物を育て、街に緑が少しずつでも増えてほしいという思いから始まりました。
千石のコミュニティスペースで、雨宮さんがコンポスト講座を開催したときのこと。「受講者の方から“堆肥を使えず余ってしまう”という声が上がりました。そこで千石在住の受講者同士で話し合い、図書館の園庭に堆肥を活用できないか提案したところ、快諾いただけたんです」。現在では、千石図書館の夏の風物詩でもある緑のカーテンや、春の菜の花の花壇などにも使われています。

文京区立千石図書館の夏の風物詩、緑のカーテン。
ダンボールコンポストで作った堆肥を使用。



写真提供:雨宮みずほ


Profile

雨宮みずほ(あまみや・みずほ)
ライター。街歩きや日本の手仕事、着物について雑誌や新聞を中心に取材、執筆。ほか、区民農園を機にベランダ菜園、ダンボールを使ったコンポスト堆肥づくりをスタート。循環生活研究所ダンボールコンポストアドバイザー、LFCエコアンバサダー、「千石ちいさな森」管理人。
instagram:@compost_green_life








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