デザイン:五十嵐 傑(pieni) イラスト:ペカ


はじめに

 長年、東京に住みながら、企画や編集、執筆といった仕事をしてきました。家では子育て、家事、親の介護をはじめ、家族の病気、入院、障がい、離婚など、行政の福祉窓口案内ができるほど福祉のお世話にもなりました。
 振り返れば、子どもの頃から福祉と背中合わせの生活。若い頃は障害児教育に関わっていたこともあり、福祉や教育分野で次の世代に残せることがやりたくなった私は、2009年頃から障害者施設を自分の足で訪ね歩くようになりました。

 当時、福祉施設に通う障がいのある人たちがつくる小物雑貨や焼菓子、パンといった製品は「授産品」と呼ばれていました。もっと女性が共感できる言葉にしたいと「社会福祉=ウェルフェア」と「公正な取引=フェアトレード」を組み合わせて「ウェルフェアトレード」と名付け、友人の結婚式の引出物セットをオリジナルでつくってみました。

 これを機に、印刷物制作のほか、障害者施設のものづくり研修、地域ブランディング、障がい者アートイベントのコーディネートといったお仕事を頂くようになり、「就労継続支援事業所B型」という非雇用型の障害者施設を中心に、たくさんのご縁ができました。

 施設に伺うと、社会と壁を隔てた世界で、一生懸命に頑張っているような違和感が拭えない一方、「もっとたくさんの人に知ってほしい」と思うような光景にも出会いました。
 日本人の原風景のような山の麓で、野良仕事をしながらみんなが笑顔で過ごす施設があったり、力強いアートで自己表現をする人たちが楽しんでいたり、時が止まったような空間で淡々と緻密な手仕事をする人たちがいたり。

 好き嫌いをあからさまに態度で示し、素のまま繕わない人たちの、かみ合わない会話が飛び交うカオスな空間。でも心地いい。ご近所の高齢者もやって来て大きな笑い声が響く。畑で一緒に裸足になって童心に返り、五感が開く感覚も味わいました。
 野山にあるもので、しかも昔ながらの手づくりで、籠や草履や、保存食や野草茶などができてしまう。一緒にやれば仲間意識も生まれるし愛着も湧く。そんなことも学びました。

 こうして、弱い立場の人たちの様々なコミュニティや施設を訪ねるうち、私はお役に立つどころか、自分が安心するための小さな旅をしている感覚になってきました。
 育った家庭でも、結婚後も、「自分が家族の面倒をみなくては」と気負いながら生きてきた私が、心穏やかになれるのはそういった施設を訪ねている時間でした。
 最近では、いずれどこか地方の自給自足的な施設に落ち着いて、「寝る所も食べるものも困らないおばあちゃんになれるかも」と、思っています。

 ここでご紹介するのは、観光地でも名所でもない。でも私にとっては、何度も訪れたくなるコミュニティであり、尊敬する方たちがいて、末長く応援していきたいと思う、魅力ある施設です。


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羽塚順子(はねづか・じゅんこ)

特別支援学級で障害児を指導後、リクルートでの法人営業などを経てフリーライターとなり、3000人以上を取材、執筆。2009年より社会的に弱い立場の人たちと共存する母性社会づくりをライフワークに取り組み、伝統職人技を自閉症の若者が継承するプロジェクトなどでグッドデザイン賞を3回受賞。
MotherNess Publishing


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