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ダッチオーブンで野外料理


●ダッチオーブンを楽しむには
 前々回、「キャンプで料理なんかに時間を掛けていられない。キャンプ地に到着したら、ビール片手にサッとできる料理を」などと書いた。なのに「ダッチオーブン料理」とは・・・しかし、安心して欲しい。実はダッチオーブン料理でも趣旨は全く変わらない。むしろ「さらに手間いらず」と言っても過言ではない。ダッチオーブンとは、高い気密性や効率のよい熱伝導のおかげで「勝手においしく料理してくれる調理器具」と言える。今回は「出来るだけ手間をかけずに美味しいダッチオーブン料理を楽しむ」ということをテーマにしたい。再び奥さんには「料理なんておれが全部作るから(ダッチオーブンが勝手においしく作ってくれるから)、お茶して待ってて」と言ってしまおう。
 ただ子どもたちには、火をおこしたり、材料を切ったりと積極的に協力してもらいたい。そしていつもにも増して大事なのが「準備」だ。つまり「お父さんが普段から台所に立つ」ということ。材料の買い出しから台所の洗い物、布巾の片付けまで、全てお父さんと子どもでやってみる。奥さんにとっては、不要なものまで買い込んでくるのが我慢できないとか、好き勝手に台所を荒らされるのが見ていられないなどという気持も十分に分かるが、ここはグッとこらえて見守って欲しい。いずれにしても、普段からの練習が何よりも大事なのである。

Q. どんなダッチオーブンを買えばいい?
A. まずは、家でも使える「10インチ・キッチン・ダッチ」を!
 初めて買うなら、10インチ・キッチン・ダッチという、台所のコンロやカセットコンロでも使用できる(足の付いていない)ものがベストだ。普段から使い慣れておくためには、このサイズが使いやすいと思う。
 もしあなたが「気になっているし欲しいんだけど、そんなに屋外で使うかな〜?」と悩んでいるのなら、家で使う目的で購入して、じゃんじゃん使うことを強くお勧めする。いつも作るカレーやシチューがとても美味しく出来るのは、蓋が重く圧力鍋の代わりになるからだ。そうそう、我が家で手羽元のフライドチキンを作る時は、必ずダッチオーブンで蓋をしてじっくり揚げる。こうするとジューシィでとても柔らかい逸品に仕上がる。まずは「家の台所で使う目的で買う」。これがキモだ。

Q. ほかに必要なものは?
A.炭用トング、調理用トング、蓋用リフター、厚手の革手袋、七輪、炭。
自作のリフター
 トングは炭用と調理用の2種、蓋の開け閉め用のリフター(蓋を持ち上げるための棒)、分厚い革手袋も必要。野外で使用する場合の調理用の火力は七輪と炭がベスト。
 リフターなんてそのへんに落ちている木切れで十分。ぼくは数年前に拾ってきたウバメガシの枝を使っている。長さを調整するためにノコギリで切ったのと、一度誤って焚き火に放り込まれてからは赤いテープを貼って注意しているのが、加工したといえば加工したところ。
 そして西部開拓映画には出てきそうもない「七輪」が、熱効率の観点からも、火加減の微調節にも良い。少量の炭で調理が出来る上に、調理スペースをとらないのでおススメだ。

Q.どんな料理がお勧め?
 我が家のダッヂオーブン料理で鉄板(鉄鍋だけど)なのは、次の五品。

①焼きイモ
 サツマイモを放り込んで弱火で焼くだけ。たっぷり遊んだ午後のおやつに。
 
②丸鶏の蒸し焼き

 丸鶏を放り込んで弱火で2時間。これだけ。
 ぜひ放り込む前に丸鶏の隅々まで観察してみよう。ここが手羽先だね、あ、ここがボンボチ、ここがセセリだね、と焼き鳥屋さんに通い詰めているお父さんならではの知識(不確かでもいい)を披露できるチャンスだ。食べている最中も、おっ、やげん軟骨が出てきたな、コリコリっとして旨いぜ〜と披露しまくる。
 丸鶏の蒸し焼きの話に戻ろう。我が家では蒸し上がった鶏を「わさび醤油」か「柚子胡椒」で食べるのが人気。そして食べたあと、底には鶏のエキスと脂が溜まっているはずだ。これに食べ終わった鶏ガラを再度放り込み、生姜をひとかけ入れて、湯を継ぎ足し、ものすごい強火で30分〜1時間煮込むと、鶏ガラからダシがでて最高のスープが出来上がる。「ものすごい強火」というのがキモ。

蒸し鶏後の鶏ガララーメン


以上2つは食材をダッチオーブンに放り込んで火にかけるだけ。

③ローストチキン

 丸鶏のお腹に、はちきれんばかりにニンニクを詰める。ダッチオーブンの下にセロリを敷き、ニンニクを詰めて塩コショウをした丸鶏を入れ、周りにじゃがいもやにんじん、かぼちゃなどを入れて焼く。上火(蓋の上の火)7:下火3くらいで2時間。野菜と鶏が素晴らしいハーモニーで見た目も素晴らしく、お父さんの株が一気に上る鉄板料理だ(鉄鍋料理だけど)。

④鶏ももバター醤油ごはん

 米4合を研ぎ、醤油を100ccほど入れたあと水加減を適量に(薄めに作って各自で塩や醤油を足すと良い)。その上に丸鶏の半身もしくは骨付きモモ肉を2枚入れ、バターも2カケ入れ、白米を炊く要領で炊く。はじめは強火、噴いてきたら超弱火、これで美味しく炊ける。出来上がったら「これでもか!」という量の浅葱を入れて混ぜる。簡単な上に、子どもたちが「美味しい〜!」と本当に歓声を上げてガツガツ食べる、大好きなごはんだ(清水国明さんのキャンプ場で教えていただいた)。

⑤牛テールのスープ

 牛テールを水と酒で煮る。4時間くらいが望ましい。塩と醤油で味付けし、もやしや針生姜、わかめなどを入れてひと煮立ち。ごはんにかければクッパになる。寒い時期、本当に身体の芯から温まる料理だ。そしてこの料理の美点は、失敗しようがないほど簡単であること。ダウンを着こみ吐く息が白くなってくる季節に、または時間があるときにぜひ。
 また、ダッチオーブンらしく、子どもたちと一緒に楽しめるのは「パンを焼く」ことだろう。子どもたちも大好きな料理だ。小麦粉と塩、バター、砂糖なんかを一緒にこねて、焼くだけ。イーストを入れて膨らませれば軟らかくなるし、砂糖を多めにして卵などを入れてビスケット風にしてもいい。この時の注意点は「下火は小さく、上火は大きく」ということくらい。いつも量も時間も適当だが、大丈夫。そのあたりも楽しみながらやってほしい。

Q. ダッチオーブン料理が出来るまでの料理
 ダッチオーブン料理が出来るまで待てない、という食いしん坊な方へ。せっかく火がおこっているのだから、火を使ってこの季節ならではの料理を楽しもう。我が家の定番は、サンマ/ニンニクの丸焼き/メザシや魚の干物/塩コショウしてきた豚バラ肉や手羽先/鶏もも肉に生ハムを巻いて/焼きマシュマロなど。今や、炭火や強い遠火でサンマをモクモクと焼くことが出来るお宅はどれくらいあるだろうか?野外でサンマを焼く、これはもう最高の贅沢だと思う。
 あとお勧めは、鶏もも肉に生ハムを巻いて持ってきて、そのまま焼くだけ、というもの。調度よい塩加減とジューシィさだ。家でフライパンでやってもいい。子どもたちに人気なのは焼きマシュマロだ。拾ってきた枝に挿して焼き目を付ける。「熱っ熱っ」と言いながら食べる、トロ~リとなったマシュマロが最高。
 なんだか酒の肴が多くなってしまったが、「こんなの作るぞー!」と気合を入れる必要はまったくなく、「火を囲んでお喋りしながら◯◯食べたいね」というものを普段からリストアップしておき、「あればいいね」という風に、力の抜けた感じで準備して欲しい。



 ぼくは決して、子どもや妻の受けを狙って「ダッチオーブン」を持ち出して料理をしている訳ではない。焚き火をおこし、その煙のそばで、ピート香の強いアイラ島で仕込まれたウィスキーをチビチビ飲みながら料理するのが、ただ単に好きなのである。
 でもやはり、ダッチオーブンの蓋を取ったときのみんなの驚く顔は、いい。こんな手の込んだ(ように見える)料理がこんなに簡単に出来るの〜?という驚きの声に、ますます嬉しくなる。
 時間がなければ簡単に、バーベキューやカレー、豚汁という選択肢ももちろんやむを得ない。しかし、秋の夜長に、熾火や炭火でじっくりと調理するダッチオーブンを見つめながら夜が更ける、というのもまた良いものだ。料理に慣れないお父さんの腕も、すべてこの鉄鍋が見事にカバーしてくれる。この季節ならではの美味しいものを、ぜひ野外で堪能して欲しい。


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