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山歩き

Q. 山歩きの面白さ、楽しみとは?
A.いつもと違う体験と達成感
 いま、子どもたちが「平らでない地面で歩いたり遊んだりする」時間や機会はどれくらいあるだろうか?でこぼこ道を歩くことは、まるで身体を使って解いてゆくパズルのようなもの。頭をフル回転し身体をめいっぱい使い、どこにどう足を置き歩いてゆくか。そういった行為が何より楽しい。転んで服が汚れたり、少々ケガをする程度なら、子どもにとっては良い経験だ。まず「でこぼこの道を歩く」こと自体を楽しんで欲しい。
 動植物との出会いも魅力だ。季節の花や樹木、飛び回る虫たち。ぼくは春先の里山歩きには必ずポケットに図鑑を入れて行く。彼らの名前を知り生態を知ることが、科学的な思考を養う第一歩だと思っている。
 そして家族で感じる達成感。「山歩き」は文字通り、山を歩くだけ。家族一緒にがんばって歩いていると不思議とコミュニケーションがはずむ。ぼくは、仕事が忙しく最近子どもと話せてないなぁ〜という時は、決まって山かキャンプに行くことにしている。家族みんなでがんばってはじめて山頂に立つことができ、そして無事帰ることができるという、何ものにも代えがたい「達成感」を共有して欲しい。

●子どもの年齢別 山の選び方の目安
【0〜2歳くらい】
 天気の良い休日に家族でお弁当を持ち、四季折々の自然が楽しめる自然公園や里山を巡ってみてはどうだろうか?2時間歩いてお昼ごはん休憩1時間、くらいからはじめてみることをお勧めする。ただ、子どもがこの年齢だと大人が子どもを背負って歩くことが前提になるため、親の体力と相談、ということになる。徐々に歩く時間を長くしてみて欲しい。
【3歳から6歳(未就園児)】
 子ども自身が歩くのが楽しくなる時期だ。近所の自然公園から里山、本格的なハイキングコースへとステップアップできる。天然木で出来た階段を登ったり降りたり、大きな岩の上を転ばないように歩いたり、段差が大きければお尻をついて降りたりと、歩く欲求が出てくる。4〜5時間の山歩きも出来る。先日、3歳の娘が前日までの雨で濡れた登山道の階段を下りていたら、見事にすっ転んだ。上から下まで泥まみれだ。「ふくがよごれちゃった〜」と泣き叫ぶ娘を見て「いい経験ができたね〜」と心底思った。父親はできるだけ黙って見守り、本当に危ない時にだけ手を差し伸べる。そして、できたことを褒めてあげて欲しい。



【小学校低学年〜小学校4年くらい】
 標高1,000メートルを超える本格的な山歩きにチャレンジできる年齢だ。岩をよじ登ったり、尾根筋を歩いたり、急峻な斜面に掛かったハシゴや鎖場(鎖をつかって登れるようになっているところ)を歩くことも楽しいはずだ。そうなれば3,000メートル近くのアルプスなどの山々に挑戦できるかもしれない。時間にして6〜8時間のコース。これくらいだと歩きごたえがあっていい。
【小学校高学年】
 3,000メートルを超える山域を縦走(山頂と山頂のあいだの尾根筋を伝って歩くこと)するなど、長距離を歩く体力がついてくる時期だ。1泊2日程度の泊まりでの山歩きを楽しんでもいい。
 もちろん小学校高学年で2時間程度の里山歩きを楽しんでもいい。年齢とコース、時間はあくまで目安。我が家では娘が5歳のとき10時間の登山を敢行し、大泣きさせたこともある。あくまで無理のない範囲で楽しんで欲しい。

●季節ごとの楽しみ方
【春・夏】
 花が咲き乱れ、新芽が芽吹き、目にも美しい季節。動植物・昆虫に興味を持つ最高のチャンスだ。初めのうちは「この花なんだろう?」と名前など分からないものだが、写真に撮り家に帰って調べてみると、親子ともに勉強になるだろう。そして昆虫が好きならたまらない季節だ。捕虫網と虫かごを持って山を歩いてみてもいい。子どもにとっては最高に幸せな時間だ。また涼を求めて沢沿いの木陰を歩くのも、この季節ならではの楽しみ。
【秋・冬】
 実はこの季節が山歩きのベストシーズン。虫が苦手というお母さん(お父さん)も、安心して歩いて欲しい。木々や虫たちは冬に向かってじっと草陰や落ち葉の下で準備をしている。紅葉を愛でたりどんぐり拾いを楽しんだり出来るのもこの季節ならでは。拾ったどんぐりを持ち帰れるようにポケットにビニール袋を入れておくのが、この季節の我が家の標準装備。



Q. 山歩きを楽しむ秘訣は?
A. 自分で計画した、「主体的な登山」を!
 「登山」にどんな思い出をお持ちだろうか?「しんどい」「つらい」「修行のようだった」と言う方もいるかもしれない。
 かく言うぼくも、学校の登山は、ほとんど楽しかった記憶が無い。たしか耐寒登山とかいう名前だった。どのあたりの山域なのかも分からず、どれくらいの時間がかかるのかも分からず、地図も持たず、ルートも知らされず、ただひたすら歩かされるだけ。学校の登山全てがそうとは言わないが、いかんせん主体性がない(もちろんぼくが事前の説明を聞いていなかった、ということも多分にあると思うが)。この「主体性の無さ」というのが登山では嫌な思い出になってしまう。楽しい登山というのは「自分で計画した登山」、つまり「主体的な登山」だ。
 今回は「お父さんと、自分で歩ける子どもで日帰り登山。天気の良い夏から秋の無雪期にかけて500mくらいの低山〜2,000mくらいの山を想定し、話を進めていきたい。
 登山は平たく言うと「必要最小限の荷物を担いで、自分の足で登って、自分の足で下る」というだけのこと。シンプルだが「最後まで、自分で自分の責任を取る」ということが、子どもを一回りも二回りも成長させるだろう。

Q. どんな山に登ったらいいの?
A.楽しく登れる山を見極める!
●子どもと一緒にルート選定する
 まず子どもが何時間歩けるのかを見極めること。徐々に難易度を上げていくことが大事だ。いきなり難易度の高いところに連れて行った子どもが「もう登山なんて嫌だ」となることは本望ではない。段階的にステップアップしていくことが望ましい。
 重要なのは、近所の里山だろうが、アルプスの峰々だろうが、「楽しく登れる山」であるということ。山頂に●●園がある、景色がとにかくいい、高山植物などの群生が見られる、登山道に鎖場があってちょっとした冒険が楽しめる、県で一番高い山である、沢がありオニヤンマの飛翔やミヤマカラスアゲハの吸水が見られる(捕れる)・・・など、なんでもいいから「これ楽しそうだよね」と子どもと共感できそうな山を選びたい。

●表記の2倍の時間を考えておく
 そして子どもの年齢にもよるが、登山マップに書かれている想定時間の「2倍」は見ておこう。休憩がことのほか長くなったり、高低差に足がすくみ歩けなくなったりと、いろいろなことが起こる。
 八ヶ岳連峰の西天狗岳2,646mを、唐沢鉱泉から西尾根を経由し目指した時のこと。子どもが5歳と2歳の時だ。絶景の第2展望台というところで「このまま登頂を目指すと帰路途中で日が暮れるかも?」というギリギリの時刻になってしまった。そこで安全を考え、妻と下の子、友人夫妻は先に下山することになった。自分はというと、せっかくここまで来たのだからと、上の娘を言葉巧みにそそのかし、山頂を目指すことにした。
 楽しく無事に西天狗岳に登頂したものの、案の定日は暮れ、娘は歩けなくなり、ヘッドランプを持たない不良父子は途方にくれた。「ママに会いたい・・・(泣)」と泣きじゃくる娘に「オレも・・・(泣)」と答えるしかないという、最低な父子登山の経験者のぼくが言うのだから、間違いない。決して無理をしないで欲しい。
 検討しているルートが長ければ、エスケープルート(避難路)を確認する。長大な登山道にショートカットで下山できるようなルートがあると安心だ。急な天候の悪化、子どもの体調不良などに備え、常に最短の避難ルートを確保しておく。
 さらに言うと「自分自身が一度は歩いたところ」が望ましい。いずれにしても、子どもと一緒に「ここがいいな」とか「ここの◯◯が見たいね」などと、準備自体を楽しんで欲しい。

Q. 何を準備していけばいい?
絶対に必要な装備は、靴、ザック、お弁当、水筒、雨合羽(レインウェア)、ヘッドランプ、地図、コンパス。大人はしっかりした靴、ストック、抱っこ紐(細引きやスリングでもよい)を。

 子どもの登山靴も販売されており、用意できればそれに越したことはないが、初めは履き慣れた運動靴で十分。ザックもいつも使っているリュックサックでよい。雨合羽はキャンプでも防寒や防風、そしてスキーシーズンにはスキーウェアとしても活用できる「防水浸透性素材」のものがいいだろう。わりと高価なものだが、4シーズン活用でき、結果的には安上がりだ。
 ちなみに、雨合羽とヘッドランプについては「今日は天気も良いし、日暮れ前には絶対に下山する」という計画の日でも、決して忘れないで欲しい。急な天候不順など山岳地帯では当たり前。たとえ500mの山頂でも、風があると登頂までにかいた汗と相まって、ものすごく寒く感じる。危険回避のための準備こそ一番大切なことなのだ。山に登るには、臆病に準備するくらいで丁度いい。
 そして読図(地図を読む)技術を。いま登山道は整備され、地図を持って歩いているほうが少数派だが、子どもの社会科の勉強にもなり、何よりこれも危険回避のための準備だ。「今どのあたりを歩いているか」が分かるのと分からないのとでは、疲労度合いも随分変わってくる。ぜひ地図をポケットに。
 また、父親がアクシデントで歩けなくなった、ではちょっと洒落にならない。しっかりと足首を保護できる、いわゆる登山靴やトレッキングシューズを履こう。さらにストックも、子どもたちに持たせておくにも良い装備だ。もし万が一子どもが歩けなくなった際に、背負子に加工できる(詳細はこちら)。そして抱っこ紐や、それに代わる細引きやスリング。小さい子どもが歩けなくなった場合、抱っこをして登山道を下る必要がある。そんな際に細引きが一本、あるとないでは大違い。用意しておこう。

Q. どんなことに注意すべき?
●大人も子どもも、荷物を持ちすぎない
 登山初心者は荷物をたくさん持ちすぎる傾向にある。荷物が重くて登山が楽しめないのでは本末転倒。できるだけ軽く、必要最小限の荷物にまとめよう。

●子どもの荷物を安易に持たない
 子どもにとって初めての登山であれば「しんどい〜」「もう歩けない〜」と必ず言ってくる。それが本当かどうか見極め(熱中症などで本当に歩けない子もいる)、大丈夫そうであれば、甘やかさない。登山は「自分の荷物を担いで、自分の足で登って、自分の足で下りてくる」という非常に分かりやすいスポーツだ。この基本は守りたい。

●「がんばろうね」「がんばってね」と言わない
 これは先日、八ヶ岳遭難対策協議会の方に教えていただいた。この一言で子どもの心が折れるらしい。たしかに、自分が言われたら「そんなん言われんでも、がんばってるわい」と悪態をついてしまいそうだ。

●いつでも子どもを背負えるように
 「自分の足で登って下りる」という基本に反するが、「負傷した(体調不良の)子どもを背負って下山」という最悪の事態を想定しておこう。ストックを使って背負う方法、抱っこ紐の活用など、なんでもよいが「いざという時」のための準備をしておこう。

●疲れたときは甘いものを
 チョコレート、飴、なんでもいい、甘いモノを口にすると元気が出てくる。子どもたちに準備させるとこれまた楽しい登山になる。

●天候が急激に悪化したとき、特に雷の場合はすぐに撤退
 大雨、暴風雨の場合は当たり前に撤退すべきだが、注意しなければならないのが「雷」。尾根筋で雷に打たれ死亡するという事故が今でも後を絶たない。午後から天候の悪化が予想される場合などは登頂を諦め、すぐに撤退を。雷の予報には十分注意して欲しい。



 登山ほど子どもの成長に良いスポーツもない。でこぼこ道や急坂、木のハシゴを歩くというだけで、子どもにとっては大冒険。そして基本は自己責任だ。自分で身の回りの準備をするのは当たり前。どんなに疲れていても自分で歩かなければならない。だれも助けてくれない。ただ、歩けば目的地にはたどり着く。そんなシンプルな自己責任。「しんどいしんどい」とさっきまで泣きそうだったのに、一息つくと「楽しかったね〜今日はたくさん歩いたね〜大冒険だったね」と笑顔になる。子どもなりに充実感や達成感を感じ、登山そのものを楽しんでくれているのだろう。
 これからの季節、山を歩くには本当に気持ちのいいシーズンだ。父子、家族での登山を、できるだけ多くの人に楽しんで欲しい。

●山歩きの装備品
ベビーキャリア(モンベル社、11年前のもの。今と比べて荷室が小さいが子どもを背負うとたくさんの荷物が運べないのでちょうどいい) ②大人用ザック(マムート社リチウムZ、これも10年程度使っている。20リットル、軽くてシンプル) ③子供用ザック(モンベル社、大人用を18リットルにしたもの) ④子供用ザック(ノースフェイス社トレイルランニング用、貰い物なので詳細不明) ⑤水筒(カスケード社) ⑥コッヘル(EPI社) ⑦ガス缶 ⑧コンロ(EPI社アルパインストーブ) ⑨食器類とオピネル#7ナイフ (⑥〜⑨は、昼食がお弁当などの時は持って行きません)

⑩サバイバルキット(ワンカップ焼酎のカップにライター、ナイフ、細引き、絆創膏などをセットしたもの。山仲間に教えてもらい愛用している) ⑪カラビナ ⑫シュリンゲ(⑪と⑫は急斜面などで上から引っ張って上げる時などに使用) ⑬抱っこ紐(①を持たない時には必須⑫でも代用可能) ⑭フリース(春先や秋口は必須) ⑮ストック(ブラックダイヤモンド社アルパインコンパクト、3段収納だと子どもが使う長さにもなって便利) ⑯アルミシート(100円ショップのものを切って使用。敷物や緊急時の⑮を繋げ背負子にする際に使用) ⑰カッパ(ゴアテックス製、防風防寒そして急な雨に必須) ヘッドランプ(LED) ⑲大人用登山靴(ラスポルティバ社製トランゴsエボ、軽い。ちょっとした雪山もこれ1つでOK) ⑳大人用登山靴(ローバー社製トレッカー、もう中3の時から履いているので27年履いている。「made in West Germany」が歴史を感じさせる。靴底のみならず中張やつま先も輸入元に補強してもらった。革製の登山靴はこういう履き方が出来る)
*これ以外に地図とコンパス。コンパスはシルバ社製が使い勝手がいい。いずれにしても、こういった装備品の多くが前回の「キャンプ」と重なっている。山歩きの延長にキャンプを考えると支出が少なくてすむ。
*リンク先で紹介した商品は、現在販売されているものと一部異なりますが、できる限り近しいものをご案内しています

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