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カブトムシ・クワガタのとり方

Q. いつの時期に?
A. 梅雨の晴れ間、梅雨明けがベストシーズン
 まず大切なのが「時期」。
「どうやったらとれますか?」と質問されるのが「お盆休み前」であることが多い。しかし、これでは遅い!
「お盆休みに子どもと一緒にいっちょカブトムシでもとるか!」ということだろうけど、ベストは「梅雨明け」「夏休みが始まった時期」だ。
 クワガタなどはもう少し早く、「梅雨の晴れ間」がベスト。もちろん地方によって違い、そして種によって違いがあるが、クワガタで6月下旬あたりから、カブトムシで7月上旬あたりからがシーズンと言える(太平洋側の温暖地帯)。だから、心構えという点では、「梅雨の晴れ間にいつでも出撃できるように準備」というのが大事。梅雨が明けたその日というのも、いい。だいたい気象庁も、夏晴れの暑い日に梅雨明け宣言をするから、その日の夜なんかもう最高。梅干しを漬けているご家庭があれば、目安は「梅を塩漬けにしたら準備」、その梅を天日干しにする「土用干しごろ(7月20日ごろ)がベスト」ということになるのである。
 いずれにしても「梅雨の晴れ間で今日は暑いなぁ」とか「梅雨が明けて暑くなったなぁ」という日がベストだと覚えておこう。

Q. どんな場所で?
A. ①木を探す、樹液を探す ②灯りの下を探す ③子どもに教わる
①木を探す、樹液を探す
 ひとつ目は、カブトムシやクワガタの成虫の餌となる「樹液」が出る木を探そう。どんな木が樹液の出る木なのか?クヌギやアベマキ、コナラなどの、いわゆるドングリのなる木、属名で言うと「クエルクス属」の木々だ。こういった林があれば、もう最高!カブトムシもクワガタも見つかったも同然だ。郊外の公園や森林公園、緑地公園なんかで見ることが出来るだろう。図鑑で調べてもいいし、インターネットで検索してみてもいい。
 そして、同時に「樹液」の出ている木を探してみよう。「樹液」とは、虫たちが傷つけた木から流れ出た養分が醗酵した液のこと。ちょうど、梅雨の晴れ間に林に足を踏み入れると、ぷわーんと林全体が甘いような酸っぱいような、いい匂いが漂うのが「樹液」の匂い。これを昼間のうちに探しておくこと。鼻に自信のある方は、鼻をヒクヒクさせて探してみよう。鼻に自信のない方は、樹液に集まる虫を探してみよう。そういった樹液が出ている木には、いろいろな種類の虫たちがすでに集まってきているはずだ。スズメバチ、カナブン、ヨツボシケシキスイ、ヒカゲチョウの仲間、タテハチョウの仲間もいる。お目当てのカブトムシやクワガタは見つけにくい時間帯だが、ブンブン音が聞こえたり、ヒラヒラ舞っているチョウやガを見かけたりする。こういった昆虫が寄っている木には必ず彼らは来る。この木を覚えておく。
おまけコラム○人口樹液の作り方
木がない、樹液もない、そして灯りもない、となった本当に最後の手段。自分で樹液を作ってみる、という方法を教えよう。カブトムシを捕る方法を書いた本はたくさん世の中にあるが、この方法が1番に出てくることが多い。どうしても!という方のために、秘伝の最高の人工樹液の作り方を。ビールで黒砂糖を煮て最後に隠し味でウィスキーをひとたらし。これだけ。ほんとにこれだけで、最高の人工樹液が出来る。これを脱脂綿に含ませてお箸を使って思いっきり木にぶつけて匂いを出す。
ただ、1番良い方法は天然の樹液の出ている木を探す、ということをお忘れなく。人間だって天然物と養殖物を比べたら、天然物が好き。人間が知恵を働かせて作った樹液と、大自然の木々と虫たちが共演して作った天然樹液。比べるまでもない。ビールやウィスキーは人工樹液にせずに、そのまま飲むに限る。

②灯りの下を探す
 これは「お手軽バージョン」。いまさら言うのもなんだが、懐中電灯を持っているとはいえ、夜の雑木林に身ひとつで入ってカブトムシをとろうなんて、酔狂な話である。まず子どもが未就園だと難しい。そもそも大人でも夜の雑木林は怖いもの。さらに道なき斜面を登り降りもするし、木にも登る。
 そして大人の方でも勘違いが多いのだが、カブトムシがちょこんと待ってくれている訳ではない。ムカデやヤスデなどの多足類がウヨウヨしているし、オオスズメバチはぶんぶんと羽音を響かせている。ガはひらひらと懐中電灯に寄って来るし、うっかり口を開けて上でも眺めていようものなら、小さな虫が口の中に飛び込んできて、これまた苦い。子どもたちにとってはちょっとした冒険と言っていい体験になるだろう。ただ、大変なことには違いない。
 そこで、こんな思いをせずにすむ方法が、この「お手軽バージョン」。雑木林付近の林道に水銀灯が光っていればその下を探すこと。これは、車をゆっくりと運転してもらって助手席から身を乗り出し、道路上を丹念に見回すという方法だ。例えば、水銀灯の下を捜索してみよう。結構な数のカブトムシやクワガタの類が「落ちている」はず。
 ぼくは、ある年捕れる数と、気温湿度の相関、月明かりとの相関などを調べ、夏休みの自由研究としたこともあった(懐かしい!)。

③子どもに教わる
 最後に、とっておきの「場所探し」の方法を。一番手っ取り早いのは「子どもたちの情報」だ。
 外遊びが得意な子どもたちは「カブトムシがあそこの木にいる」情報をよく知っている。ぼくたちの子どものころもそうだった。こんな「大人にとってはどうでもいい情報」をよく知っているのだ。子どもが昼間の間から雑木林でそわそわしていたら…それは「カブトムシがここにはいるよ」というサインなのだ。

Q. どういうふうに探したら?
A. ①昼間から探す ②隅から隅まで探す
①昼間から探す
 「場所」のところにも書いたが、夜になってクエルクスの木、そして樹液が出ている木を探すというのは至難の業だ。昼間から探しておくことがおすすめ。昼間はハイキング気分で、さっき書いたような探し方で十分。運が良ければノコギリクワガタやミヤマクワガタなどが見つかるかもしれない。ちなみに、カナブンやアオカナブンは昼間のほうがよく見かける。

②隅から隅まで探す
樹液の出ている木を見つけたら必ず裏にも回ること。樹上も見ること。たいてい欲しいものは探しにくいところにあるものだ。よく目を凝らして探してみよう。

Q. どんな服装で?
A. 長袖長ズボンは必須。
 最近、野山を歩いたり公園で遊んだりする親子の服装が、わりと良い服装、つまり「その服、汚しちゃっていいの?」という方が多い。おしゃれな七分袖にハーフパンツ、靴もおしゃれなスニーカー。これは非常にマズイ。
 カブトムシやクワガタを追うと、間違いなく服はドロドロになる。蜘蛛の巣は背中にこびり付き、靴は腐葉土や木で擦れて茶色に。ズボンは言わずもがな、葉っぱや草で色が染まってしまう。また、昨今「マダニ感染症(SFTS)」被害も増加している。
 真夏の夜に暑いと思っても、くれぐれも「汚れても良い、捨てても良い、長袖長ズボン」で出かけること。とにかく「全身泥んこ」を想定した服装でチャレンジしてほしい。きれいな服を着ていると、子どもも大人もどうしても気になって虫どころじゃない!

Q. 持ち物は?
A. 懐中電灯(ヘッドランプと手持ちの併用が望ましい)、捕虫網、虫カゴ。
これらは100円ショップのもので十分。昼間の偵察の時にも、小型の懐中電灯を持って行こう。木の胴の部分にクワガタが潜んでいる。

Q. とれない時はどうするか?
「こうすれば絶対にとれる!」と書いてきたが、相手のあること、自然の世界のことだから、当然ここまで準備していても、当然とれないときもある。天候だったり、先行者がいたり、時間帯の問題だったり、カブトムシの気分も悪いかもしれない……。
「どうしてとれないんだよう」「とれるって言ったじゃないか〜」など駄々をこねる子もいるかもしれない。しかしいない時はいない。とれない時はとれない。どういう気象条件で?どんなことがとれない要因だったのか?こういったことを考え、次に活かせばいいだけのこと。「必ずとれる」は、子どもの期待を裏切ってしまうひと言なのかもしれない。だから、出発するときに「もちろんとれる可能性はあるけど、カブトムシもお腹いっぱいだとレストランに来ないからね。とれないかもしれないよ〜!とれたらラッキー!」くらいに言っておくと良いだろう。
 また、道中は「夜の雑木林を歩くのって楽しいよね〜」、「夜しか見れない動物、たぬきとか見れちゃうかもね〜」と、夜や早朝の雑木林を歩くこと自体を楽しもう。ぼくも、未だに夜の雑木林歩きはドキドキする。どんな動物に出くわすのか、どんな昆虫を見ることが出来るのかが楽しみで楽しみで、「まあカブトムシとれなくてもいいや」と、楽しんでいる。

Q. 子どもがカブトムシをさわれないときは
「カブトムシをとりたい!!」と言って来たのに、いざとなったらさわれない。こういうケースってわりと多い。ま、結論から言うとさわれようがさわれまいが、どっちでもいい。さわれるさわれないよりも、夜の雑木林を歩けたこと、歩いている最中にいろいろな虫がまとわりついてくる、それをよくがんばって歩いたこと。懐中電灯と捕虫網で両手がふさがっていても、がんばって木を探したこと、こういったことを褒めることのほうが、次につながる。大人にとっても未知なる体験。あまり難しく考えず、子どもにもそれを楽しんでもらいたい。
 以上、色々と書いたが、自分の住んでいる地区に合わせた情報は必ず集めるようにしよう。カブトムシやクワガタはいつだって子どもたちのヒーロー、ヒロイン。そんなヒーローたちに出会い、そして少しでも彼らの住む環境やその世界に思いを馳せてもらえたら、望外の喜びだ。
 この夏、たくさんの子どもたちが彼らに出会えることを願って。


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