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五味太郎「もみのき そのみを かざりなさい」展




クリエイターユニットのMiyaUniさんが語る、
絵本と子どもと時間感覚


 イタリア・ボローニャの国際絵本原画展に入選後、国内外で絵本を出版するMiyaUniのおふたり。 小さいときから五味太郎さんの作品に親しんできたおふたりにその魅力を語っていただきました。


五味太郎さんの作品との思い出


 気づいたら身近に『言葉図鑑』があって何度も見ていました。幼稚園とかくらいかな、親に図書館に連れて行ってもらったときに、言葉が分かっているかどうかではなく、絵で選んでいたのだと思います。次に思い浮かぶのは『とうさんまいご』。五味さんは、読者を大人と子どもで分けていないというか、あくまでひとりの人間としてみているから、“父さんが迷子”というアイデアが生まれるのだと思いますね。

 あとは『らくがき絵本』。これにはめちゃくちゃ描き込みましたね。こっちが描きたくなるようにちょっとアシストする、五味さんがあえて読者に委ねていることを感じます。自分自身が本に入り込んだ体験をこんなにも描き込んでいいんだ、ということが可視化されている。そこがすごいと思いました。

 五味さんは子どもだからこういう絵、と分かりやすくするということはやってらっしゃらないのかと思います。以前どこかで読んだことですが、子どもに教えるという立場や、分からない者に対して分かる者が教える、そういうことに苦言を呈されていました。お子様ランチをつくるのではなくて、大人のご飯を子どもサイズにして出す、という例えをされていてすごく共感しましたね。子どもをなめるなよ、むしろごまかしているのは大人の方じゃないか、そういうところじゃないでしょ人間って、という思いが伝わってきました。

 きっと、五味さんはご自身のことが好きなのではないでしょうか。若いときからずっと自分を生きておられて、自分の軸を持っているのかなと。作品には作家の人間性がそのまま出るもので、作品をつくることは、すべてを露呈する、すべてを出す作業なんじゃないかと作り手として思います。どんな画材を選ぶのか、どういうプロセスで作るのか、どういう気分で過ごしているのか、ということはすべて作品に直結する。日々感じている違和感であったり、ささいなこと、そういうことを感じることを大事にしています。


MiyaUniさんの活動と絵本の思い出


 私たちの絵本づくりは、ボローニャの国際絵本原画展に出展しそこで入選したことをきっかけにスタートしました。自分たちを表現するときに絵本はいい媒体だと思いましたし、そもそも本自体が好きでした。

 2019年に出版した『しろいおひげなにたべた?』はちぎり絵という手法を使っています。つくりあげる絵を自分の手で持つことができる感覚がすごくしっくりきていました。そういう手の感覚のように、そばに置いときたくなるものを表現していきたいと思っています。また、この本の絵の口元には白いおひげがあります。当初は、口元に何かに付いているのって面白いねってスタートをしたんです。作り手がそういう感覚を生活の中でもっていれば、自然と滲み出てくるものなのかなと思いますね。

 本には、ページ数とか、めくるとか、形とか制約があり、そういう本だからこそできる可能性については意識しています。でも工夫はするけれど、その中から大幅にはみ出すことはしたくない。『さがしてみつけて! どこどこ? カメレオン』でいえば、本に付いているヒモ状のしおりにしかけをしようと思いました。

 『ぱたぱたえほん』では、本を開くという行為自体を面白くできないかなと考えました。ぜったいそうでなくてはいけないというわけではありませんが、本の可能性を探っていくという側面と、面白いアイデアがあればそれに従おうというのはありますね。

 本の形も含めて本自体がとても興味深いので、本という形でアウトプットしています。教養というか、こういうメッセージがある、ということよりかは自分たちの中に抱えている違和感や繊細なものを、興味がある分野で表現をしていきたいなと思っています。

 

『もみのき そのみを かざりなさい』を読む時間感覚


 この作品は文字が少ないですよね。絵を見て文字を見て、どういう意味か一瞬考えそうになって、また絵を見てというのを繰り返す。この一定の時間をかけながら読み進める時間感覚が、何年か前に行ったフィンランドの都市ロヴァニエミの景色と重なりました。12月で外はマイナス20度。体感はすごく寒いけどどこか暖かい、暗いけど明るい、その両方を感じられる不思議な感覚がありました。そして、この作品は少ない文字なのに読んでいる感覚がゆっくりというか、決してさっとは読めない。

 友人の結婚式でフィンランドに行ったとき、1日かけて式を行っていたんです。日本では2時間とか3時間とか時間が決まっていますが、フィンランド人にとっては、この人生で一度きりのイベントに来ていただいた方全員にコメントをいただくなど、時間のかけかたが日本とはまったくちがいます。ああ、結婚式の適正な時間っていうのはこれくらいなんじゃないかと思いましたね。一堂にこれだけの友人が集まって、みんなでダンスをしたりスピーチをもらったりするのは、1日かかるもの。それを短くしないというのは、本来の時間の使い方じゃないかと気づきました。

 文字を読むだけだとすぐに読み終えることはできるかもしれないけど、人によってはすごく長い時間をかけて読む方もいると思います。私は、ひとつのページを読んでは止まって、間に少し紅茶を飲んでみたりしました。本が持っている時間をいろいろと楽しむことができる本ですよね。時間をかけて読んだ後は、不思議と、この絵にはこの言葉だよな、とその配置に納得しました。




プロフィール




MiyaUni(みやうに)

 鈴木ひらりと鈴木雄大からなるクリエイターユニット。
 空間デザイン・グラフィックデザインなどの仕事を経て、2016年『ねずみくんとおおきなチーズ』でイタリア・ボローニャ国際絵本原画展入選後、国内外で絵本を出版。セラミック作品製作やワークショップなど幅広く活動をしている。
 ユニット名「MiyaUni」の由来は、猫の鳴き声「myao」と、フィンランド語で夢という意味を持つ「uninen」の組み合わせによる。「猫」には発見・喜び・日常・癒し、「夢」にはそれらをクリエイティブに表現していくという意味が込められている。


日付/2021年11月XX日
場所/森岡書店
記事/アノニマ・スタジオ
協力/清水洋平(清水屋商店代表)



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