アノニマ・スタジオWeb連載TOP > かぞくのブリコラージュ~自分たちで暮らしを作る、日常の発明記~ もくじ > チャプター2 その8 ブリコラ家族の「家族と一年商店」(最終回)
文・写真・題字/中村家
<< チャプター2 はじめに 連載もくじ >>
チャプター2
エピローグ
2020年、
ぼくたち家族がはじめた「かぞくとブリコラージュ」。
大きく、人生を変えたいと進みはじめた見切り発進の冒険劇。
大旗を振って、これからをどう生きるのか?と、まだ見ぬ世界を求めたギリギリ家族の大航海。
心強く誓ったあの日の言葉、今もぼくたちの胸に残っているだろうか?
連載のエピローグを書かせてもらうという事で、色々やってきた中で、良い意味でも悪い意味でも象徴的だと感じたエピソードの話をさせてもらおうと思う。
エピソード1その12で、「きぼうの船」を作った。ブリコラのテーマの定め方は、一言で言えば毎回“適当”なのだけど、その時に必要なものだったり、はたまた誰にも望まれていないものだったりも、勢いのまま作ってきた。
そんな中でも、「きぼうの船」はこの連載史上一番と言っていいほど、用途も実用性もないものを作った回だった。
ただ、自分が見たいものを作る。
そんな思いを抑えられず、気持ちだけが先行したものづくり。
とにかく何か、前に向かっていくんだという手応えが欲しかったのだと思う。
結局その船は、連載の記事になったあと、庭で子供たちのおもちゃとなり、朽ち果て、また廃材となり、いつかのブリコラの材料候補になった。
今では形無く消えた船を思う。
なぜ時間をかけて作るのに、ちゃんと残すこともせず、何度も同じようなことを繰り返しているのか?
なぞだ、謎。
その時間で、もっと有効的にやるべきことがあったのかもしれない。
しかし、あの頃立ち上がっていた気持ちは、コロナ禍の混迷した空気さえも寄せつけず、むしろ何かに守られているような、不思議な感覚があり、
「ぼくたちは前に進んでいる」
説明のしようがない、道が開けるイメージが湧いていた。
計画性皆無のデンジャラスファミリーは、こうして、やりたいことをあと先考えずとにかくやる、やりたくない事はやらない。
さんすうは小3レベルなので、お金の計算ができず、後々家計簿危険アラームが鳴っちゃったりして、その場しのぎのスヌーズが鳴り止まなかった日々もあったりして…。
前に進んでいると思っていたけど、実は恥ずかしいほどの勘違いで、気づけば全然、進んでいなかったのかもしれない。
数年たっても、あの頃想い描いた未来にはまだ、至っていない。
だけど、この連載をしていた長い期間、上手くいく時も、いかない時も、家族会議を開き、対話を重ねて、その時一番だと思うものを選び、時を重ねてきた。
何度も何度も失敗して、後悔しても、拾い集め、繋ぎ合わせ、取り繋いできた絆こそが、ぼくたち家族のブリコラージュなのだと思うことができた。
それが、この連載で得た最高の成果だった。
あの日作った船はなくなったけれど、ぼくらは今「きぼうの船」に乗っているのかもしれない。
気づけば私は一家五人の船長、なんとか沈没することなくギリギリ浮いてたブリコラ船。
船底に溜まった水を掬い上げ、そろそろバケツをオールに持ち替え、前に進む時なのかもしれない。
ここからが、はじまり。
ヨーソロー! 行きましょう。
中村俵太
<< チャプター2 はじめに 連載もくじ >>

中村俵太(父/夫)
「HYOTA」として空間デザインを生業にしつつ、中村家のあらゆる『家族』活動のディレクター的立ち位置も。決断力と実行力はあるけど計画や段取りは非常に苦手。人見知り。日本生まれ日本育ちなのに日本語がおかしい。極めて楽天的でポジティブ。家族愛は強いがピントがいつもややずれがち。
中村暁野(母/妻)
家族や生活をテーマに執筆活動を行なっている。理想を追って突っ走りがち。でもその突っ走りによって人生動かしてきたという自負もあるので、引き続き突っ走る気まんまん。ブリコラ生活の果て2021年夏「家族と一年商店」がオープンし小商店主という予想だにしていなかった人生展開もスタート中。
中村花種(娘)
繊細で敏感な子ども時代を経て、現在爆発的パワーで家族を圧倒する思春期真っ只中の14歳。家族以外の人には丁寧で優しく好感度大な人物へと早変わり。内弁慶の壁を越え、自分の世界を築こうと成長中。
中村樹根(息子)
マイペースでごきげんな7歳。人類みな友達的オープンマインド。小学生になってから大谷翔平に心奪われ、野球大好き。甘いもの大好き。虫歯になりがち。姉とはトムとジェリーのような関係。妹を溺愛中。
中村実芽(娘)
閏日に生まれてきた末っ子。家族の人気者。食べるの大好きで、隙あらばみんなと同じものを食べようとする10ヶ月。いつも落ち着いていて、生まれて以来、大泣きしたのは数えるほど。
コグマ(犬)
バター亡き後やってきた元保護犬。命名したのは花種さんで、韓国語で「さつまいも」の意味。番犬気質で家族以外には吠えまくるけど、優しい性格。困り顔がチャームポイント。
バター(うさぎ)
花種さんの膝に飛び乗るすきを常に伺っていた、アメリカンファジーロップのオス。2022年の3月、天国へ...。花種さんの部屋の前の、ユスラウメの木の下に眠っている。

家族カレンダー
中村暁野定価 1760円(本体価格1600円)
ひとつの家族を自身の家族で取材して制作する雑誌『家族と一年誌 家族』編集長である著者による初めての自著。ブログに綴った5年の間には、たくさんの幸せな日とそうでない日とがありました。「家族」を通して自分と社会に向き合い続けた実験の記録。一日々々のかけがえのなさを感じられる一冊です。
アノニマ・スタジオWeb連載TOP > かぞくのブリコラージュ~自分たちで暮らしを作る、日常の発明記~ もくじ > チャプター2 エピローグ
Copyright(c) Akino Nakamura , Hyota Nakamura , Katane Nakamura , June Nakamura & anonima-studio