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かぞくのブリコラージュ~自分たちで暮らしを作る、日常の発明記~かぞくのブリコラージュ~自分たちで暮らしを作る、日常の発明記~

文・写真・題字/中村家


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その10
 「秋のあきのアフタヌーンティー」for 母





11月はわたしの誕生日。母のパーティー計画を随分前から考えてくれていた娘の花種さん。いつもとちがうパーティーにしたい、3段のアフタヌーンティーセットにしたい!ということで、盛り上げるべくパーティーで使えるテーブルセットを家族で作ってみることに。以前会場装飾で使い、庭に積まれカラカラになっていた木の幹や枝と、食器棚の中で眠っていたあまり使わなくなった木のお皿やカトラリーを組み合わせて、季節にもぴったり合うテーブルセットができました。娘がつくったお菓子を乗せたら、これまさにアフタヌーンティー!たのしいパーティーとなりました。










秋のあきのアフタヌーンティーまでの日々
(2020年11月1日~22日まで)




11月1日

現在学校が秋休み中の花種さん。休み中の親子げんかの火種は算数の宿題。教える方も教わる方もイライラ感漂う…。概数の概念を伝えるのに言葉を尽くすも、あんまりわからなかった様子。


11月2日

税理士さんに12時までに送らなくちゃいけない資料があるのに、いろいろあってスキャンもコピーも自宅からできないという事態。ひょーさんのアトリエから送ろうと試みるもスキャンがやっぱりできなくて、結局スマホでぱしゃりととったやつを送った。すべてがギリギリだった…。昨日から謎の蕁麻疹が下半身にたくさん出ている。痒い。




11月3日

山は日に日に紅葉。蕁麻疹は広がるばかりなり。散歩に出ていた花種さんと樹根。お隣の玲子さんから花梨をもらってきた。花梨の匂いってたまらない。蜂蜜漬けにする。




11月4日

お手伝い大好きの樹根の、お手伝い大変問題。手伝ってくれることによって料理に倍の時間がかかる。気持ちは嬉しいんだけど…。今日はピーマン炒めを作ってもらった。でも、いろいろなことをよく見ていて、手順がわかっていてびっくりする。今後には大いに期待(今は大変だけど)。


11月5日

花種さん、学校で「北欧神話」劇の練習がはじまったらしい。シュタイナー学校はとにかく劇にたくさん取り組むのですが、4年生では「北欧神話」に取り組むのです。なんと一人で言うセリフがあるらしい!花種さんが?!一人でセリフ?!という感じなのだけど、家で配役のことやクラスメイトのことをずっと話していて、とても張り切っている。



11月6日

今日は樹根の保育園で「ランタンウォーク」。暗くなった園庭に集まり、子ども達が自分で作ったランタンに火を灯し、歌いながら暗闇の中を歩くという秋の行事。山の上にある園なので、日が暮れるとほんとうに真っ暗で、その中に揺れる灯りと子ども達の歌声はなんとも美しい。最後にいつもあたたかいスパイスオレンジジュースをもらえるのだけど、歩きながら「はやくあのジュースのみたいな~」と樹根が言っているのを母は聞き逃さなかった。




11月7日

今日の樹根はココアケーキを焼いてくれました(ふう…)。花種さんに朝ゴミ捨てに行って帰りにお花もつんできて~、と頼むと半泣きで帰ってきた。盛大にこけて、膝を激しくすりむいたらしい。「あ、お花は?」と聞くと「花なんて摘んでる場合じゃないってわからない?!!」とお怒り。そうですよね。湿疹がひどくなるばかりでドクダミのチンキにミントの精油を混ぜたものを塗りたくっていたけれど、痒み治らず、市販薬をネットで注文。




11月8日

ひょーさん、最近仕事依頼が増えてきて、今の我が家の状況としてはありがたい部分はありつつ、自分たちの今後の方向性を明確に公にしていない(公にするための準備がまだ整っていない)故に、いろいろ難しい部分もある。やっていきたいことと、求めてもらっている部分で矛盾が生じてしまったり。矛盾なく仕事をしていくためには、早急に形にしなくちゃいけないことがたくさんある…。そんなこんなで忙しいひょーさんはここのところ休みの日もアトリエへ。紅葉がとてもとても綺麗なので、わたしは子ども達と車で30分ほどの山の上の公園へ。お弁当は間引き大根と間引き人参のソテー、大根葉を混ぜ込んだおにぎりなど。




11月9日

岡山のおばあちゃんが亡くなった。わたしにとって母方の祖母。ずっと入院していたのだけど、コロナで面会できないまま時間が経って、いよいよ危ないとなっても、会うことはできないと言われた。でもPCR検査をしたりいろいろ努力と根性を見せた結果、母は会うことができて、母を通してわたしも子ども達も携帯越しに、顔を見合って話すことができた。スカイプやらズームやらフェイスタイムやら、いろいろ発達した現代社会よ、ありがとう。こんな現代だからコロナが発生したのだとも思うけど。おばあちゃんが生まれ、生きてきた時間。戦争が起こって満洲で暮らして、日本に帰ってきて焼け野原だったとこから携帯でテレビ電話(っていうの?)も当たり前の今現在まで。昔も、今も、止められないものも争いたいものも、いっぱいあったはずだと思う。でもどんな時にもおばあちゃんの暮らしの中に、当たり前の「しあわせ」だってあり続けた。おばあちゃんはきっと、しあわせだった。今そう思って見送れた、わたしたちも、しあわせなんだ。



11月10日

先月ひと段落したと思った夫婦ケンカの嵐。ひょーさんのやりたいこと・やるべきこと問題もお互い納得いく形で進めていく、という話に落ち着いた…と思いきや、またもや突拍子もない計画を持ち出してきたひょーさん(早いな…)。なので、「今はいいと思わない。うまくいかないと思う」とはっきり表明しつつ、「なぜそう思うか」という、ビコーズ部分もちゃんと説明した。にもかかわらず、前のめりなやる気がみなぎっているひょーさん…。不安だ…。




11月11日

毎日学校から帰ってくると北欧神話劇の練習の話をしてくれる花種さん。日々衣装作ったり小道具作ったり、ものすごい時間をかけている様子なので、ひょーさんが「学校って今劇の練習だけしてるの?」と聞くと「ちがうよ。劇の練習以外に枝豆取りもしたし、縄跳びもしたよ!」と言うので、劇と枝豆と縄跳びか…と、ふたりで感心(?)。そして図書館で借りた本を見て花種さん作ったパイはなかなか美味しかった。フィンランドのヨウルトルットゥという星形のパイ。「もうすぐママの誕生日だよね」「ママの誕生日会を計画してる」と最近さかんに言ってくれる花種さん。そうなんです。もうすぐわたし36歳になるのです。



11月12日

ひょーさんが持ち出してきて、わたしが止めた計画。強行する勢いを感じて、この先起こる様々なことを想像するとさすがに泣けてきた。今現在やりたくて、やるべきで、でも形になっていないことが山積みなのに、どうして「気持ち」だけで計画も段取りもなく新しいことに飛び出していこうとするんだろう?やりたい気持ちに正直に、関わる人には誠実に、全力で動いてる反動としわ寄せはいつも家族にやってきてるってこと、どう思ってるの?とつい先日話あったばかりなのに。さめざめと泣くわたしを見たひょーさん、悲しげに一言。「のんちゃん…かわいそう…」
うん、かわいそうだろう。一体全体誰のせいなんだーと、もう笑えてくる域。




11月13日

近所の友人、くまちゃんが「こんにゃくいもを手にいれたので、作ってみた」と手作りこんにゃくを持ってきてくれた。のり、ゆず、プレーン(?)。さしみこんにゃく用の手作りの味噌も一緒に。くまちゃんはなんでも作れる。そして何作ってもおいしい。こんにゃくもめちゃくちゃおいしい…。ひょーさんは今日からhito pressの展示で香川へ。新しく計画しかけてたこと、ひとまず「今はやらないことにした」らしい。わたしの反対表明と涙で踏みとどまった様子。「でも、いつか絶対やる」と。うんうん、いつかやったらいいと思う。内容に反対してるわけじゃなく、今やることじゃないでしょってことだからさ。




11月14日

11月の終わりから、クリスマスにむけて始まるアドベント用に家で使うろうそくを花種さんと樹根と作った。ミツロウを溶かして、なんどもろうそく芯をつけて。でこぼこでぶかっこうだけど、それも手作りの醍醐味ということで(うまく作れる人は作れますけども)。




11月15日

昔、お世話になった方が八ヶ岳のデコボタニカルという場所で新しい企画を始めるというので、子ども達を連れて北杜市へ。デコボタニカルは広大な敷地をパーマカルチャーガーデンに作り上げている素敵な場所だった。そんな場所で食や音楽をゆったり楽しめるイベントで、子ども達も一緒に楽しく過ごせた、いい日だった。




11月16日

せっかく八ヶ岳にきたからと一泊して、北杜市のgallery traxにも行ってみた。花種さんを妊娠していた頃、ひょーさんと来たgallery trax。10年振りくらい。ちょうど、石川直樹さんの『STAY / HOME / WORK』という展示がやっていた。緊急事態宣言下の中、自宅から一歩も出ないまま撮影したという写真たちの展示だった。10年前に印象的だった、ガラス窓に書かれたhopeという文字が午後の日差しで光って見えた。



11月17日

寒かった10月とうってかわって、ずっと晴れて気持ちのいい11月が続いている。家に遊びに来てくれた友達に樹根が「おいそがしいところ、きてくれてありがとうございます~」と言っていたので、笑ってしまった。




11月18日

吉祥寺でアノニマ・スタジオの村上さんと打ち合わせ。村上さんが今日言ってくれた一言は、これからずっとわたしの支えになってくれる気がする。文章を書いてきたこと、文章を書いていきたいこと。自分の中で形にならないまま、それでも育んできたようなものたちを、形にしていきたい。夜、ひょーさんが香川から帰ってきた。




11月19日

ずっと花種さんが計画してくれていたわたしの誕生日会。なんとそれが今回のブリコラにもなるという展開。最近パーティーの装飾などにもとてもうるさい、お祭りガール花種さん。3段セットのアフタヌーンティーを作りたい、と言ってくださり、3段のお皿なんてないよ…つくるか!せっかくならアフタヌーンティーセットつくるか!ということで。明日が誕生日なんですけどね、時間ないし、平日だし、ということで週末にブリコラ作業もパーティーもすることになりました。ハードスケジュール…!




11月20日

早朝、きれいな朝日を見ていると花種さんが起きてきて「ママおめでと~」と手紙をくれた。隣町のmomoicecreamにアイスを食べに行ったり、温泉に行ったり、平和に楽しく、36歳始まりましたわ。



11月21日

アフタヌーンティーセットって、どうやって作ればよいのかしらね?って考えて、庭に放置されていた大量の枝(前に舞台セットで使ったもの)とあまり使わなくなってしまった木のお皿とカトラリーを材料に、組み合わせて作ってみることに。枝の形を生かしてなかなか可愛いものができそう!




11月22日

暗くなるまでにパーティー開始!!というミッション達成に向け忙しい日曜日。お皿やカトラリー制作の仕上げをひょーさんと樹根が担当しつつ、お皿に盛るお菓子制作は花種さんが担当。そしてわたしは必要なものの買い出しや、3段分のお菓子作りに没頭する花種さんの側でお皿洗いなどを担当。準備に加わりすぎて、驚きや新鮮さはまったくなかったけども、みんなで一生懸命、わたしの誕生日会作ってくれているのを存分に味わえた。ありがたいねえ…。そして、これは間違いなくアフタヌーンティーだ!っていう、テーブルセットが完成。レアチーズケーキ、トリュフタルト、フルーツチョコがけ、お菓子もどれも美味しかった。見た目先行の枝で作った巨大カトラリーは意外に使いやすかった。乾杯して早々、樹根がココアの入ったグラスを倒して白いテーブルクロスがまっ茶色に染まった…。でも「なんか土みたいで、このテーブルセットにあってない?」なんて言ってる子ども達。それを見て、うまくいくこともいかないこともアイデアと前向きさを持って、越えていこうとするところは、きっとひょーさんから受け継いだんだな、と思った(わたしに足りないのはそういうところ)。腹立つことも不安なことも、山のように積まれている現在だけど(ひょーさんはひとかけらの不安もないそうだけど)、お互い欠けすぎてる部分をギリギリ補いあって、ギリギリでも進んでいけたら、それでいい。そうしみじみ思った。



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中村俵太(ひょうた(父/夫)

「HYOTA」として空間デザインを生業にしつつ、中村家のあらゆる『家族』活動のディレクター的立ち位置も。決断力と実行力はあるけど計画や段取りは非常に苦手。人見知り。日本生まれ日本育ちなのに日本語がおかしい。極めて楽天的でポジティブ。家族愛は強いがピントがいつもややずれがち。

中村暁野(あきの(母/妻)

家族や生活をテーマに執筆活動を行なっている。理想を追って突っ走りがち。でもその突っ走りによって人生動かしてきたという自負もあるので、引き続き突っ走る気まんまん。ブリコラ生活の果て2021年夏「家族と一年商店」がオープンし小商店主という予想だにしていなかった人生展開もスタート中。

中村花種(かたね(娘)

繊細で敏感な子ども時代を経て、現在爆発的パワーで家族を圧倒する思春期入り口の13歳。極度の内弁慶だったけれど藤野暮らしの中で壁を越え、自分の世界を築こうと成長中。現在両親のやることなすこと、言うことスベテが気に入らない反抗期真っ只中。

中村樹根(じゅね(息子)

マイペースでごきげんな6歳児。人類みな友達的オープンマインド。恐竜がだいすきで1日の半分、心は恐竜の世界へ。甘いもの大好き。虫歯になりがち。姉とはトムとジェリーのような関係。

バター(うさぎ)

花種さんの膝に飛び乗るすきを常に伺っていた、アメリカンファジーロップのオス。2022年の3月、天国へ...。花種さんの部屋の前の、ユスラウメの木の下に眠っている。



家族カレンダー

中村暁野
定価 1760円(本体価格1600円)
ひとつの家族を自身の家族で取材して制作する雑誌『家族と一年誌 家族』編集長である著者による初めての自著。ブログに綴った5年の間には、たくさんの幸せな日とそうでない日とがありました。「家族」を通して自分と社会に向き合い続けた実験の記録。一日々々のかけがえのなさを感じられる一冊です。


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