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かぞくのブリコラージュ~自分たちで暮らしを作る、日常の発明記~かぞくのブリコラージュ~自分たちで暮らしを作る、日常の発明記~

文・写真・題字/中村家


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その6
「空時計」for 娘





数にまつわることが苦手で、実は時計の見方もあやふやなままの娘。時計の数字は12まで。でも1日は24時間。針は3本、それぞれ違うスピードで時を刻みつつも、ひとつの時間を示してる…。考えてみると案外難しい時計の見方。かつてセット製作で同じものをいくつか用意していた時計。それをふたつ並べて、AMとPMで真ん中の扉をパタンと切り替える時計を制作。時間を感覚で捉えられないかな、と文字盤はその時間の空の色を塗って…みたところ、気づけば結局数字からは離れてしまった!けど、娘らしい時計ができました。










空時計までの日々
(7月8日〜31日まで)




7月8日

ものすごい雨。九州が大変なことになってる…。都内のコロナ感染者も日に日に増えてる…。ふと花種さんのリュックを見たら、数日分の宿題を提出していない(やってはある)ので注意したところ、よくもまあ…というほど悪態をついてきたので、怒り心頭。口聞いてやるもんか、と無視してたらお風呂あがりにテーブルに手紙が。氷をいれた炭酸水も。その上、ベッドでマッサージもしてくれた。反省した模様(?)。宿題、明日提出するって。



7月9日

また樹根が、鼻水と咳で保育園お休み。昨日作ったやることリスト。(1)人参の葉っぱでジェノベーゼを作る(2)紫キャベツでザワークラウトを作る(3)発酵してきたスモモシロップの実を取り出してスモモケーキを作る。(1)(2)は達成できたけど(3)にはたどり着けず…。ひょーさんは打ち合わせで東京へ。次回ブリコラージュはfor父のレコードプレイヤーを作ろうか、と話している。普段音楽といえばApple MUSICにお世話になっている我が家。レコードというものを子どもたちは摩訶不思議そうに見ている。「この線で音楽が鳴るんだよ」「どういうことおおお〜〜〜?!なにこれ〜〜?!」と。考えてみたらiPadひとつで音楽が無限にかけられるってのも、本当に摩訶不思議だけどな。レコードで音楽を聴けたらわたしたちにも、なかなかいい。


7月10日

引き続き樹根お休み。今回は喘息症状というよりただの風邪、という感じ。ほぼ1日中寝て、回復に向かう感じがわかった。離れると起きて泣くので、添い寝しながらこっそり読書。早川ユミさんの『野生のおくりもの』。夜、樹根がうどんを食べたいといったけどひやむぎしかなく、あたたかいにゅうめん風に。



7月11日

延期になっていたシュタイナー学園の入学式が3ヶ月越しに行われるので、上級生である花種さんも少しおめかしして、興奮して登校していった。もう1年生の子達の顔も名前も知ってるし、なんなら毎日のように遊んでいるけれど「入学式」ってやっぱり特別。3年前の花種さんの入学式を思い出すと、今でも胸が熱くなる。あの日、きっと素晴らしい学校生活になる…!と感じた予感以上の日々を、今花種さんは謳歌してる。ほんとに「謳歌」という言葉がぴったりすぎるよな、と見ていて思うくらいに。下校のお迎えに行くと、思い思いに着飾った1年生と保護者の方々がたくさん。おめでとうございます、と何度も言っていると、樹根が「いいなあ。いちねんせいは。じゅねもおめでとうっていわれたいよ」と。



7月12日

ひさびさの晴天で、散歩したいという子どもたちと近くの山道を歩いたら汗だく。ひょーさんが立ち上げている新しいプロジェクトは2つあるのですが、なんとひとつがもうちょっとでリリース。準備や打ち合わせでバタバタのひょーさん、夜遅くなるというので、3人で創作中華「大和家」に夕ごはんを食べに行く。店先に地元の有機野菜がいろいろ売っているのだけど、今日はなんと桃が並んでいた。1個50円!大喜びで6つ買った。お風呂あがりにテラスに出て、水を飲みながら子どもたちといろいろ話す。風が通り抜けて気持ちよい。都内のコロナ感染者が200人を越えてる、とニュース。


7月13日

桃は2つそのまま食べて、残りの4個は水と素精糖と一緒に少し煮て、シロップ漬けに。冷やして食べたらたまらない美味しさ。オーブンを新調したので、藤野の地域通貨「よろず」で、今まで使ってたオーブンをもらってくれる人を探したところ(萬の参加者はメーリングリストで情報を流し合うのです)投稿して3分で「遊び専門家かっしー」さんから連絡が来て、もらってくれることになった。かっしーさんは、全国各地で子どもたちと本気で遊ぶということをやっているそう。自宅まで取りにきてもらうので住所を伝えると、「大和家」の桃を手土産に来てくれた。使い込んだオーブンをもらってもらえて、桃までもらって、なんてありがたいのでしょう。藤野で知り合いがまた1人増えたのも嬉しいし。と、いうわけで桃天国。

7月14日

学校で兆の(くらい)までを学んでいるらしい花種さん。帰ってくると「わかるようになってきた!!」と、とても嬉しそう。「ママ、いろいろ問題出して」、というので2,199,884,559,801等とわたしが適当に書いた兆の位までの数字を読み上げていく、ということを夕飯まで何度もした。花種さんは数字に関することが非常に苦手。兆の位の学びも、多分「位」という概念の把握が難しかったのだと思う。まわりの子たちがパッと理解できる中、なかなか理解できない自分へのもどかしさも、多分あると思う。それでも「わかるようになってきた、うれしい!」と、学びを純粋に喜んでいる姿を見て、なんだか感動した。何かを学ぶこと、何かを理解できることって嬉しいこと。誰かや何かと比べることは必要ないこと。自分の嬉しさを重ねられている姿が、すごくすごく嬉しかった。




7月15日

Gotoキャンペーンやるんだろうね…止められないんだろうね…と朝から重苦しく、ひょーさんと話す。ひょーさんの新プロジェクトリリースまであと数日。いろいろやらなくちゃいけないことも、やりたいこともたくさんあるのに、暗い気持ちに引きずられる。太陽がちっとも出てきてくれないせいもあると思う。



7月16日

雨雨雨雨。ずっと雨。梅雨に入る前「雨は植物に大事なんだよ」と話していたからか、ため息をついていると樹根が「あめはだいじなんだよ〜」と諭してくれる。だけど今年は降りすぎだー。毎週野菜を届けてくれる宮本さんに「大変ですよね」と言うと「野菜は調子悪いです…」と小さな声でおっしゃっていた。届く野菜も少ない。こんな気候の中宮本さんが育てた野菜。大事に食べよう…。


7月17日

今日は学園で夏の祝祭。毎年全校生徒が校庭で輪になり、七夕の短冊と笹を燃やし、その炎の上を高学年の子たちは飛び越えるのだけど、今年は雨がじゃんじゃん。「プラムとスイカも貰えるはずなのに」と心配そうに登校する花種さん。わたしは濱本奏さんというフォトグラファーの女の子にインタビュー。奏さんは19歳。もうすぐ、ひょーさんが立ち上げたhito pressという出版レーベルから写真集を出すのです。写真展もあるのです。奏さんに作品の話を聞いた。きれいで、でも見てると不安を覚えるような、揺らいでいるような、作品。決まっていた写真展がコロナで開催できなくなってしまった奏さんのことを知って、ひょーさんは若手のアーティストの作品集を出版するレーベルを作ろうと決めた。写真展の場も一緒に作ろうと決めた。表現されるべき表現が、されるべき形となり、この世の中にあるべき居場所を生んでいかなくちゃいけない、とひょーさんは思ってる。それは今後ひょーさんがやっていくことのひとつめの軸になる。(軸はもうひとつあるんだけど)。「ものごとの最初から最後にまで、責任を持つ」というのが今後仕事していく上で大きな核というかテーマになっていくのだと感じてる。今まで「ものごとのいいとこだけ」を見せてきた。いいとこの前とか後には、語りたくないことや直視しないようにしてきたことがあった。全部を明らかにする。明らかにできることだけ、する。そういうことをしていく。わたしはhito pressでももうひとつのプロジェクトでも、そんな明らかにしていくべき、ものごとの背景やストーリーを文章で伝えていく手伝いができたらと思う。帰宅した花種さんに祝祭はやったのか尋ねると、雨で中止だったけど、代わりに体育館で赤い布を炎に見立てて揺らして、そこを飛び越えたらしい。


7月18日

ブリコラージュ。計画撤回して、時計を作ることになった。というのも、数字関係苦手な花種さん、実は時計もまだ読めない。AM/PMで同じ数字の時間が2回あるのも、長い針が差すのは、差してる数字通りの分数じゃないっていうのもややこしい様子。それで、以前セット用に同じ型の時計を2つ買ってたのを思い出し、それを2つつなげてAM/PMで別々に見れる時計を作ったらどうかな?と盛り上がってしまったのです。というわけで、レコードプレーヤーは次回…。



7月19日

久しぶりの晴れ。草抜きを怠りボーボーになってしまった庭の畑の草を抜く。トマトをたくさん収穫。時計の設計図をあーだこーだと相談。


7月20日

赤紫蘇を煮出してシソジュースに。煮出した後の紫蘇はカラカラに乾燥させてふりかけに。1年分のふりかけができたと思われる。



7月21日

ふと、手を比べたらわたしより花種さんの手の方が大きい。指は細く長く、爪の形もスッとしてる。娘だけど、わたしの小さくてずんぐりした手とはまったくちがう。わたしは148センチしかないので、背も今年中に抜かれてしまうかもしれない。奏ちゃんのインタビューの原稿を書く。東京の感染者はぞくぞく増えている。これからもっともっと増えるのだろうな…。先が見えないことは多いけど、見えることもある。それを形にしてくのみ。



7月22日

ひょーさんは掃除もできるし、料理もできる(ようになった)。子どもたちと遊ぶのも好きだし向き合う気もあるのもわかる。でもそれらすべて「できる時にやる」のと「毎日やらねばならない」のって、重みが全然ちがうよな、と思います。というのもなんだか眠れなかったとかで、5時頃ベッドに入ったひょーさんが、起こしても起きてこず、9時半くらいまで寝てて、結果掃除洗濯朝食お弁当ごみ捨てといった家事、子どもたちにまつわる色々も全部わたしがやらねばいけなかったことに、イライラ募っているのであります。

7月23日

わたしは怒っている時、止まっていられずぐるぐる動き回って家事をしながら言いたいことを機関銃のように言い続ける。なので怒ると無意識の間に家事が片付いてることが多い。今日もお皿を洗い、掃除機をかけ、洗った皿を拭きながら、昨日からイライラしていたことをひょーさんにぶちまけた。今は仕事は移行期間。確かな安心とか安定とかはないのはなくて当然。基本は呑気だけど、たまに怖くなる時もある。イライラのきっかけは些細なことだけど、些細なことでイライラしてしまう背景には、不安や怖れが隠れてたりする。隠れてる感情を表に出すのは大切だと思う。夫婦でワーワー言い合って疲れたけど、話してよかった。都内はコロナ感染360人越えらしい。



7月24日

終業式。クラスメイトの1人の子の発案で、一学期の感謝を先生に伝えよう、と先生にないしょでみんな花束と手紙を持っていくことに。子どもがそんな粋なことをするなら親も先生にお礼を伝えよう、と下校時刻に集まると、子どもたちが先生を囲んでお礼を言っている。先生涙。休校や自宅学習…大変な一学期だった。夏休み明け、みんな元気で会えますように。



7月25日

ブリコラージュ時計をふたつ並べた時計の間に扉をつけて、AMとPMで扉をぱかぱかっと閉じたり開けたりして切り替えるのはどうかな、と話す。時計の文字盤は12までしかないけれど、1日は24時間あって朝の9時と夜の9時はちがうわけで。そのちがいを空の色で表現するのはどうだろう?時計の文字盤のところにその時間の空の色を塗ったら、感覚的に時間を感じられたりしないかな、と。「空のグラデーションは描ける思う!」と花種さん。


7月26日

カビがすごい。カゴや木のカトラリーに一気に青カビが…。シーツも洗ったのに、結局雨。もうやけっぱちな気分。




7月27日

樹根に「死んだ後ってどうなるんだっけ?」と尋ねられ花種さんが「天国にいって生まれ変わるんだよ」と。そして「でも生まれ変わってちがうママのところに生まれちゃったらどうしよう」と、2人が不安気に話している。樹根に「ママ、ずーっと死なないでね」ともお願いをされた。なぜか死にとらわれていた今日のふたり。




7月28日

時計を分解して、文字盤の部分の形に紙を切り取ったり、ふたつの時計に合わせる扉を木で作ったり。夕方、時計の空の色をたくさんグラデーションにしたいから、とじいじの家に絵の具を借りに。じいじは絵描きなのです。じいじのアトリエで絵の具を選ばせてもらう。「いっぱい絵の具使うよりも、限られた絵の具を混ぜて色を作ったらいいと思うよ」と、アドバイスをもらいながらアクリル絵の具を借りた。奏さんの展示スタートと写真集発売を間近に控えて、ひょーさんはてんやわんや。



7月29日 

AMの時計は濃紺やグレーから始まるグラデーションで、PMの時計は薄い青から始まるグラデーション。塗ったところが渇いたので、文字盤を数字のステンシルにしてみたところ…「せっかくのグラデーションが数字が来るとちょっと台無しじゃない?」「なんかオドロオドロしい感じがする…」「もう数字はなしで、空のグラデーションんだけにしようよ」数字が書いてないと時計の勉強にはならないんじゃ…という思いが湧きつつも、描き直し決定。やってみて、やりなおしてみて、という、いつもの我が家のブリコラージュ。


7月30日

扉の蝶番をつけるのに難航。ネジやドライバー、金槌といった道具が大好きな樹根が作業を手伝いながら、いつもどこかに持って行ってしまう。使いたい時に使いたいものがない…。中、なんとか…完成!壁にかけてみる。なんとも不思議な時計ができた。椅子にのって、扉をぱかぱか。



7月31日

奏さんの写真展とhito pressの写真集の販売がはじまった。子どもたちと家でドーナツ食べてる時、徹夜の設営でぼろぼろのひょーさんから無事展示はじまったよ、と連絡が来た。今日ってもしかしてここの数ヶ月の、ひとつの区切りの日なのかな?始まりの日なのかもしれない。どうやら梅雨も明けたようだし。空が明るい。




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中村俵太(ひょうた(父/夫)

「HYOTA」として空間デザインを生業に活動しつつ、家族と一年誌『家族』のクリエティブディレクターも担当。決断力と実行力はあるけど計画や段取りは非常に苦手。人見知り。日本生まれ日本育ちなのに日本語がおかしい。極めて楽天的でポジティブ。

中村暁野(あきの(母/妻)

家族と一年誌『家族』編集長。家族や生活をテーマに執筆活動も行なっている。ズボラでめんどくさがりな反面、理想を追って突っ走りがち。でもその突っ走りによって人生動かしてきたという自負もあるので、引き続き突っ走る気まんまん。

中村花種(かたね(娘)

繊細で敏感、パワー溢れる9歳児。両親への巧みな口答えのバリエーションは一休さんのとんちさながら。大人をまじまじと観察して急所を突く発言をするのも得意。極度の内弁慶だったけれど藤野暮らしの中で日々日々壁を越え、自分を伝える力を身につけ中。

中村樹根(じゅね(息子)

マイペースでごきげんな3歳児。道行く人に誰彼構わず話しかけては何かをもらってきたりする。ここぞという時に病気になりがち。今のところ3回の誕生日のうち2回は寝込んで迎えている。食べるの大好き。姉とはトムとジェリーのような関係。

バター(うさぎ)

花種さんの膝に飛び乗るすきを常に伺っている、アメリカンファジーロップのオス。愛故に、毎日花種さんにおしっこをひっかけるのが家族の悩み。


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