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かぞくのブリコラージュ~自分たちで暮らしを作る、日常の発明記~かぞくのブリコラージュ~自分たちで暮らしを作る、日常の発明記~

文・写真・題字/中村家


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その5
「フィロソフィーストッカー」
for 母





キッチン横の謎スペース。もともと別荘だったこの家にはバブリーなバーカウンター(!)があって、引っ越しと同時に解体したものの、水場の蛇口だけは取り外せずそのままになってたのです。その水場跡に広告撮影のセットに使った棚やホーローボウル、試験管などを組み合わせ、わたしの背丈の倍の大きさのキッチンストッカーを制作。せっかくなので我が家の台所における目標を示し、実行への後押しをしてくれるストッカーにしようとフィロソフィー(哲学)ストッカーと名付けました。










フィロソフィーストッカーまでの日々
(2020年6月17日~7月7日まで)




6月17日

近所で羊を8頭飼っているお家があって、去年毛刈りに行った。それが樹根の中に強く残ったようで、ことあるごとに話に出ていたので、今年も行かせてもらうことに。大人3~4人がかりで羊が動かないように押さえながら、ハサミでちょきちょき。羊の皮膚はとても柔らかくて、油断すると毛と一緒に皮膚を切ってしまう。流血させてしまい、ぎゃあああ~~~ごめん!!ということ数回…。いざ行くと固まったままの樹根。「切ってみる?」と誘われても無言で首を横に振りつつ、至近距離からひたすら観察。毛はこの後洗って、ゴミをとって、紡ぐ。そんな長い行程の末、羊毛ができるのですね。



6月18日

庭のアナベルがもりもりと咲いている。花種さんのクラスメイトのお誕生日のお祝いに数本切って花束にしたのを持って学校へ。



6月19日

花種さんの保護者仲間が強力粉を25キロ買ったので何キロかいる?と連絡をくれた(わけてもらうのは2回目)。3キロほどもらいに行くと、庭の大根もズボッと抜いてそのままくれた。にょろにょろ足の立派な大根。置いておいたら葉っぱをバターが齧っていました。もらってきた強力粉でパン焼き。

6月20日

ステイホームの期間を経て、樹根くんが保育園に行くのを嫌がるようになってしまい、毎朝もめてる。行けば楽しそうにしてるんだけど、行くまでが大変。毎朝大変。



6月21日

恒例の梅採り。長野県上田市にある父の実家へ。父と叔父が生まれた時に植えたという梅の木。庭の梅で作る祖母のカリカリ梅が大好きだったのに、作り方を聞けなかった。祖母も祖父ももういないけど、この数年は父と叔父と母と、ひょーさんも花種さんも樹根も一緒に、みんなで梅を採る。「おおしごとなんだから」と言うわりに早々に疲れ部屋に入っちゃった樹根くん。片や高い枝にもよじのぼり、届かないところは棒でつつき、1個も残すまいぞと、ものすごい執念で採る花種さん。父の日だったので、バナナタルトを作って行った。梅取りの後、みんなでご飯を食べ、タルトを食べ。何十キロあるかわからない、大量の梅をわけわけ…。




6月22日

雨で寒い。築36年の我が家。リビングは改装したのだけど、床はもともとあったカーペットのままだった。だけども樹根の喘息症状が頻発しているので、カーペットを引っぺがし「マーモリウム」という素材を敷くことに。亜麻仁油や木粉など植物性原材料でできていて、抗菌、抗ウィルス性が高い素材らしい。見た目もよい。ですがオーダーしても届くまでに3ヶ月かかるということで、とりあえずは下地の板を貼っておくことに。床はちょっと自分でやりたくないんだよ~というひょーさん。近所に住むまことさん(大工仕事のプロフェッショナル)にお願いしたら、まあ仕事が早い早い。綺麗綺麗。さすがだ…。

6月23日

ひょーさんは東京で打ち合わせ。わたしは梅仕事にとりかかる。大量すぎて永遠のヘタ取り。梅ジュースを2瓶仕込み、梅干し用に3キロ残し、あとはご近所さんに配りまくる。みんなに喜んでもらえたので、よかったよかった。




6月24日

次作のブリコラージュは、キッチンの横のストッカーに決定。アトリエに長らく放置されている棚、ホーローボウル、試験管、などを材料に。梅ジュースとかオーガニックコーラとか小麦粉とかの保存瓶の置き場に困っていたので、そういった保存食や野菜、卵なんかの食材をまとめて置けるストッカーがほしいな、ということで。ついに母(わたし)ご所望のものを作れることに!

6月25日

キッチンストッカーは棚を縦に2つ繋げ、天井まで届く巨大サイズになる計画。ふつうの棚作っても面白くないしさ、というひょーさん。棚の一番上を見上げ、こんな高いとこに何をストックすればいいんだろう…届かないですし…。という疑問は生じつつも、まあ「かぞくのブリコラージュ」だし。「かぞくのブリコラージュ」の特徴(?)は使い勝手は別によくない、というか日々の実用性を別に重視していない、ということかなって。あえての面倒くささとか使いにくさとか、今後改善していく課題とか。そういうのが含まれていることって、実は大事なことなのかなって気がしています。



6月26日

完熟した梅で、花種さんと樹根くんと梅干しを仕込み。梅酢にカビが出ないことを祈る。赤や黄色に色づいてきた庭のトマトをぼちぼち収穫。キッチンの片隅に気づけば数ヶ月も干しっぱなしにしてたみかんの皮を刻んでオレンジピールに。届いたばかりのプラムはジュースに。


6月27日

千葉・大多喜にあるMitosaya薬草園蒸留所へ。Mitosayaを営む江口一家は家族と一年誌「家族」で取材させてもらった家族。ひょーさんの新プロジェクトでMitosayaにお願いしたいことがあり、連絡したら「6月末のオープンデーに来たら?」「前日から泊まりで来たら?」と誘われ。Mitosayaのイベントに行く=主戦力(イベントスタッフ)になる、のだということは今までの経験からわかっております。行きますとも行きますとも。他でもない江口一家のお誘いですもの。と、いうわけで想像通り(想像以上に)準備に駆けずり回るひょーさんとわたし。を尻目にひたすら遊ぶ子どもたち。江口家のみとちゃん、さやちゃんと花種さんは、非常に仲良し。今回は成長した樹根もそこに加わり大盛り上がり。



6月28日

大雨のMitosayaオープンデー。お客さんに広い薬草園(野外)や蒸留所を自由に散歩してもらいながらお酒や食事を楽しんでもらう日なのに、まさかの土砂降り。予想外のハプニング続出…。となったものの、たくさんの人が喜ぶような「何か」に向かってみんなで汗水流して働くのって気持ちがいいよなあって、イベント終わり頃になって晴れ渡った空を見ながら、達成感に包まれた良き日。お手伝いの身だからこその、のんきな達成感であることはわかりつつも、やっぱり楽しかった。肝心のひょーさんの新プロジェクトの話、ほぼできなかったけど、まあいいのでしょう。

6月29日

エナジードリンク中毒のひょーさん。ちょっと気合入れたい時、すぐに某エナジードリンクを飲みたがる。「からだによくないよ、やめなよ」「またのんでるの?!」と子どもたちにも言われる始末。自家製コーラ作りをはじめたのは、そもそもエナジードリンクの代わりにしたい、という気持ちからだったらしい。しかし自家製コーラには「カフェインがたりない…カフェインが必要なんだ…」ということで、わざわざコーラナッツパウダーを取り寄せ。カフェインがふんだんに含まれるらしいコーラナッツを入れた本格的自家製コーラによって脱エナジードリンクは達成されるのかしら…。



6月30日

キッチンストッカーを塗装。壁板の一部に黒板塗料を塗ったので、何か書こう。何書こう?ということで、我が家の食卓にて心がけてる(がけたい)ことを書いてみた。できるだけ藤野や、近郊で作られている野菜や卵を買う、プラ包装のものを可能なかぎり減らす、などなど。こうして書くことでまた意識できるし、いいじゃない。ということで「フィロソフィー(哲学)ストッカー」と命名。せっかくなので、と棚の一部はコンポストボックスにした。ここに野菜の皮などをためて、コンポストに運んだらいいのでは?とのことなのだけど、これまた実用性はどうなのかしら…といった出来ではあります。となりのレイコさんが葉付きローリエの枝を3本も持ってきてくれたので、さっそくタコ糸で結んでフィロソフィーストッカーに。



7月1日

藤野の駅前にある本棚。もう読まなくなった本などを自由に置いてよくて、気に入った本があったらもらっても良いという本棚。そこで花種さんがお裁縫の本をもらってきてポーチを作りたいとのこと。わたしに似て、手先が器用とはいいがたく玉結び一つスムーズにはいかない花種さんなのですが、ピンクと水色のフェルトを合わせ、サテンのリボンを飾りにした9歳らしいファンシーポーチ、がんばって作り上げました。

7月2日

恐れていたカビが!梅干しの梅酢に発生~~~!これだから油断ならないのよ~~~とあわててカビを取る…。ああ…もう発生しないでくれよ~~~。


7月3日

梅雨の晴れ間。風が気持ち良く、夕焼けは美しく。世界はきれいだよ、と思えるような日だった。続々実るキュウリを収穫。ぬか漬けも美味しいし、味噌とマヨネーズを混ぜたのにつけて食べるのも美味しい。



7月4日

ちょっと庭に出るだけで蚊に刺される。というか、室内にも何匹もいる。蚊に刺されたとこに塗る蛇苺とドクダミのチンキに強い清涼感を求めてハッカオイルも混ぜてみた。これはいけます。ム◯にも負けない効力。ずっと行ってみたかった藤沢にある量り売りのお店に瓶を持参して行き、ナッツやドライフルーツ、昆布などを購入した。フィロソフィーストッカーに瓶を並べ悦に浸る。こうやって形から入るのも大切です。楽しいし。




7月5日

朝から地域の清掃で草抜き。1時間引っこ抜いた。1日遅れの母のお誕生日会。さくらんぼのタルトを焼き、花種さんがつんだ紫陽花を飾ってお祝い。母67歳。夜、東京都知事選挙の結果を知ってぐんにゃり。簡単なことじゃない、変わるのは。わかっていても、ぐんにゃりする。




7月6日

近所のパン屋さんス・マートパンが夏季休暇に入ってしまったので、子どもたちが一番好きな「オレンジティ」というパンをイメージしてオレンジピールと紅茶の茶葉をいれてパンを焼いてみた。美味しいは美味しいけど、もちろん「オレンジティ」には遥か遠く及びません。フィロソフィーストッカーの瓶のラベルを作るのに家族ではまる。「UME JUICE」とか「RAISINS」とかそれぞれ書いて下に「kazoku no Bricolaje Home Made Grocery」という文字も綴って。楽しい。




7月7日

地域のマルシェ「ビオ市」でレタスやキャベツ、ズッキーニや芋などなど購入して、そのまま予約してあったパンを取りに移動。ちょっと前から「パンチョリーナ」というパン屋さんが隔週で予約販売・デリバリー配達してくれるようになったのでとても嬉しい。自分で取りに行くと300円引きなので毎回取りに行っている。「ス・マートパン」と「パンチョリーナ」。小さい町にふたつも美味しいパン屋さんがあるのはありがたいこと。七夕の願いを考えて「明るい未来がありますように」ってことしか浮かばなかった。去年の短冊に花種さんが「プラスチックを捨てる人がいなくなりますように」と書いたことがきっかけで、家族で暮らしのいろいろを見直していくことにした。あれから1年後の今は、予想以上に混沌としてるし、これからも予想を越えた世界を生きていくんだよな、と感じてる。ほんの10年くらい前まで、こんな危機感を感じていなかったし、子どもの時「未来」って聞いてイメージするのはドラえもんが来たみたいな世界だった。「未来」って言葉にあらゆる暗いものを連想してしまうのは哀しい。でも連想しているような、そんな世界に子どもたちを送り出したくはないんだ。やるべきことを新たに誓い直してみる。そんな七夕。



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中村俵太(ひょうた(父/夫)

「HYOTA」として空間デザインを生業にしつつ、中村家のあらゆる『家族』活動のディレクター的立ち位置も。決断力と実行力はあるけど計画や段取りは非常に苦手。人見知り。日本生まれ日本育ちなのに日本語がおかしい。極めて楽天的でポジティブ。家族愛は強いがピントがいつもややずれがち。

中村暁野(あきの(母/妻)

家族や生活をテーマに執筆活動を行なっている。理想を追って突っ走りがち。でもその突っ走りによって人生動かしてきたという自負もあるので、引き続き突っ走る気まんまん。ブリコラ生活の果て2021年夏「家族と一年商店」がオープンし小商店主という予想だにしていなかった人生展開もスタート中。

中村花種(かたね(娘)

繊細で敏感な子ども時代を経て、現在爆発的パワーで家族を圧倒する思春期入り口の13歳。極度の内弁慶だったけれど藤野暮らしの中で壁を越え、自分の世界を築こうと成長中。現在両親のやることなすこと、言うことスベテが気に入らない反抗期真っ只中。

中村樹根(じゅね(息子)

マイペースでごきげんな6歳児。人類みな友達的オープンマインド。恐竜がだいすきで1日の半分、心は恐竜の世界へ。甘いもの大好き。虫歯になりがち。姉とはトムとジェリーのような関係。

バター(うさぎ)

花種さんの膝に飛び乗るすきを常に伺っていた、アメリカンファジーロップのオス。2022年の3月、天国へ...。花種さんの部屋の前の、ユスラウメの木の下に眠っている。



家族カレンダー

中村暁野
定価 1760円(本体価格1600円)
ひとつの家族を自身の家族で取材して制作する雑誌『家族と一年誌 家族』編集長である著者による初めての自著。ブログに綴った5年の間には、たくさんの幸せな日とそうでない日とがありました。「家族」を通して自分と社会に向き合い続けた実験の記録。一日々々のかけがえのなさを感じられる一冊です。


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