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かぞくのブリコラージュ~自分たちで暮らしを作る、日常の発明記~かぞくのブリコラージュ~自分たちで暮らしを作る、日常の発明記~

文・写真・題字/中村家


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その1 「夢のジムニー」for 息子





車大好きな樹根に、家族の愛車ジムニーja22Wを制作。
材料になったのは、とあるミュージックビデオの空間制作で使ったベニヤ板、角材など。
車体の色はあらゆるペンキを混ぜて再現。ライトを埋め込み、ヘッドライトも完備。
気分を盛り上げる小物として、木をカッターで彫って、鍵も作りました。










ジムニーへの日々(2020年3月末~4月15日まで)


3月末日

大量の廃材が手に負えなさすぎる(保管場所がない)ので、うちでは絶対使わなそうなものを集めてひょーさんのアトリエでマーケットをひらくことになった。住んでいる藤野という地域には地域通貨があって、地域通貨のメーリングリストを使って告知しました。廃材といっても新品のシンクや椅子やソファなどの家具、花瓶やアイロンといった小物、これまさに廃材というべき板やパイプ、使いかけのペンキなどなどなんでもあり。オープンの10時からたくさん人が来てくれた。藤野はアーティストや個人店を営む人が多い町で、パン屋を開きたいという人や地域ラジオを始めたばかりという人たちも。100円とか200円とかにして、地域通貨も使ってもらって、最終的に好きに持って行ってください、という形で。ちょっと壊れてても「全然問題ない!!」「ほんとにいいの、これ?!」とものすごく喜んでくれて、アトリエに積んでいたものほぼすべてなくなった。爽快…!今まで都内にいるかアトリエにいるかで、あんまり地域の人と交流がなかったひょーさん。顔は知ってるけど…という関わりだったいろんな人と一気に距離を縮めた様子。言葉をかわして、喜んでもらえるのが嬉しくて、そんなお金以外のやりとりが気持ち良かったって。


4月1日

朝ごはんを食べた後、ひょーさんと会議。議題は「今後仕事でなにをするか」と「長い休みの過ごし方」のふたつ。ふたつは関係ないようで、仕事と暮らしの矛盾をなくすためには大きく関係ある。仕事も暮らしもいろんなものを自分たちで作っていける、その力をつけたい。ひょーさんが前に構想していたアイデアを仕事として実現できそうか考えたら、非効率すぎて早々に暗礁に乗り上げた感。風呂敷は広げるだけ広げて話をしたいひょーさんに「無理だよ」「難しいよ」など言いすぎて険悪に…。花種さんと樹根くんは庭で遊んでたけど、気づいたら近所の友達のうちに行っていて、帰って来たと思った時には夕方だった…。結局今日決まったことは家族みんな早寝早起きをする、ということだけ。まずはそこからです。


4月2日

7時半に4回くらい起こすと這うように起きてくる人たち…。当面の生活スタイルとして、午前中は家族みんなで庭仕事や家仕事をして、午後はひょーさんは今まで通り徒歩5分のアトリエに出勤。今目の前の仕事はなくても今後やりたいことに向けて構想をねる。わたしは子どもたちと過ごしつつ、今後について考える。互い考えたことを持ち寄り次回会議(いつ?)を開催しましょう、となりました。
花種さんはケーキつくりにはまってる。教えたのは小麦粉、なたね油、てんさい糖、ベーキングパウダー、豆乳を使ってボールひとつで作るケーキ。わたしは何グラムとか何ccとか計らずにいつも目分量でつくるので、花種さんも感覚頼りのお菓子つくりをしています。何度か焼くうちバナナいれたりココアいれたりアレンジしながら勝手につくるように。ですが今日は砂糖を入れ忘れたらしく、まったく甘くないケーキが焼きあがりました。


4月3日

暗礁にのりあげた構想を別の角度から検討しつつ、そのヒントになるかもしれないので人にあってくる、とひょーさん。マスクして車で1日都内へ。わたしは、ともだちが隣町で週2日だけ開いている手作りアイス屋さんへ。テイクアウト形態でお店をあけると聞いたので子供達とカップとスプーンを持っていく。子供達は2人ともいちご、わたしはチョコ。めちゃくちゃ美味しい。アイス屋さんの軒先で売っていたのらぼう菜も買う。のらぼうは農家をしている別の友達がつくったもの。仕事がなかったり、やりたくてもできなかったり。うちだけじゃない。いろんな友達の顔を思い浮かべる。桜満開。


4月4日

東京遠征の収穫は、ひょーさんの中で大きかったらしい。話を聞きたいけど花種さんと樹根くんが30秒に一回くらいケンカするし、夫婦で話そうとすると割り込んでくるし、全然話せず。庭の一部を耕して畑をつくる準備。数ヶ月前からはじめたコンポストの土がちょうどいい感じになっているので使ってみる。庭作業をいろいろしていると、ひょーさんが「体調わるい…。ちょっと休ませてもらいます…」と寝室にいってしまった。午後も庭仕事して、夕飯はテイクアウト営業をはじめた、めちゃくちゃ美味しい創作中華屋さんで買うことに。容器持参で車で取りに行く。焼き餃子と油淋鶏頼んだら、どうしても揚げ餃子も食べたいという花種さんの要望により、揚げ餃子も追加。頼みすぎ…。だけど大好きなお店だから、頼みすぎるくらいで応援の気持ちを表せたら、それもよし。
豪華おかずが並んだ食卓で、餃子一つ食べて「胸の真ん中に餃子が鎮座し続けてうなされそう」と言って、ひょーさん再び寝込んでしまった…。ちょっと…まさか…という声にならない心の叫び。揚げ餃子の最後の一個を巡り花種さんと樹根の激しい争い勃発。朝から晩まで姉弟のケンカにまみれ、お風呂も入らず、就寝!


4月5日

朝になっても体調が悪いひょーさんよ…。でも熱なし、咳なし、味覚も嗅覚も異常なし。頭が痛いらしい。頭が痛いといいながらもなぜかキムチを作りはじめる。キムチ好きでいつも買い置きしてたけど、プラごみかさばるし自分で作ってみるわ、となんで今?キムチつくるくらいだから大丈夫なのでしょう、きっと。花種さんは近所のお友達の誕生日祝いにまたケーキつくり。ふと見ると瓶の砂糖が信じられないくらい減っている。「この前入れ忘れたから今日は念入りに」って、砂糖の瓶の8割くらいがなくなってる。「失敗は成功のもと」だそうで、めちゃくちゃ甘いケーキをお友達にプレゼントしておりました。


4月6日

みなさん全然起きてくる気配がないので、朝原稿を一本書く。ほぼ書き上がりそうという9時半頃のそのそ起床してきて気まずそうにしている家族のみなさん。体調は良いようです。「いっぱい寝たら良くなったのかも」とひょーさん。
やっぱり子供達とずっといると仕事の話をするのが難しい。今後の仕事についても生活についても話し合えないまま新しい週が始まったことに焦りを感じつつ、もろもろ書類を作ったり、花種さんの学校に届け物をしたり最低限の用事を済ませて、家族で山道を歩いてコーヒー豆を買いに行くことに。徒歩20分ほどのところにある小さいコーヒー豆屋さん。豆を買って、帰り道も子供達は木登りしたり葉っぱでお面をつくったりのんびりと歩いていたらひょーさん「腹がヤバイ。もれそう」と言うや否やあっという間に1人山を駆け下り帰って行った…。無事、ことなきを得たそうでよかったね。頭痛かったり腹がくだったり、1人体調面落ち着いてない。夕方、耕した庭の一部に花種さんと樹根くんと人参とハーブ数種の種をまいた。明日には緊急事態宣言がでるらしい、とニュース。


4月7日

ひょーさんと子どもたち、7時半に起きてくる。コーヒーを淹れて朝8時半までに朝ごはんを食べ終えて、庭へ。緊急事態宣言が出たら営業停止する施設にホームセンターもはいっていたので、バターの餌など買いに行く。レジの人に「明日から閉まるんですか?」と聞いたら「今のところ開ける予定です」と。明日のことはなんにも誰にもわかんない。役所に書類をだしに行ったらものすごい人だった。
夜、子供達が寝入った隙にやっと、ひょーさんと会議。今後の仕事でやりたいことが見えた、という話を聞く。とてもいいと思う。あとはどうやって「仕事」にしていくかだけが問題。その計画みたいなものをを今週中にまとめてみる、とひょーさん。わたしもやりたいことは見えてる。矛盾のない生き方をしたい。矛盾なく生きるためにできる仕事は限られてる。その限られてることを最大限にやってくんだ。


4月8日

緊急事態宣言発動(?)。予約してあった花種さんの歯医者で隣町へ。もともとお店も人も少ないこのあたりでは、昨日と今日で変わっていることは何も感じられない。
歯医者の後、子供達と川沿いで、作っていったお弁当を食べ、帰りに水曜日と木曜日だけ開くいつものパン屋さんに寄る。小さなお店なので、お店に行った時には店主さんとわたしたちだけだったけど、マスクをして、会話は最小限に。今週もここでこうしてパンを買える幸せをかみしめた。


4月9日

花種さんと樹根くんと山道を散歩。見晴らしがいい開けた場所で、お弁当とおやつ。帰り道でヨモギをいっぱい摘んだので、それでチヂミを作った。とても美味しかった。


4月10日

午後からまた子供達と山を散歩。歩いた後にはガツンとした甘みが欲しくなるかなと思って黒糖のオートミールのクッキーを持って行った。夕日がとてもとてもきれいな日だった。
またまたひょーさんと会議。仕事はないし、今後もいつになったらあるかもわからない状態。でもコロナが収まったとして、どのみちもう同じことはしない。新しい仕事をはじめる。それはひょーさんらしいアイデアと彼が積み上げてきた経験と実感と感情が反映された、とてもわくわくする仕事。新しいことに飛び出してく時、いつも命綱なしに、ポーンと飛び出してくひょーさんには感心する。命綱はないけど、ひょーさんの腰に結わいであるロープはわたしと子供達の腰に結ばれてるので、ある意味わたしたち家族も強制的にジャンプとなる。ので、ぎょええ~~~ここほんと飛べるの~~?!と泣き言を言いたくなるわたしもいる。でも、このジャンプは必要なものだから、今は屈伸運動をして準備しよう。しかるべき時が来たら、飛ぼう。という会議の結論。仕事とは別に、これからの生き方を捉え直していくために家族で「何か」を形にしていきたいということも話した。アトリエの廃材を材料に、午前中と週末の時間を使って、家族でなにかを作っていこうと思う。今ここにあるもので、何かを形にしていく。それがきっとわたしたちの力になる。


4月11日

庭に蒔いたカモミールの種から小さい小さい芽が出た。しばらく休校の花種さん。担任の先生が月曜日から取り組む課題を届けにきてくれた。花種さんの学校は担任もクラスのメンバーも基本中学2年まで変わらない(シュタイナー学校に通っています)。ずっと一緒に過ごしてきた家族みたいな先生とクラスメイトに、もう随分会えてない。久しぶりに会った先生に花種さんはテレテレしつつ嬉しそう。朝作ったヨモギのスコーンを2個、先生にあげた。先生からもらった袋の中には手紙と、漢字、計算などの課題、毎日読むお話の冊子、自由にお話を作るための白いノート(これは物語を描くのが好きな花種さんに用意してくれた特別な課題)、鍵編みの棒と毛糸、笛が入ってた。月曜日からは朝8時半からこの課題をまず取り組む。学校は行けないけど、学ぶ時間を持つことは生活の柱になりそう。家族では、まずは樹根のジムニーを作ることにした。近所の子が乗っているガラガラ押して乗る車のおもちゃを羨望の目で見ている樹根に、我が家の愛車ジムニーja22を樹根サイズで作る!


4月12日

雨の日曜日。庭で作業できないので、屋根のあるひょーさんのアトリエでジムニー作り開始。MVで使った板をメインに、形を組み立て、使いかけのペンキを混ぜ合わせて車の色も再現。ひょーさんの指示に従い、動くわたしと子供達。それにしても作業着というものがないのが問題です。エプロンはしたものの「あ、ちょっと気をつけて!」「あ!ねえねえついちゃうよ!」など口うるさく言うわたし…。にもかかわらずアトリエをジャンプして回る花種さん、べたっとワンピースにペンキをつけ「ああ~~!!」となる。早急に作業着が必要だ…。骨格やパーツの色塗りなどができた。「持って帰る!」という樹根の強い希望によって、未完成のジムニーを車に積んで持って家へ。


4月13日

雨なので、ジムニー作業ができそうにない。8時半からやや遅れて花種さん、課題をはじめる。学校で過ごす時のように、朝の言葉やお手玉を使ったリズム遊びも課題にあったので、みんなでやってみる。学びの時間を終える時には「夕べの鐘の祈り」という詩を読む。
「夕べの鐘の祈り 美しいものに驚くこと 本当のものを守ること 気高いものを敬うこと 善いことを決意すること それは人を導いていく 生きる目標へ 正しい行いへ 安らかな心へ 明らかな考えへと そして世界の中 心の奥にある すべてのものを包む 神への信頼を教えてくれる」
素晴らしい詩。わたしも毎日一緒に声に出して読もう。



4月14日

晴れた!朝からジムニー作業。アトリエにあったライトを二つ埋め込みヘッドライトに。モバイルバッテリーでちゃんと点灯もします。黄色いペンキがなくて、ナンバーが塗れないなあと言っていたら、ベニヤをクーピーで塗り始めた花種さん。ちゃんと黄色く塗り上がった。すごい。ナンバーの文字は「june17 な 01-14」。2017年の1月14日生まれなので。「な」は中村のな。「じゅねのジムニイイイイイーーー!!!」と出来上がってくるにつれて感情が高ぶる樹根くん。樹根が塗った部分のペンキはムラになっていますが、それも良し。残すは細かな部分のペイント。明日には完成しそう。冷蔵庫にのらぼう菜しかなくなったので、のらぼうジェノベーゼソースのパスタに、のらぼうのかき揚げを乗せた「のらぼう尽くし」を作って食べた。美味しかった。


4月15日

朝の庭仕事や課題を終えて、隙間の部分をペイントしたり細かな仕上げをしたら、お昼前にジムニーが完成した。可愛い。
ひょーさんのハイエースにジムニーを積んで、走らせるのにちょうどよい丘に向かう。トンビの襲撃にあいつつお昼を食べて、いよいよ、ジムニーを走らせた。思いの外しっかりとした作りになったジムニー。ちょっとのデコボコも難なく走る。樹根が乗り込み、なだらかな丘の上から走り出す。下り道をぐんぐん走るジムニーに並走してわたしたちも走る!走り下ってはまた登り、また走り下って、なんどもなんども走らせた。ガレージも作らなくては。



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中村俵太(ひょうた(父/夫)

「HYOTA」として空間デザインを生業にしつつ、中村家のあらゆる『家族』活動のディレクター的立ち位置も。決断力と実行力はあるけど計画や段取りは非常に苦手。人見知り。日本生まれ日本育ちなのに日本語がおかしい。極めて楽天的でポジティブ。家族愛は強いがピントがいつもややずれがち。

中村暁野(あきの(母/妻)

家族や生活をテーマに執筆活動を行なっている。理想を追って突っ走りがち。でもその突っ走りによって人生動かしてきたという自負もあるので、引き続き突っ走る気まんまん。ブリコラ生活の果て2021年夏「家族と一年商店」がオープンし小商店主という予想だにしていなかった人生展開もスタート中。

中村花種(かたね(娘)

繊細で敏感な子ども時代を経て、現在爆発的パワーで家族を圧倒する思春期入り口の13歳。極度の内弁慶だったけれど藤野暮らしの中で壁を越え、自分の世界を築こうと成長中。現在両親のやることなすこと、言うことスベテが気に入らない反抗期真っ只中。

中村樹根(じゅね(息子)

マイペースでごきげんな6歳児。人類みな友達的オープンマインド。恐竜がだいすきで1日の半分、心は恐竜の世界へ。甘いもの大好き。虫歯になりがち。姉とはトムとジェリーのような関係。

バター(うさぎ)

花種さんの膝に飛び乗るすきを常に伺っていた、アメリカンファジーロップのオス。2022年の3月、天国へ...。花種さんの部屋の前の、ユスラウメの木の下に眠っている。



家族カレンダー

中村暁野
定価 1760円(本体価格1600円)
ひとつの家族を自身の家族で取材して制作する雑誌『家族と一年誌 家族』編集長である著者による初めての自著。ブログに綴った5年の間には、たくさんの幸せな日とそうでない日とがありました。「家族」を通して自分と社会に向き合い続けた実験の記録。一日々々のかけがえのなさを感じられる一冊です。


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