アノニマ・スタジオ

 

サンライト・ギャラリーと永井宏さんとの活動について

「サンライト・ギャラリー」は92年〜96年まで美術作家の永井宏さんが葉山で運営していた小さな場所です。
「暮らしの中から表現を」「誰にでも表現はできる」という永井さんの考え方に共鳴して集まったのは、小山千夏さん、根本きこさん、馬詰佳香さん(HUCKLEBERRY → BORN FREE WORKS)、中川ワニさん、堀内隆志さん(カフェ・ディモンシュ)、ナカムラユキさん、CHAJINさん、岩崎有加さん、赤澤かおりさんほか、たくさんの若い才能たちでした。
そこでは“生活を芸術にする”というささやかな実験が繰り返されました。ワークショップからはたくさんのフリーペーパーも生まれ、星ヶ丘SEWING GALLERYやSEWING TABLEなどのように、自らの表現としてカフェやギャラリーをはじめる動きも出てきました。
サンライト・ギャラリーと永井宏さんの試みは、一見、夢物語のようです。しかしそこから、いま支持をうけている(そして早くも飽和しつつさえある)「暮らし系」「生活系」の表現の土台が作られたことは間違いありません。
僕は『海を眺めていた犬』という本で永井さんのライフスタイルに出会いました。自分自身海のすく近くで育ったこともあり、永井さんやその仲間たちが潮の香りのする場所で行なっている活動にあこがれを抱きながらも、その様子を少しはなれたところから見ていました。
永井さんと直接お目にかかったのは、サンライト・ギャラリーが「sunshine+cloud」との複合ショップになったころ。そしてはじめて葉山を訪ねました。
その後『雲ができるまで』『夏の仕事』『モンフィーユ』『ロマンティックに生きようと決めた理由』などの本をご一緒しながら、永井さんの考えに耳を傾け、ワークショップなどの活動に間近に接してきました。
そこから教わったことは、ひとことで言えば「自分の暮らしに、もっともっと親密な視線をそそぐ」ということ。単調な繰り返しに見える自分の生活にも、間違いなく季節はめぐり、時間は過ぎてゆく。「今」はこの瞬間しかなく、もう戻らない、ということ。だからこそ誰の暮らしも「かけがえのない今」の連続であり、そこにはその人にしか作り得ない「時間」があるということ。永井さんはそのことを「ひとりひとりの生活が『永遠』というものにつながってゆくんだ」と表現します。
永井さんが提唱してきたことは、実は、バブル以後日本人が新しい価値観を探しはじめた時期にとても大きな意味を持っていたのではないかと思います。それはもしかすると、戦後50年をはるかにさかのぼり、明治、大正、あるいはもっと昔に日本人が大切に育ててきた感性につながるものであるように思います。それが何だったのか。答えを出すにはまだ早すぎるにしても、その答えを探す時には地図がきっと必要だ。そのために、永井さんの活動をきちんとまとめておく必要があると思ったのです。
永井さんとサンライト・ギャラリーの活動からアノニマ・スタジオが教えられたことは、本当にはかりしれません。

  アノニマ・スタジオは、
  風や光のささやきに耳をすまし、
  暮らしの中の小さな発見を大切にひろい集め、
  日々ささやかなよろこびを見つける人と一緒に
  本を作ってゆくスタジオです。
  遠くに住む友人から届いた手紙のように、
  何度も手にとって読みかえしたくなる本、
  その本があるだけで、
  自分の部屋があたたかく輝いて思えるような本を。

「暮らし」「生活」は、わたしたちの過ごす「時間そのもの」です。「暮らし」「生活」自体も、それらをテーマにした表現や出版物も、「流行」「トレンド」などというくくりで消費されてしまうような、虚しいものであるはずがありません。アノニマ・スタジオは、自分たちの活動の原点を確認する意味もこめて、この『A BOOK OF SUNLIGHT GALLERY』を送り出します。                        (アノニマ・スタジオ)

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