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12 気づいてうれしい、春の萌し。


春は近づいてくるのが見てとれる、それがとても嬉しいのです。
夏や冬とはまた違う、だんだんとやって来る感じ。
ほんの少しずつ、けれど確かな足取りで、春の萌しを見つけるたびにぱあっと心が明るくなります。
京都にいると、いつもの道にもうれしい気づきがあって、気づけた自分にもうれしくなるのでした。

梅宮大社の梅が見頃に
春の便りと言えば、梅の花。
まだ寒い中、梅の花が咲くと、気持ちがほころびます。可憐な咲き姿もさることながら、私が大好きなのが、ふくよかな甘い香り。梅の名所として知られる

梅宮大社

をお参りすると、梅の香りに満たされて、うっとりとしました。バラにもひけを取らぬ、なんて素晴らしい香り。

梅の花の香りに感激する
梅の花に顔を近づけては、からだいっぱいに香りを満たします。そういえば、初夏に梅仕事をするときも、梅の実からとても芳しいにおいがして、竹串でヘタをとるとき、うれしい気持ちになることを思い出します。

北野天満宮

では、境内で育てた梅の実を塩漬けし、土用干しした「大福梅」が作られます。元旦の朝、白湯やお茶に入れていただくと、邪気を祓い、無病息災でいられるという新年の縁起物。村上天皇が大福梅のお茶を飲み、病が平癒したことが由来とされます。収穫した梅を塩漬けし、梅雨明けに天日干しして、再び樽で貯蔵する。時間をかけて、丹精込めて。咲けば美しく、心をはずませ、実は食卓に上り、からだにうれしい。暮らしに寄り添って、一年中、そばにある。梅のありがたさをあらためて思います。

下鴨神社の流し雛、十二単姿で
3月3日は桃の節句、ひな祭り。子どもの頃から親しんできて、あたりまえの行事になっていますが、もともとは上巳じょうしの節句。3月最初のの日。季節の変わり目は災いをもたらす邪気が入りやすいことから、川で身を清めて穢れを祓う習慣があったそうです。人形ひとがたに、穢れを移し、川に流して祓ったのが、流し雛。

下鴨神社

では、御手洗川みたらしがわで流し雛が行われます。御手洗川は葵祭で斉王代さいおうだいが身を清める御祓神事が行われるところ。衣冠装束のお内裏さまが藁で編んだ桟俵さんだわらにのった人形を流します。

下鴨神社で授かった、流し雛
なかなかの人出ですが、赤ちゃんを抱っこした参拝客も多く、なんともしあわせな気持ちになります。流し雛は、ここで流しても、持ち帰って飾っておいても。仲良く並んだおひな様があまりにかわいいので縁起物として授かってきました。

この春はじめての山菜
いつもの通りもどこか春めいて、和菓子屋さんや骨董屋さんの店先には、春の花、春のお軸。まだ寒い時期、つくしのお軸を見つけたときは、ああうれしいなあ、春が来るんやなあと、春を待ちわびる気持ちを分かち合った気分です。
料理屋さんでは、山菜がお目見えしています。このあいだおかみさんに、春らしいおすすめはとたずねて、山菜と生麩の白味噌煮をいただきました。ふきのとうやたらの芽の天ぷらが白味噌のお椀にのって、まるで雪の中で見つけた春のようでした。ほっこりとした白味噌の甘さと、山菜の繊細なほろ苦さ。今だけのおいしさやなあと、じんわりとうれしくなりました。

店先で見つける春も楽しみ
冷たい雨も、肌寒さも、あとわずか。桜が咲くまで、そこかしこにある小さな春を見つけながら、待ちわびたいと思います。



京のおやつ


ひな祭りのお菓子
ひな祭りはハレの日。子どもの頃はおひな様を飾り、祖母がちらし寿司を作ってくれました。ひな飾りの前の写真は大切な思い出です。お菓子は、ひなあられや菱餅。そして、引千切ひちぎり。川端道喜15代目の著書「和菓子の京都」(岩波新書)によると、江戸時代前期、水尾天皇の中宮・東福門院の頃、女院御所では来客が多く、餅を丸める間がなくてひきちぎったことが由来。真珠を抱く阿古屋貝に似ていることから、「阿古屋」とも言われます。3月3日まで、ほんの数日だけお目見えする、いつでもなんでも手に入る時代に、そんな1年に1度の出会いも愛おしいのです。

著者プロフィール

宮下亜紀(みやした・あき)

京都に暮らす、編集者、ライター。
出版社にて女性誌や情報誌を編集したのち、生まれ育った京都を拠点に活動。「はじめまして京都」(共著)のほか、「イノダアキオさんのコーヒーがおいしい理由」(イノダコーヒ三条店初代店長 猪田彰郎著)、「絵本といっしょにまっすぐまっすぐ」(メリーゴーランド京都店長 鈴木潤著、共にアノニマ・スタジオ)、「雑貨店おやつへようこそ 小さなお店のつくり方つづけ方」(トノイケミキ著、西日本出版社)など、京都の暮らしから芽生えた書籍や雑誌の編集を手がける。
www.instagram.com/miyanlife/


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