第1回 チョウ
~キアゲハ編~

 急に気温があがり、あたたかい日差しが感じられた3月の中旬、今年、初めてチョウを見ました。黄色のキタキチョウが庭を舞っていたのです。嬉しくなって息子が捕獲、少し観察をさせてもらってから、リリースしました。おそらく成虫のまま越冬し、陽気に誘われて出てきたのではと思います。羽にも少し損傷が見られますね。



 私は庭作りが大好きなのですが、中でも、チョウが飛び回る風景に憧れがありました。それならばと、チョウが集まる庭にしようと考え、いろんな実験をしてきました。例えば、チョウが蜜を吸う花(蜜源植物)を植え、チョウの幼虫が食べる植物(食草)を植えるということです。

 チョウが好きな花の代表的なものに、ブッドレアやランタナがあります。これらは、小花が集まっているという特徴があります。ブッドレアの苗は手に入りにくいのですが、ランタナは園芸店でもよく見かけます。雑草ではヤブカラシが大人気です。また、キク科もひとつの花に見えますが、たくさんの小花が集まっている集合花しゅうごうかです。キク科にはタンポポやヒマワリ、マリーゴールドといったよく見かける花が多くあります。

ランタナにツマグロヒョウモン

ヤブカラシとナミアゲハ

 また、虫はそれぞれ、認識できる色が違うという特徴があります。チョウは主に、赤、紫、白、黄色が見えているそう。花は種を作るために受粉して欲しいので、様々な虫を呼ぶために、様々な色になったと考えられています。そして、チョウを観察していて気付くのは、種類により、低い場所を飛ぶものと高い場所を飛ぶものがいるということ。可能なら、花の高低差があるとなお良いというわけです。

 しかし、あれこれ植えていくうちにわかったことは、蜜源植物よりも、食草があることの方がチョウにとっては魅力的だということ。チョウの幼虫が食べる草は限られています。とっても偏食なのです。例えば、アゲハはミカン科、モンシロチョウはアブラナ科、アオスジアゲハはクスノキ科の植物と決まっています。となれば、庭である必要はありません。キャベツ畑には確実にモンシロチョウが飛んでいますし、公園のクスノキのまわりにはアオスジアゲハが飛んでいるということです。チョウの寿命は、2週間ほどととても短く、その間に蜜を吸って、パートナーを探し、メスは卵を産まなければなりません。だから、食草が重要になってくるということですね。

 さて、ようやく今回の主役、キアゲハの登場です。庭のフェンネルにキアゲハの幼虫を見つけました。緑色に黒いしましま模様が特徴です。丸っこくてぷにゅぷにゅして、たくさん並んだ小さな足も、とてもかわいいです。

フェンネルとキアゲハの幼虫

 私たちが興奮していたために、見にくい動画で申し訳ないのですが、幼虫が黄色い角を出しているのがわかるでしょうか? これは、臭角しゅうかくと呼ばれ、天敵から身を守るために、くさい匂いを出す器官なのだそう。実際に顔を近づけてみると、ちょっとだけ匂いを感じます。赤ちゃんが必死に威嚇いかくしていると思うと、さらに愛おしく感じていまいます。

幼虫の威嚇

 この大きさ、模様は終齢(5齢)です。キアゲハの幼虫は、卵から羽化したのち、2週間ぐらいの間に5回脱皮を繰り返し(1齢~5齢と呼ばれる)大きくなっていきます。おそらくずっとフェンネルにいたのだと思いますが、小さいうちは目立たないので気づきませんでした。そして私たちが見つけられたということは、天敵の鳥などにも見つかるということ。早速、保護して、室内で育てることにしました。

 キアゲハの食草は、フェンネルの他、パセリ、コリアンダー、ニンジンといったセリ科の植物です。セリ科ならなんでもいいかというと、そうでもありません。特に人間が食べている野菜、例えばスーパーで手に入れた野菜を与えると、幼虫は農薬に耐えられず死んでしまうそうです。人間の体とは大きさが全く違いますから、それが耐えられない理由かもしれません。

 そのため、幼虫を育てたいという場合は、園芸店で比較的手に入りやすいパセリの苗をおすすめします。園芸店で売られるパセリには、園芸用の農薬が使用されていますが、それには耐えられるようです。私たちも庭のセリ科の植物に加え、園芸店でパセリを買い足して与えてみましたが、問題は見られませんでした。

パセリを食べる幼虫

 終齢ともなると、ものすごい食欲。あっという間にパセリの苗はなくなります。いくつか購入するか、事前に育てておくと便利です。特に大きくなり、たっぷり食べてもらえるフェンネルがおすすめです。

 さて、いよいよサナギになる前には、兆候が見られます。まず、あまり食べなくなります。そして、ゆるめのウンチをします。水っぽいので比較的わかりやすいです。チョウになるともう固形物は食べませんから、体内に残っているうんちに加えて、不要になる消化機能も出してしまうのだそうです。そしてどこでサナギになるかを検討するため、うろうろし始めます。敵に見つからず、しっかりとサナギになれ、無事に羽化できる場所を探すということですね。キアゲハ、アゲハの場合、棒などに捕まるよりも、虫かごのケースの壁に張り付くことが多く見られました。

羽化直前のサナギ

 無事、サナギになりました。サナギになってから数日はやわらかく、乾ききっていないので触らず、見守ります。サナギはただただじっとしているので、死んでしまっていないかと心配になることがあります。実際、道半ばで死んでしまうこともありました。幼虫から全く別の形のチョウになる(完全変態)のですから、命がけの所業ということです。心配な場合は、乾いてから、サナギを優しくつついてみてください。ぷるぷると震えて反応します。生きている証拠です。

 2週間ほどすると、いよいよ羽化が始まります。羽化する直前にはサナギの色が黒ずんできて、そのうちに透けてきます。よく目を凝らしてみると、写真のように羽の模様が見えます。こうなると羽化直前です。羽化は、たいてい朝の早い時間帯や、午前中に行われます。サナギの殻をやぶって、上方から自力で出てきます。サナギから出るのはほんの一瞬なので、私たちはいつも見逃してしまいますが。出たばかりのチョウの羽は、濡れてシワシワ。とてもじゃないけど飛べる状態ではありません。近くの棒などに捕まり、羽を乾かす時間が必要です。


キアゲハの羽化、およそ100倍速で

 乾かすこと、1時間半ほど。ようやく羽をばたつかせるようになりました。あのイモムシが、こんなに美しいチョウになるなんて。もう感動するしかありません。特に、キアゲハの色や模様の美しさは特筆すべきものがあります。間近で見たならば、多くの方がファンになるはずです。

キアゲハ 羽をのばしたところ

 さあ、いよいよ旅立ちです。といっても、まだチョウになったばかり。リリースしても、たいていは近くの留まりやすい場所、庭の木の枝や葉の下に隠れて休むことが多いでしょうか。そのうちにどこかへ旅立って行きます。またパートナーを見つけて、我が家に帰ってきてくれたら嬉しいなと思いつつ、見送ります。

キアゲハ 羽を広げたところ

 さて、キアゲハに限らずですが、チョウの幼虫を飼うことは、さほど難しいことではありません。特に、見つけやすい終齢の幼虫であれば、すぐにサナギになりますし、素晴らしい羽化の瞬間も見ることができます。この瞬間を見ることができれば、おそらく苦手な幼虫も、かわいい赤ちゃんに見えてくるはずです。

 これからの季節、幼虫をたくさん見つけることができます。自然界では、幼虫は鳥や虫のエサになりやすく、成虫のチョウになれるのは1%未満なのだそう。見つけたら、ぜひ家に招き入れ、羽化のお手伝いをしてみてはどうでしょうか?

キアゲハ
見つけやすさ★★★
飼いやすさ★★★★★
感動指数★★★★★



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プロフィール

良原リエ

音楽家。アコーディオン、トイピアノ、トイ楽器の奏者として、Eテレ「いないいないばあっ!」の音楽をはじめ、映画やテレビ、他アーティストの楽曲などの演奏、制作に関わる。インテリア、庭づくり、ハンドメイド、リメイク、子育てなどライフスタイル全てが活動・表現の場になっており、親子、子ども向けのワークショップ、イベントプロデュースなども行っている。著書に「食べられる庭図鑑」「たのしい手づくり子そだて」「まいにちの子そだてべんとう」(アノニマ・スタジオ)「トイ楽器の本」(DU BOOKS)など多数。
instagram ID : rieaccordion


良原リエさんの本

食べられる庭図鑑

広い庭がなくても大丈夫! 小さな庭やベランダで始められる、家庭菜園や庭作りのアイデアをたっぷり紹介。「野菜」「ハーブ」「果樹」「雑草・野草」など、育てて楽しい、食べて美味しい植物88種と簡単なレシピを掲載。一年を通して自然に親しむ暮らしを提案します。





たのしい手づくり子そだて
―リメイクと遊びのアイデアブック―

子どもになにか手づくりして上げたいおかあさんたちに、もっと手軽に気楽に手づくりを楽しんでほしいという良原リエさんの想いが込められた、実用アイデアブックです。センスが光る古着の形や素材を活かして作る簡単リメイクは、ものを大事に受け継ぐ気持ちと、手づくりの楽しさや自由さを教えてくれます。子どもとのかけがえのない時間を手づくりでいっしょに楽しむ、季節ごとの遊びもご紹介しています。




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