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世界自然遺産、屋久島。「海上のアルプス」とも呼ばれ登山のイメージが強い島ですが、登らずとも楽しめる自然やスポットがたくさんあります。そんな屋久島の知られざる魅力を紹介している旅ガイド『Hello!屋久島』。屋久島の港、宮之浦で一湊珈琲焙煎所を営んでいる著者の高田みかこさんが、旬の屋久島情報をお届けします!

07 石蕗始めて黄なり。




 いっせいに黄色い花を開くツワブキ(石蕗)は、暗い森の小さな灯となって辺りを照らします。
 照葉樹の森は、冬になっても葉を落とすことなく、その緑をさらに濃くするだけ。そんな黒みを帯びるほど緑深い初冬の森で、花々は他の季節にも増して、明るく輝いています。



 春の新芽は、山菜として食卓にのぼるので、他の植物にも増して、親しみ深く感じられる花でもあるのです。





 羊歯の葉の上に落ちた白いハートは、野生のサザンカ(山茶花)。
 見上げると光を反射する艶やかな葉に埋もれるように、少し縮れた薄手の花が咲いています。



 こうして野生のサザンカが咲き誇るだけあって、屋久島は、お茶の栽培に適した地域。かつては、多くの家で、畑の境界に茶の木を植え、釜炒り茶を自給自足していたそう。今でも、お茶は島の主要な産業のひとつで、春には、八十八夜を待たず、日本で一番早いともいわれる新茶が、出回ります。

 今年の秋は暖かく、ツワブキもサザンカも例年より少し遅めの開花でした。ようやくナスやゴーヤ、ヘチマといった夏野菜が姿を消し、大根やら里芋やら生姜やら、直売所にはふくよかな根菜が並びはじめています。




 先日は、息子がたくさんのどんぐりを拾ってきてくれました。
 どれもふっくら美味しそうだけど、手軽に食べられるのは、中でも特別細身で小ぶりな椎の実だけ。網で炒った椎の実は、自然に爆ぜて、甘栗のように簡単に薄皮までむけます。カシューナッツを思わせる甘みとほのかな塩味。味付けはいりません。



 この季節、車窓に目を凝らし、色づいた自然薯の葉を見つける息子。週末には、大きな友人たちと自然薯掘りです。年に数週間だけもたらされる、ありがたい森の恵みです。





 1万を超えるキャンドルが、安房の川辺に並ぶ「屋久島夢祭り」も、夜が長くなってくる季節の恒例行事。江戸初期の屋久島出身の儒学者、(とまり)如竹(じょちく)を祀った「如竹廟」をメイン会場に、色とりどりのキャンドルや、竹製灯ろうの灯がゆれるしっとりとしたお祭りです。




 そぞろ歩きの締めくくりは、澄んだ空を彩る打ち上げ花火。
 堤防の好きな場所に腰掛けて、消えゆく花火を見送れば、観光シーズンもいち段落。登山客もまばらになってきます。どんな人気店も宿も予約しやすく、ゆったり会話を楽しめるのも冬の特長。混雑が苦手な人こそ味わい深い、大人の季節です。







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高田みかこ(たかた・みかこ)

屋久島の北の港町、一湊育ちの島ライター。東京の出版社に勤務したのちUターン。現在は、宮之浦のフェリービルディングで「一湊珈琲焙煎所」と一組限定の貸しコテージ「おわんどの家」を夫婦で営む。単行本の編集、里の取材コーディネイト、WEB サイト「屋久島経済新聞」「やくしまじかん」に執筆中。
issou-coffee.com


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