アノニマ・スタジオWebサイトTOP > Hello!屋久島だより もくじ > 05 十五夜と紫の秋。

世界自然遺産、屋久島。「海上のアルプス」とも呼ばれ登山のイメージが強い島ですが、登らずとも楽しめる自然やスポットがたくさんあります。そんな屋久島の知られざる魅力を紹介している旅ガイド『Hello!屋久島』。屋久島の港、宮之浦で一湊珈琲焙煎所を営んでいる著者の高田みかこさんが、旬の屋久島情報をお届けします!

05 十五夜と紫の秋。




 大人になるまで、十五夜には全国各地で綱引きが行われていると思っていました。

 地の神に豊穣を感謝し、天高く大綱を掲げ、月に大漁を願う。「よーいよーいやなー、あれはいなー、とこせ」の掛け声に合わせて、地面に叩きつけられる大綱は、のたうちまわる龍のように、しなやかな命を得てみえます。
 南九州では、十五夜の夜に、広場や通りで、綱引きが行われます。アニミズムを感じさせるこの祭りは、屋久島でも長く受け継がれてきました。




 ひとくちに綱引きといっても、祭りの構成も、歌われる歌も、集落によって異なります。綱の素材もワラやカヤ、競技用のロープなどさまざま。
 私の暮らす一湊いっそう集落では、綱引きの数日前から素材集めが始まります。綱の芯となるカズラ(クズの茎)やカヤを各戸が供出、綱作りの会場となる通りには、青々としたカヤの束が、積み上がっていきます。綱作りは、綱引きの前日に通りを通行止めにして行います。
 漁師さんの指導のもと、綱が強く、形良く仕上がるように、カズラで芯を整え、息を合わせて練り上げる作業は、腕力と間合いが大切。ふんわりと山になっていた柔らかなカヤの束は、次々と固く練り上げられていきます。



 十五夜本番は、「おつや口説くどき」という仇討ちのうたいが流れ、謡が途切れた瞬間に全力で引き合います。その勢いといったら、ビーチサンダルの鼻緒は切れ、靴は脱げ、子どもやお年寄りは吹っ飛び、翌朝にはあちこちにアザができ、筋肉痛は免れないといった具合。
 旅人の参加歓迎の集落もありますが、軍手とスニーカー、袖のある服をお忘れなく。




 十五夜が終われば、すっかり秋。散り敷かれた紫色の花に気づいて見上げると、そこにはいつも高い木に絡まるつるの花。丈夫なカズラをもたらしてくれた葛には、濃い紫色の房状の花がいくつも垂れ下がっています。アマクサギやヤマブドウも、瑠璃色から葡萄色にゆっくりと色づく紫の季節です。







 晴れた日には、まだまだ海水浴できるような気候の屋久島ですが、緑一色だった夏の森に、しっとりとした秋の気配が漂ってきました。
 夏場には種類の少ない、島野菜や魚介類も賑やかになってきて、鮮魚店も直売所も活気にあふれてきます。

 5月の豪雨被害に伴う観光需要の落ち込み対策として、この秋は、各旅行代理店と提携した「やくしま応援割」なるツアーや、屋久島、鹿児島間の飛行機の「やくしま応援特便」キャンペーンもやっているので、「いつかは屋久島へ」とお考えの方は、ぜひ検索してみてください。





『Hello!屋久島』

全国書店にて好評発売中


<<連載もくじ


高田みかこ(たかた・みかこ)

屋久島の北の港町、一湊育ちの島ライター。東京の出版社に勤務したのちUターン。現在は、宮之浦のフェリービルディングで「一湊珈琲焙煎所」と一組限定の貸しコテージ「おわんどの家」を夫婦で営む。単行本の編集、里の取材コーディネイト、WEB サイト「屋久島経済新聞」「やくしまじかん」に執筆中。
issou-coffee.com


アノニマ・スタジオWebサイトTOP > Hello!屋久島だより もくじ > 05 十五夜と紫の秋。