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世界自然遺産、屋久島。「海上のアルプス」とも呼ばれ登山のイメージが強い島ですが、登らずとも楽しめる自然やスポットがたくさんあります。そんな屋久島の知られざる魅力を紹介している旅ガイド『Hello!屋久島』。屋久島の港、宮之浦で一湊珈琲焙煎所を営んでいる著者の高田みかこさんが、旬の屋久島情報をお届けします!

04 河童の足あと。


 息子3歳の誕生日会で、その場に集う大人たちが、それぞれの「一番古い記憶」について語るという趣向になりました。「祖母に背負われて」「乳母車に乗って」などと続くなか、私の父が繰り出したのは、足を滑らせて川で溺れかけた話でした。



 川底にゆっくりと沈みながら見えたキラキラと光る水面、それを「きれいだなあ」と眺めた記憶。幸い当時の川辺には、大人がたくさんいて、幼子はすぐにすくい上げられ、ことなきを得ました。
 島の人々にとって、海と同じく川も日常に密着した身近な存在だった時代、あの世との境界は、今よりずっと曖昧だったのかもしれません。



 時化で予定外に早戻りになったある夜、漁師が川辺の土手を歩いていると、しきりに呼びかける声がする、声のする方に降りてみると河童が相撲を挑んできました。勝負の結果で悪さをされるということもなく、負けても無事に帰宅できたので、河童と相撲を取ったという人は珍しくなかったといいます。
 最後に河童の話を聞いたのは、小学生の時で、護岸工事のコンクリートに河童の足あとが残っているというものでした。護岸がコンクリートで固められ、住処を失ったのか、夜が明るくなりすぎたのか、それ以来、河童の話を聞きません。




 旧暦の6月1日の川開きに、小麦団子を河童に捧げる風習もすっかり廃れてしまいましたが、今でも、暑さが本格的になってくると、海よりも川へと足は向きます。

 どんなにかんかん照りの夏日でも、清流に足を浸して、川風に吹かれれば、すぐに汗は引いていきます。泳いだり飛び込んだりで、体が冷えたら、日向の岩の上に手足を伸ばすと、お腹からぽかぽかと温まってきます。どの岩がぐらついて、どの苔が滑るのか、子どもたちは身をもって学んでいきます。



 緑が勢いを増す夏の島は、花少なめ。
 少ないからこそ、強い印象を残す夏の花は、ジンジャーリリー。沿道の藪の中に突如現れる純白の花は、清涼感のある甘い香りが印象深く、遠くから眺めるだけではもったいない。
 花に気づくより先に、甘い香りに振り向かされるアマクサギは、連なって咲く五弁の白い花以上に、薄緑から赤紫に変化するガクが主張します。
 秋、花を落としたガクの中から現れるのは、小指の先ほどの艶やかな瑠璃色の丸い実。繊維を鮮やかな空色に染め上げる、草木染めの世界ではポピュラーな植物。新芽は天ぷらやおひたしにして食べられるという、人間と仲の良い植物なのです。



 島では、旧暦の7月7日に近い8月7日が七夕祭り。天の川はもちろん、流れ星もたくさん見られる季節。七夕過ぎると、暑さがゆるむ立秋がやってきます。


『Hello!屋久島』

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高田みかこ(たかた・みかこ)

屋久島の北の港町、一湊育ちの島ライター。東京の出版社に勤務したのちUターン。現在は、宮之浦のフェリービルディングで「一湊珈琲焙煎所」と一組限定の貸しコテージ「おわんどの家」を夫婦で営む。単行本の編集、里の取材コーディネイト、WEB サイト「屋久島経済新聞」「やくしまじかん」に執筆中。
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