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世界自然遺産、屋久島。「海上のアルプス」とも呼ばれ登山のイメージが強い島ですが、登らずとも楽しめる自然やスポットがたくさんあります。そんな屋久島の知られざる魅力を紹介している旅ガイド『Hello!屋久島』。屋久島の港、宮之浦で一湊珈琲焙煎所を営んでいる著者の高田みかこさんが、旬の屋久島情報をお届けします!

17 4つのヤシの実とアオバト。





 「我ながら欲や(欲深い)と思ったね」と、父が浜から持ち帰ったのは、4つのヤシの実。
 父は昔から、山や海に行くと、お土産を持ち帰った。季節の花やいい香りの枝、見た目のわりに妙に重たい金属のようななぞの石や、すべすべの白い石英、海岸に打ち寄せられた漁具などは「再利用する」といい、絡まった糸をほどいて、宝箱に放り込んだ。
 なぜだかその日は、ヤシの実がたくさん打ち寄せられていたらしく、特に使い道もないヤシの実は、庭の隅のよもぎの中に転がっていた。




 また、別の日は、鳥の死骸を持ち帰ってきた。
 「アオバト」という、鮮やかな抹茶色の美しい鳥で、病院の大きなガラス窓にぶつかって目の前で即死したものをそのまま車に乗せて来たらしい。海水を飲みに海岸に飛来する生態を持つ鳩だ。「キレイだから、見たほうがいい」と言われて、庭に出ると、さっそく蟻たちが集まっていた。
 父は蟻を丁寧に払って、さて、どうしたものか。
「猫のためにこっさうい(「こしらえる」「さばく」の意)か」などと不穏なことを言い出す。




 以前、写真家の山下大明さんに、カラスバトの死体を見つけて埋葬した話をした際、「言ってくれれば取りに行ったのに」と悔しそうにおっしゃっていたのを思い出し、電話をかけてみると、すぐに車を飛ばして来てくれた。
 しばし、アオバトをひっくり返して眺め回し、その美しさを褒め称えるオジサンふたり。
 クチバシはくっきりとした空色で、遠くから桃色に見えていた脚は、クリスマスのキャンディケーンのように、赤と白のシマシマになっている。

 ヤマバトを抱えて、急いで帰ろうとする山下さんに、「大ちゃん、ヤシの実も持って行かんか」と父が声をかける。「そんなご迷惑では」と制する私の予想とはうらはらに、山下さんは両手でヤシの実を包み込んで、「これは重い。こうしたヤシの実はときに芽吹くことがあるんです」などと、嬉しそうに話し、ヤシの実ひとつ、アオバトの死体をひとつ抱えて去っていった。




 アオバトは冷凍して、「ゲッチョ先生」こと博物学者の盛口満さんに送ったそう。  ヤシの実はその後どうなったか。残された3つのヤシの実が、成長して小さな庭を占領したらどうしよう。そんなふうに思いながら、今もそのまま庭に転がるヤシの実を目の端に捉えている。







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高田みかこ(たかた・みかこ)

屋久島の北の港町、一湊育ちの島ライター。東京の出版社に勤務したのちUターン。現在は、宮之浦のフェリービルディングで「一湊珈琲焙煎所」と一組限定の貸しコテージ「おわんどの家」を夫婦で営む。単行本の編集、里の取材コーディネイト、WEB サイト「屋久島経済新聞」「やくしまじかん」に執筆中。
issou-coffee.com


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