第3回 チョウ
~ツマグロヒョウモン編~

 身近なチョウの幼虫を保護し、成虫へと羽化する様子を観察してきました。その中で、多くの方に魅力を伝えなければならないと痛切に感じたのは、ツマグロヒョウモンというチョウです。名前だけではピンと来ないかもしれませんが、画像を見れば、ああ、あのチョウか!とわかる方が多いのではないかと思います。都会でもよく見られますし、生息期間も長いようで、春先から秋深まるまで見つけることができます。


ツマグロヒョウモンのオス

 オレンジ色の羽は、緑色の中でもとても目立ちますね。その場がぱっと明るくなるような、鮮やかな色です。オスとメスはどちらもオレンジ色が基調となっていますが、微妙にデザインが違います。見分け方は簡単で、黒い部分が多い方がメス。卵を産むメスの成虫は、敵に狙われないように、毒をもつスジグロカバマダラに模様を似せていると考えられているそう。

ツマグロヒョウモンのメス

 さて、ツマグロヒョウモンの幼虫を紹介したいと思います。幼虫の見た目は、先に書いてしまいますが、結構グロテスクです。そういうものだと心構えをしてから、見てくださいね。

ツマグロヒョウモンの幼虫

 どうでしょうか?気持ち悪いですか?でも、お父さんとお母さんとそっくりな配色です。この見た目になった理由が納得できます。第一回で紹介したキアゲハ、第二回で紹介したナミアゲハはいずれも幼虫の終齢は緑色を基調としていましたが、これはおそらく緑の中で目立たないようにということではないかと思います。一方、ツマグロヒョウモンは両親の色を使い、毒々しい見た目にすることで、敵に襲われないようにしているのではないでしょうか。

 しかしながら、理由を知ったところで、抵抗がある方が大半かもしれません。黒にオレンジなんて『危険ですよ!』と言っているようなものです。実際に目の前で見ると、毒々しさに声をあげてしまうかもしれません。しかし、この見た目に反して、毒はないのです。トゲトゲして見える部分もやわらかく、触っても痛くありません。そう見せているだけなのですね。そのことを知っているだけでも、ハードルが下がるのでは。

 さて、ツマグロヒョウモンの食草は、スミレ科の植物です。野生のスミレのほか、園芸種のビオラやパンジーなども該当します。都会でもよく見られるのは、家庭菜園でビオラやパンジーを育てる方が多いからだと思います。実際、今年の3月に、お隣さんの花壇に、大量のツマグロヒョウモンの幼虫を発見しました。

ビオラとツマグロヒョウモン

 花壇に植えられていたのはビオラのみ。きっとメスであるお母さんは、ここは最適な産卵場所だと思い、大量に産んだのでしょう。ほんの50センチ四方の場所に、なんと20匹もの幼虫が。3月とはいえ、まだ肌寒い時期でもあったので、ビオラの葉の陰に隠れて越冬したのではないかと思います。ちょうど息子の友達が遊びにきていたので、みんなでたっぷりと観察をしました。


幼虫をぬいぐるみに乗せて楽しむ子ども達


幼虫を菜箸に乗せてシーソー遊び


 ところで、ツマグロヒョウモンの幼虫を観察していくうちに、大きな気づきがありました。それは、スミレ科の植物ならなんでも良いわけではない、ということです。我が家の庭とその周辺には、野生のスミレが生えています。そこでツマグロヒョウモンの幼虫をよく見かけます。ただ、野生のスミレは小ぶりなので、幼虫はあっという間に食してしまい、そのうちに食べ物を求めて彷徨い始めます。右往左往する幼虫がかわいそうだなあと、何度思ったことか。そこである日、園芸店からビオラを買ってきて、好きなだけ食べていいよと幼虫を乗せてみたのでした。これで一安心と思ったら、ちっとも食べません。食べないどころか、嫌がるように葉から離れ、鉢の外側に避難してしまいました。気にいらないならと、庭に生えていたパンダスミレやタチツボスミレに乗せてみるも、やはり逃げるように離れてしまいました。これらもダメならと諦めて、元いた場所の、もう茎しか残っていない野生のスミレに乗せたところ、ほっとしたように茎にしがみついたのでした。

 フェンネルで見つけたキアゲハは、パセリでも三つ葉でも人参でも、セリ科ならなんでも食べます。同様にレモンで見つけたナミアゲハは、ゆずでもキンカンでもルー(ヘンルーダ)でも、ミカン科なら食べるのです。なのに、ツマグロヒョウモンは、幼虫が生まれた植物そのものでないと、受け入れてくれないなんて!

 食べる植物の科が決まっているだけでも、結構な偏食だと思いますが、ツマグロヒョウモンの場合は、生まれた植物と同じでなければ食べないこともあるのです。これは相当な偏食と言えるのでは。

 さて、偏食ながらもどうにか食べ終えたあと、いよいよサナギになります。ツマグロヒョウモンのサナギは、特筆すべきものがあります。それはキラッキラの模様!幼虫も派手ですが、サナギも派手なのです。サナギになった当初はオレンジ色で、そこから黒ずんでいくのですが、メダルのような模様は、サナギになった時から羽化するまでずっとキラッキラしていて、本当に素敵。ツマグロヒョウモンのサナギは、めちゃくちゃオシャレなのです。

メダル模様のサナギ

 さて、羽化が始まりました。サナギから出てきたチョウは、これまでのチョウと同じようにびしょ濡れです。しばらく経つとレンガ色の液体が垂れます。これは、体を作り替える際に発生した、不要物が出てきたもの(サナギ便、ようべん)だそう。最初は血かと勘違いして、驚いたものでした。


羽化したばかりのツマグロヒョウモン。右下にサナギ便が見えます。


 羽化した後は、恒例のイチャイチャタイムです。この美しい成虫のデザインを見ると、幼虫の頃のグロテスクさなど忘れてしまいます。我が家で羽化したツマグロヒョウモンは、アゲハに比べてのんびりとしていて、かなり長い間、部屋で遊ぶことができました。息子の顔や手に留まったり、部屋でくつろぐ息子の傍でのんびりしたりと、飛び立つ素ぶりを全く見せないので、最終的にはわざわざ庭に連れ出したほどです。

息子の袖に留まる羽化したばかりの成虫


耳にも留まったり


テーブルの上の花でまったりしたり


一緒に動画を見たりしました

 ここまで読んでいただけたら、理解してくださったと思いますが、ツマグロヒョウモンの幼虫に毒はなく、トゲトゲで刺したりもしません。食草に強いこだわりがあり、食べ物を探して彷徨い続ける、か弱い赤ちゃんなのです。もし、育てているビオラやパンジーに毒々しい毛虫がついたとしても、慌てて殺虫剤をかけることはせず、観察して、きれいなチョウになる様子を楽しんでもらえたらいいなと思います。メダル模様のサナギも一見の価値ありです。それでも、ビオラやパンジーに幼虫が付くのは耐えられないというのであれば、ほかの花を選んだほうがいいのかも。ツマグロヒョウモンのお母さんは、ベランダでも小さな鉢でも、ちゃーんと見つけて卵を産みに来ますから。
ランタナの蜜を吸うツマグロヒョウモン



ツマグロヒョウモン
見つけやすさ★★★★
飼いやすさ★★★
偏食度とオシャレ度★★★★★



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プロフィール

良原リエ

音楽家。アコーディオン、トイピアノ、トイ楽器の奏者として、Eテレ「いないいないばあっ!」の音楽をはじめ、映画やテレビ、他アーティストの楽曲などの演奏、制作に関わる。インテリア、庭づくり、ハンドメイド、リメイク、子育てなどライフスタイル全てが活動・表現の場になっており、親子、子ども向けのワークショップ、イベントプロデュースなども行っている。著書に「食べられる庭図鑑」「たのしい手づくり子そだて」「まいにちの子そだてべんとう」(アノニマ・スタジオ)「トイ楽器の本」(DU BOOKS)など多数。
instagram ID : rieaccordion


良原リエさんの本

食べられる庭図鑑

広い庭がなくても大丈夫! 小さな庭やベランダで始められる、家庭菜園や庭作りのアイデアをたっぷり紹介。「野菜」「ハーブ」「果樹」「雑草・野草」など、育てて楽しい、食べて美味しい植物88種と簡単なレシピを掲載。一年を通して自然に親しむ暮らしを提案します。





たのしい手づくり子そだて
―リメイクと遊びのアイデアブック―

子どもになにか手づくりして上げたいおかあさんたちに、もっと手軽に気楽に手づくりを楽しんでほしいという良原リエさんの想いが込められた、実用アイデアブックです。センスが光る古着の形や素材を活かして作る簡単リメイクは、ものを大事に受け継ぐ気持ちと、手づくりの楽しさや自由さを教えてくれます。子どもとのかけがえのない時間を手づくりでいっしょに楽しむ、季節ごとの遊びもご紹介しています。




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