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かぞくのブリコラージュ~自分たちで暮らしを作る、日常の発明記~かぞくのブリコラージュ~自分たちで暮らしを作る、日常の発明記~

文・写真・題字/中村家


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チャプター2

番外編 春の失敗


 ブリコラで作ったものたちはその後、どうやって使われてきたのか、使われているのか。我が家の現在と共に紹介しているこの連載。
今回は番外編をお届けします。


 我が家のバスルームについて書こうと思っていた5月。
 ですが、春が終わる前に書いておきたいことがあって、こうして番外編を綴っています。
 今春のブリコラ失敗話と、そこから考えたこと。ぜひお付き合いいただけたら嬉しいです。


 この春、はりきって作ったものが2つ、立て続けに不発というか失敗に終わる、ということがありました。


 ひとつはバードハウス。
 湖側の窓辺の柱には先住の方がとりつけたバードハウスがありました。肌寒い春のはじめ、シジュウカラのつがいがやってきて、中に枝やら羽やら葉クズやらを集め巣作りし、たまごを産み、子育てし…よちよちとたよりない子どもたちが巣からつぎつぎと出てきては飛ぶ練習をした末、旅立っていく…。
 この家に住んで7年目。毎年その姿をこっそり見守るのが家族みんなのささやかかつ大きな喜び。ピピとカラ、というシジュウカラソングまで作ったくらいです(確か「かぞくのブリコラージュ チャプター1」でそのことも書いたはず)

 そんな家族の中でもとくに熱い愛情を持っていたのが夫・ひょーさんでした。
 今年、まだ寒い頃にバードハウスを取り外し開くと、去年作られたフカフカの巣がでてきました。こんなものを小さな口ばしと足で作るなんて…。





 感動したひょーさんは、ピピカラハウスをバージョンアップすることを(なぜか)決意。
 驚くべきスピードで知り合いの木工作家さんに自らデザインしたバードハウスの枠をなめらか~~~~に仕上げ届けてもらい(しかもこの板は廃材ではなく新しいもの)その壁をひょーさんが左官し土壁に。土の中には去年のシジュウカラの巣が混ぜ込んであり、土を塗った土壁は、なんていうか土壁の中に藁が混ぜられた昔の日本家屋のような風合い。
 「これこそ、シジュウカラとの共同作業で作ったブリコラバードハウスだ!!」と、ひょーさんは大変ご満悦。
 見た目は大変可愛らしく仕上がったニューバードハウス。
 よく見える場所に三脚とカメラを固定し、シジュウカラがきたら定点観測的に写真と動画を撮る!!と鼻息荒くしていたひょーさん。
 ですがこの春シジュウカラ、やってこなかったのです…(大ショック)
 正確には見物にはきていたのですが、バードハウスに入ってくれなかった…。





 去年の巣を混ぜ込んだ土壁や、共同作業だ!なんて人の存在をズイズイとアピールされるようなこと、シジュウカラは求めてなかったようです(そりゃそうですよね)
 ひょーさんが「今日こそ入るか~~?!あ~~だめだ~~~!!!」と固唾をのんではソファに倒れ込む、という騒がしい日々がしばらく続いたのち、 「…今年だめだったね」と、ついに結論が出てがっくり。
 今現在も柱についたままの空っぽブリコラバードハウスを見ながら、来年ははたして来てくれるんだろうか…?!ドキドキの課題まで持ち越してしまった、これがひとつめの失敗です。



 そしてふたつめは、息子・樹根の自転車です。
 2年前くらいから「樹根の自転車そろそろ必要だよね」という話題にのぼる度「種ちゃんの自転車直すのがいいよ」という話になっていました。現在中学一年生の姉・花種さんが保育園の年中さんの時にいただいたピンクの自転車。タイヤがパンクし、ハンドルも壊れたものがそのままになっていて、それらを直し、ペイントし直し、樹根用に作り替える。とてもいい案。
 じゃあやろう!と言って時は流れ2年。気付けば樹根は小学生になってしまっていました。





 わたし「やっぱり自転車は買おうか…?」
 ひょーさん「いや、直す!」
 という会話を数えきれないほどに繰り返し、5月。ついについについに 自転車改装に着手しました。壊れていたブレーキやハンドル、タイヤのパーツを取り寄せ、うちで余っていた塗料の中から樹根が選んだ墨色に塗装するため全解体。塗装し乾かし組み立て直し。
 取り寄せたハンドルがうまく入らない…サイズが合わないのかも…パワー勝負でねじ込むしかない…ペンチで抑えてるハンドルすでにキズキズ…まだ一度も乗る前にキズキズ…ああ入らない…入った…!
 と、そんなこんなで、なんとかかんとか自転車改装、完成しました。
 なかなか、かっこよくなった!!




 喜び勇んで樹根が乗ったところ。
 塗装のせいか?組み立てのせいか?ペダルが信じられないほどに重い。
 そしてなんとか回ったと思ったら、一漕ぎごとにキェ~~~~~~という耳障りな音が鳴り響く…。
 庭で重いペダルをキェ~~~~~~キェ~~~~~~キェ~~~~~~と漕ぐ樹根を支えること数分。
 ひょーさん「よし。自転車買おう」

…その夜注文された自転車は翌々日にあっという間に郵送され、大きな箱を開いたひょーさんが
「あ、これも組み立て式だ!一度直したから説明書みなくてもよくわかる。ほんとに自転車改装してみてよかったなあ!」と、いうのを聞いた時、この春の顛末すべてがわたしたち家族を象徴しているように思ったのでした。

 2年寝かせてた自転車は買ったらすぐだった。パーツをわざわざ揃えて時間をかけて直したけど乗ることができなかった。すごく無駄だった。失敗だ。
 そう思ったり、言われたりすることもあるかもしれない。けど、でも、やったからこそわかったことがある。

 このかぞくのブリコラージュ チャプター2の「はじめに」で
「全部やってみないとわからなかった。だから何度でも崩して、やりなおしてきた。このつぎはぎは、暮らしの歴史で家族の歴史。」
と書きました。

 手を動かして何かをつくるブリコラージュ作業だけに限らず、
 「かぞくのブリコラージュ チャプター1 チャプター2」を書き綴っているこの数年、わたしたち家族は仕事のかたち、暮らしのかたち、家族とすごす日々のかたちを描いて変わろうとし、進もうとし、模索し続けている日々です。
 変えてみて、でも崩れたり、またやりなおしたり…そんなことを繰り返しつづけていると、ときどきさすがに疲れたなあ、と思うこともある中で、ひょーさんがぽつりと言いました。
 「ぼくたちのテーマは再生だよ」

 何度でもやり直せばいい。やり直せる。
 何度でも何度でも、描いていける。

 それがきっとわたしたち家族のつよいところ。
 すきなところ。

 そう思えば、この春の2つの失敗はわたしたち家族にとって、なんだかとても 正しい(?)出来事だった気がするのです。

 まだ空っぽのバードハウスに来年への夢を描き、 乗れなかった自転車(しかもハンドルは結局はずれてしまった)は新しい自転車の横にひとつの歴史として、誇らしげに飾られています。

わたしたちは何度だってやり直せる。
再生家族なのだわ!と改めて胸に刻み、希望いっぱいの春がそろそろ終わります。



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中村俵太(ひょうた(父/夫)

「HYOTA」として空間デザインを生業にしつつ、中村家のあらゆる『家族』活動のディレクター的立ち位置も。決断力と実行力はあるけど計画や段取りは非常に苦手。人見知り。日本生まれ日本育ちなのに日本語がおかしい。極めて楽天的でポジティブ。家族愛は強いがピントがいつもややずれがち。

中村暁野(あきの(母/妻)

家族や生活をテーマに執筆活動を行なっている。理想を追って突っ走りがち。でもその突っ走りによって人生動かしてきたという自負もあるので、引き続き突っ走る気まんまん。ブリコラ生活の果て2021年夏「家族と一年商店」がオープンし小商店主という予想だにしていなかった人生展開もスタート中。

中村花種(かたね(娘)

繊細で敏感な子ども時代を経て、現在爆発的パワーで家族を圧倒する思春期入り口の13歳。極度の内弁慶だったけれど藤野暮らしの中で壁を越え、自分の世界を築こうと成長中。現在両親のやることなすこと、言うことスベテが気に入らない反抗期真っ只中。

中村樹根(じゅね(息子)

マイペースでごきげんな6歳児。人類みな友達的オープンマインド。恐竜がだいすきで1日の半分、心は恐竜の世界へ。甘いもの大好き。虫歯になりがち。姉とはトムとジェリーのような関係。

バター(うさぎ)

花種さんの膝に飛び乗るすきを常に伺っていた、アメリカンファジーロップのオス。2022年の3月、天国へ...。花種さんの部屋の前の、ユスラウメの木の下に眠っている。



家族カレンダー

中村暁野
定価 1760円(本体価格1600円)
ひとつの家族を自身の家族で取材して制作する雑誌『家族と一年誌 家族』編集長である著者による初めての自著。ブログに綴った5年の間には、たくさんの幸せな日とそうでない日とがありました。「家族」を通して自分と社会に向き合い続けた実験の記録。一日々々のかけがえのなさを感じられる一冊です。


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