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かぞくのブリコラージュ~自分たちで暮らしを作る、日常の発明記~かぞくのブリコラージュ~自分たちで暮らしを作る、日常の発明記~

文・写真・題字/中村家


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その7
「真夏の野外映画館」for 娘





娘の夏休みの楽しみといえば、パリから一時帰国する友達と再会すること、田舎へ帰郷して海で遊ぶこと、祖父母の家近くに住む幼馴染たちと集まること…。小さい頃から毎年続いてきた楽しみが、叶わない今年の夏。「何もかもできない」と嘆いていた娘が計画したのは、テラスに映画館を作ること。なんの仕事で使ったのかもわからないまま残っていた半端な大きさのベニヤや合板・角材を使い、スクリーン台、座席、屋台を製作。広告のスタイリングで使ったきり仕舞いこんでいたハンモックを設置できる台も作って、座席はハンモック!看板や照明で飾り付けにもこだわって、一夜限りの映画館をオープンしました。










真夏の野外映画館までの日々
(2020年8月1日~21日まで)




8月1日

千葉・大多喜のMitosaya江口一家が藤野へ。いつもわたしたちがお邪魔するばかりで、江口一家がうちへ来るのは初。一泊してくれるというので、この日を指折り数えて待ってた花種さん。江口家のミトちゃんサヤちゃんは心の友的存在。藤野をいろいろ案内して、行ったこともなかった馬に乗れる屋外カフェにまで入ってみた(そして江口家の祐布子さんが馬に乗った)。夜はテラスでいろいろ焼いて食べたり、花火をしたり。



8月2日

花種さんの通うシュタイナー学園を見てみたいという江口家のリクエストで、みんなで散歩しがてら向かう。山道を一時間弱登った。実は歩いて学校には行ったことがなかったひょーさん。初めて登って「たねちゃん、ここをいつも歩いてるってすごいな…」と、感心しつつ、バテバテ。7月31日から始まったhito press企画の写真展、設営作業が大変だったらしく、疲れがまだ抜けていない模様。「大和家」でみんなで担々麺を食べ、お昼過ぎに江口家は帰っていきました。ひょーさんの新しいプロジェクトでMitosayaにある協力をしてもらうことになっていて、その打ち合わせもちょっとした。なので次は9月に、またMitosayaで会えるはず。


8月3日

歯医者。3歳過ぎまで夜中もおっぱいを飲んでいたからか、前歯が虫歯になってしまった樹根くんの治療に…。家からずっと嫌だ嫌だと大抵抗を見せるので、家族全員が付き添って、なだめ脅してまたなだめ…と大騒動。結局まずは慣れることからはじめよう、と治療台の上で歯磨きだけした本日。終わると肩で風をきって歩き「ぜんぜん痛くなかった!」と受付のおねーさんに報告していた樹根…。そりゃ、痛いわけない。



8月4日

ひょーさんの10年来の友人であるケイくんが我が家に遊びに来る。仕事でやってきたこと、今後やっていきたいことに共通するものがあって、いろいろ話した。ケイくんは、樹根に会うのは初めて。「樹根、何歳?3歳?オレと同じ年じゃん!」と会って1分以内においかけっこを始めていた。隣町の喫茶店「ハシドイ」のファラフェルサンドをテイクアウトして、佐野川へ。川辺にクレソンがいっぱい生えていたから、摘んでファラフェルサンドに挟んで食べた。ケイくんもひょーさんも、コロナが起きて仕事はいろんなことが変わらざるをえなかった。でも今ひょーさんがやろうとしていることも、ケイくんがやろうとしていることも、ここ何年もずっと燻っていた、気づかない間に胸の底の方で育んできたものだったのだな、と改めて思った。おしゃべり好きなケイくんからは名言がたくさん飛び出し、子どもたちとも対等な友達のように話していた。ケイくんが帰る時、樹根は「またあそぼうな〜!」と、男の友情が生まれたみたい。



8月5日

ようやく梅雨があけて数日。梅の天日干しがまだできてない…。ひょーさんがhito pressで企画した写真展の「midday ghost」の搬出日。この前設営したと思ったらあっという間に搬出。わたしは結局展示を観に行けなくて、それはいろんなスケジュールの調整が夫婦でうまくいかなかったせいで、そんなきっかけでまた夫婦喧嘩。お互い「自分は頑張ってるのに!」という気持ちが募ってる。夫婦間の思いやりを意識しなければ…。夜、花種さんに「いつかママが死んじゃうことがあったらさ、交換日記をしよう」と提案される。小人や神様の存在を信じている9歳。彼女の中では肉体がなくなった後、天国経由で交換日記するのは可能なことらしい。そんなことができたらいいなと想像して、でもまだまだ死なないように、生きていきたいと思う。



8月6日

展示を終え、hito pressで作った濱本奏さんの写真集『midday ghost』の販売に向けアトリエに大量の写真集が届いた。配送業者さんのトラックが大きくてアトリエ前に着けれず、離れた場所から何回も往復しながら運び込み、汗だく。家族と一年誌「家族」もそうだけどhito pressも取次を通さず本屋さんや個人の人に直接販売するので、オーダーをうけたら都度発送する。在庫管理と発送は、地味に大変。だけど、直接届けることで手応えとつながりを感じられる。今日は広島に原爆が落ちた日。ニュージーランドのアーダーン首相が広島と世界にむけて発表した言葉が、とても良かった。真っ当なことを言ってくれていた。


8月7日

ようやくようやく、梅干しを干した。瓶からザルに梅を出していたら、こういう作業大好きな樹根が大急ぎで自分の箸と踏み台を持ってやってきた。「じゅねがやってやるよ」と、梅全部、並べてくれた。梅酢も大匙とジョウゴを使って、樹根が移してくれた。


8月8日

次回ブリコラはレコードプレーヤーを作る予定だったのだけど、クラスの友達が泊まりに来るので特別に映画を観たい、という花種さんのプレゼンを受け、映画館を作ることになった。子どもたちが受けているシュタイナー教育では基本、高学年になるまで映像などのメディアは観せないことになっている。なぜ観せないのか、その理念はとても共感できるものなので、うちにはテレビもないし、YouTube等も見せてない。けど、それ故に特別なこととして「休みだし!!映画!!!観たい!!!!」という熱望。スクリーンや座席、屋台などなど作りたいというので、自分で作りたいものがあるなら…それもいいか、とテラスに一夜限りの映画館を作ることなった。こうしてどんどん、父の作りたいものは先送りになってしまうよね。



8月9日

去年の夏、子どもたちと通った牧郷の川へひょーさんも初めて一緒に行く。その川がとてもとても良い、と去年からずっと話していたのに「フ〜ン」と受け流してたひょーさん。川に着くなり「わあ…めっちゃいいとこだね…最高じゃん…」と何度もつぶやく。だから、ずっとそう言っていたでしょ〜。お昼まで川で遊び、お弁当を食べ、午後は映画館の作業にとりかかる。お友達が来るのは月末の予定。スクリーン台、座席、屋台、看板(?)と作りたいものいっぱい。間に合うかな。



8月10日

ちょっと前から朝に自分の時間を作ることにした。5時に起きて、窓の外の山と湖にむかってヨガやストレッチをする。5時なら子どもたちに中断される恐れなく、自分の時間を持てることがわかった。気持ちいい。hito pressのオーダーがたくさん入っているので、モクモクと梱包し、発送作業。



8月11日

今日も発送作業。そして、また川へ。



8月12日

洗濯洗剤がきれてしまったので、量り売りで洗剤を買えるお店目指して湘南へ。高速道路に乗るの、久しぶりすぎてひやひや。窓全開で高速走ったら、音も風もダイレクトに感じすぎて益々ひやひや(わたしの愛車ジムニーJA22はエアコンつけると途端に調子が悪くなる)。無事洗剤を購入し、帰りの高速では雷。帰宅直後に大雨、のち大きな虹。しかもダブルレインボー。


8月13日

樹根が毎晩甲斐甲斐しくザルを部屋にいれ、翌朝またテラスに出し…とお世話してくれた梅干しができた。今年は途中カビが生えかけ塩を追加したので、とてもとてもとても塩辛い。塩辛さと酸っぱさで顔がくしゃくしゃになる。梅干しを梅ジュースに入れて飲むと美味しい、と友達に聞き、さっそくやってみた。炎天下で木を切ったり組み立てたりして、大汗かいたし塩分補給にもちょうどよいと思ったのに、家族には不評…。美味しいのに!



8月14日

今日はバターの誕生日。祝2歳!近所のお友達がきて、ガールズたちは朝からはりきって誕生日会の準備。スモモのケーキを焼いたり、花を摘んできてテーブルを飾ったり、手紙を読んであげたり、愛情たっぷりの会を開催してた。ケーキはバターたべれないけれどね…。午後からhito pressから写真集を出した濱本奏ちゃんと、写真家の小林真梨子ちゃんの対談のインタビュー。2人の対談は記事にしてhito pressのサイトで公開する予定。



8月15日

hito pressの他に、もうひとつ軸としてひょーさんが立ち上げるプロジェクトの準備の一環で、間伐材を使い器やカトラリーを作る活動をしている近所のご家族のお家に木を見せてもらいに行く。その家族は、ひとつひとつの「もの」をとても大切にしながら暮らしている。今まで仕事で「すてきなもの」をつくるために、前後でどれだけたくさんの「もの」を使い捨ててきたか。ひょーさんがそうやって得たお金で、わたしたち家族の暮らしが成り立ってきたこと。そんな矛盾をもう手放そうと思っていること。そんな話を聞いてもらった。帰ってきて、映画館の座席となるハンモック台を製作。ハンモックに揺られて映画を見るなんてきっと最高。それにしても勢いで作業を始めるのはわたしたちの悪いクセ。花種さんとわたしはワンピースのまま製作しはじめてしまって、とても作業しにくかった。今日は終戦記念日。「せんそうって強いの?」と樹根に聞かれたから「戦争はこの世で一番最悪なものだと思ってる」と答えた。


8月16日

映画館製作。ドリンクなどを並べる屋台完成。暑すぎるので庭にプールを出して水着で出たり入ったりしながら作業。



8月17日

花種さんとけんか。休みで24時間子どもといると、やってもらうことに対して当然のような顔をして要求文句ばかり言ってくる姿に腹がたってしまう。hito pressの発送作業をして、子ども達がプールで遊んでいる間に少しうたた寝。ここ数日、毎日夕方に雷雨と虹。



8月18日

朝から花種さんの友達が遊びに来て、お泊まりもすることに。ワーワーしている中、わたしは原稿を書く。二階にふとんをしいて花種さんと友達が寝たので、ベッドが広くて樹根はごきげん。夜中もドタドタとガールズは12時すぎまで起きていた気配。



8月19日

朝5時には起きていた子どもたち。騒がしい中、朝のヨガをする。ごはんを食べて、お弁当を作って、今日も川。お弁当には凍らせた果物を持っていくと保冷剤代わりにもなってよい。朝9時半に行って、結局16時まで川にいた。帰ってきて、わたしはくたくただったけど、子どもたちは庭を走り回って遊んでる。夏を遊びつくす、すさまじい体力。




8月20日

いよいよ明日は映画館の日!なので、製作も追い込み。スクリーン台、看板など作りつつ、家にあるプロジェクターの接続を試したところ。案の定繋がらず……。古いプロジェクターなので、いろいろ試行錯誤して、なんとか映すことが出来るように。お昼は疲れて近所にある蕎麦屋さん「喜庵」で。天ぷらそばが美味しかった。




8月21日

午後に花種さんの友達がくるので、朝からてんやわんやで映画館の仕上げ。花種さんはチケット作ったり細部までこだわるこだわる。友達が来ても映画館計画は秘密のまま、薄暗くなってから家の裏の小道を通ってテラスにご案内するという計画。ギリギリで製作間に合った…。友達が来た途端、花種さんは遊びながらもてなすことに注力しはじめたので、ひょーさんとわたしが必然的にスタッフとして上映、屋台の店番を担当することに。上映作品は熟考の末、花種さんが選んだディズニーの「モアナと伝説の海」(ここまで来たら、とわざわざDVDを買った…)。映画館への入場からドリンクやアイスの引き換え、上映の最初から最後まで、この上なく嬉しそうで楽しそうだった花種さんとお友達(樹根は映画を怖がって、早々に部屋に入ってしまったけど)。この2020年という特殊な夏休みの、特別な夜になったかな。子どもが嬉しそうな姿を見るのは、こちらもとても嬉しい。そしてその姿が、彼女自身の頑張りによって生まれたんだと思うと、ますます嬉しいな、と思った。




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中村俵太(ひょうた(父/夫)

「HYOTA」として空間デザインを生業にしつつ、中村家のあらゆる『家族』活動のディレクター的立ち位置も。決断力と実行力はあるけど計画や段取りは非常に苦手。人見知り。日本生まれ日本育ちなのに日本語がおかしい。極めて楽天的でポジティブ。家族愛は強いがピントがいつもややずれがち。

中村暁野(あきの(母/妻)

家族や生活をテーマに執筆活動を行なっている。理想を追って突っ走りがち。でもその突っ走りによって人生動かしてきたという自負もあるので、引き続き突っ走る気まんまん。ブリコラ生活の果て2021年夏「家族と一年商店」がオープンし小商店主という予想だにしていなかった人生展開もスタート中。

中村花種(かたね(娘)

繊細で敏感な子ども時代を経て、現在爆発的パワーで家族を圧倒する思春期入り口の13歳。極度の内弁慶だったけれど藤野暮らしの中で壁を越え、自分の世界を築こうと成長中。現在両親のやることなすこと、言うことスベテが気に入らない反抗期真っ只中。

中村樹根(じゅね(息子)

マイペースでごきげんな6歳児。人類みな友達的オープンマインド。恐竜がだいすきで1日の半分、心は恐竜の世界へ。甘いもの大好き。虫歯になりがち。姉とはトムとジェリーのような関係。

バター(うさぎ)

花種さんの膝に飛び乗るすきを常に伺っていた、アメリカンファジーロップのオス。2022年の3月、天国へ...。花種さんの部屋の前の、ユスラウメの木の下に眠っている。



家族カレンダー

中村暁野
定価 1760円(本体価格1600円)
ひとつの家族を自身の家族で取材して制作する雑誌『家族と一年誌 家族』編集長である著者による初めての自著。ブログに綴った5年の間には、たくさんの幸せな日とそうでない日とがありました。「家族」を通して自分と社会に向き合い続けた実験の記録。一日々々のかけがえのなさを感じられる一冊です。


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