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かぞくのブリコラージュ~自分たちで暮らしを作る、日常の発明記~かぞくのブリコラージュ~自分たちで暮らしを作る、日常の発明記~

文・写真・題字/中村家


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その4
「野菜バルーンポット」for みんな





春にはじめた小さな畑。調子にのってたくさん種を蒔いたら、スペースが足りなくなってきました。かつて撮影の仕事などでよく使っていた風船を膨らませた後のヘリウムガス。その空きタンクを切断し、色を塗り替え、穴を開けて、ポットを制作。日当たりのよいデッキ並べ、きゅうりやバジルを育てはじめました。初収穫のきゅうりは、ぬか漬けとなりました。










バルーンポットで収穫までの日々(2020年5月26日~6月16日まで)


5月26日

徒歩1分の場所に住む、ともちゃん宅でお茶。互いに2児の母ということで、2ヶ月に渡る子供と密着した日々を労いあう。ともちゃんにパラダイス酵母をもらった。巷で話題の、りんごジュースをかけ継ぎするだけでよいという酵母。発酵力がすごいらしい。



5月27日

花種さんは近所の子供たちと川へ。今年初の川泳ぎ。鼻水が出ているので樹根はわたしとステイホームです。パラダイス酵母でパンを焼いてみた。ぷくーーと膨らんだ!噂通りの発酵力だ…。夕方帰ってきた花種さんは、すでに真夏かなってくらい、焼けている。



5月28日

ものすごい夕立。そして一気に冷え込んだ。案の定樹根が咳をしだしたので、先日のアントロポゾフィークリニックでもらったハーブのシロップを飲ませてみたら、ゼコゼコヒューヒューに移行せず……持ちこたえた!甘夏を刻んでジャムを作る。子どもには不評だけど、わたしは甘夏のジャムが好き。隣でひょーさんはレモンを輪切りにし、スパイスやバニラビーンズと煮込んでオーガニックコーラを作ってた。ひょーさん手作りのオーガニックコーラは、我が家の夏の風物詩。まだ夏には早いけど。



5月29日

前回作ったバターハウス。その作業で使って蘇った廃材はもちろんたくさんあるんだけど、制作後、いよいよこれはどうにも使えないよね、という終着点(?)にたどり着いた廃材もあるわけです。ブリコラージュの中でさえ廃棄物をゼロにするのは容易いことではない。そんな廃材を捨てに隣町のゴミセンターへ。きれいな自転車が山のように積まれているのを見て、なんとも言えない気分になった。センターの近くのコーヒー店が開いていた(!)ので寄って、ひょーさんとわたしはカフェラテ、子供達は桃ジュースを頼み、「…こういうの…久しぶりだね~~~~~!!」と盛り上がる。お店でお茶することが、なんだかもう、ひどく懐かしいってくらいの感覚。
さてブリコラージュ。以前仕事で風船を大量に膨らませた際に使ったヘリウムガスの空タンクがたくさんあるので、これを使おうということに。上部分を切って、ペイントして、底に穴をあけたら、どうでしょう。これ、ポットになるんじゃないかしら。その名も「バルーンポット」。庭の一部を畑にしたけど、苗を植える場所がたりないので、このポットでも野菜を育ててみようということに。穴をあけたポットに庭の石をひろっていれて、土をいれて。いい感じに育ってきてるキュウリの苗を、もうちょっとしたらバルーンポットに植え替えてみよう。



5月30日

お隣のレイコさんが庭のユスラウメを取りにおいでと声をかけてくれた。レイコさんの家のユスラウメはさくらんぼより甘いってくらいに美味しい。ボウルいっぱいとらせてもらった。


5月31日

気圧が下がったからか、明け方から樹根くんが喘息症状。朝から夜中までゼコゼコ。「くるしいい~くるしいい~~いきが~~~」という声が一日中響く重苦しい我が家…。



6月1日

朝起きたら樹根が元気で、ほっとする…。花種さん、今週は登校日が2日に。授業時間も1時間から3時間に。帰ってきた花種さんに何をやったか聞くと、お手玉と鬼ごっこをして、10時におやつを食べ、4年生の学びである「郷土学」で校舎を周って地図を書き、最後に「畑」の授業で草ぬきをした、とのこと。久々のまとまった授業がほぼ遊んでるようで笑ってしまったけど、ひょーさんもわたしも「いい学びだねえ!」と言い合った。遊びのようなこの学びの中に、わたしたちが今、大切にしたいと感じていることが詰まっている気がする。…ついに我が家にもアベノマスクが届いた。


6月2日

いよいよひょーさんに仕事の話が舞い込み始めている。世の中が…動き始めている。まだ自分たちの今後やるべきこと、やらざるべきことを明確にできていないので、仕事の話が来るというこの事態はまずい(とてもありがたいけど)。目先のものに釣られて、今考えてることや感じてることが遠ざかっていってしまったらいけない。(と自分に言い聞かせる)。アメリカが大変なことになっている。ずっと続いてきた差別や、差別によって奪われてきた命。アメリカだけじゃなく、差別は日本にもある。自分を振り返って、世界のことを知ろうとして、毎日毎日意識を改めていかなくてはいけない。差別はわたしの心にも、知らぬ間に育ってしまう可能性のあるもの。「差別はいけない」とみんな言っているのに、こんなにも差別にまみれた世界に生きてる。



6月3日

遅れてしまった夏野菜の種や、秋に定植するための芽キャベツの種を発芽用ポットに蒔いた。発芽しますように。バルーンポットに、育ってきたキュウリの苗を植え替え。ポットを日差しがさんさんと当たるテラスに設置して、週2日だけ開くパン屋さん「ス・マートパン」に予約してあったパンを買いにいく。「ス・マートパン」は夏季は休業。おやすみ前にあと何回買いにこれるか…。ここのオレンジティというパンが子供達は大好きなのです。



6月4日

花種さん、登校日。クラスメイトの誕生日会もあるので庭のハーブをブーケにして持って行った。花種さんのクラスでは全員のお誕生日会が都度開かれ、その日はみんなが花と手紙を持っていくのです。学校は山ひとつ登って行った先にあり、今まで車で送り迎えしていたところを4年生から徒歩で行きたいというので、今日は付き添いで一緒に歩いてみた。1時間くらいかかるかなと思ったけど、45分で到着。わたしのほうがペースについていけず。午後はひょーさんのアトリエに。敷地にある大きな桑の木の実がゴロンゴロン食べごろなので、たくさん採った。


6月5日

樹根くんの喘息発作が頻発しているので、アントロポゾフィークリニックに2度目の受診。先生と1時間くらい話して対応を相談。そんなこんなしている間に花種さんが近所の湖で、亀をみつけて家に連れ帰ってきていた。かなり大きく重い亀を大変な苦労をして持ち帰ったそうで、空の植木鉢の穴を石などで塞ぎ、水と亀をいれ、逃げないよう網を置き、さらにその上に大きな石で蓋をしていた…。「これは草亀!絶対飼う!」という花種さん。のびのび生きてる亀(外来種も多くて、それはまた別の問題だけど)を閉じ込めるのはかわいそう。わたしとしては「飼っていいよ」とは言えない。説得して湖に帰さなくては…。ひょーさんは打ち合わせがあり東京に行った。お店はどこもピッと検温して入店、店員さんはフェイスガードつけ接客してたらしい。久々の都内「…遠かった」と疲労の様子。



6月6日

桑の実でジャムを作って、豆乳カスタードと重ねてタルトに。子どもへの対応を巡ってひょーさんとけんかになり、家を飛び出す(わたしが)事態発生。といっても時間を潰せるお店があるわけでもないし、近所をぐるぐる歩いた末に友達の家に上がりこんで話をきいてもらった。休校中の課題、子も親も気持ち良く、日々スムーズに行うなんて不可能な気がする。起こっていることは小さなことでも、積み重なるともう「母親向いてない」「こんな親でごめんなさい」とネガティブ思考にまっしぐら。でも、わたし母親に向いてる!なんて思える人きっといないはず。夜、ひょーさんと花種さんは湖に亀を帰しに行った。



6月7日

樹根が朝から転んで鼻血。思いきり椅子でうって、思いきり鼻曲がった…。痛みは治まってるようだけど、折れたのでは?と気が気じゃない。日曜日だし病院も行けず、落ち着かない。本人は曲がった鼻で、お隣の敷地に実るユスラウメを取らせてもらってご機嫌。今年最後のユスラウメだね。

6月8日

ひょーさんはまた東京。今後やりたいことのアイデアについて人と会って相談したり話を聞いたりしてくるそう。カカオニブを使ったパンを焼き、庭の畑のブロッコリーを収穫して、樹根の鼻の病院へ。骨は折れてなかった。よかった…。



6月9日

2ヶ月半ぶりに樹根が保育園に行くはずが、また喘息発作。近くの診療所で吸入させてもらったら元気になったのだけど、重なる発作は、本人もこちらもなかなか参る…。風がきもちいいので、夕飯はテラスで。畑のちいさ~~~な間引き人参とグリーンピースのサラダ。グリーンピースは近所の農家さんが育てたもので、「伝説のグリーンピース」と呼ばれているほど甘い。



6月10日

花種さん登校日。樹根もやっとこ登園。パンの生地を仕込んだまま冷蔵庫にいれっぱなしにしてしまい、発酵足りずパンが焼けなかったので朝はスコーン。ココアのスコーンだったので、子どもたちは喜んでいた。子どもたちがいない中で、ひょーさんと仕事の話。ついに、ついに、今後やっていくことが、定まった。まとまった。夫婦で共有することがますます増えて、ぶつかることもますます増えると思う。でも希望を感じられること、そう感じられることを形にしていきたい。いよいよやっと、動き出す。


6月11日

いろいろ文章を書いたり、見直したり。言葉にしたら、後戻りはできないから、言葉にすることは大事だ。


6月12日

春に都内から藤野に越してきた、花種さんの新しいクラスメイト。家族で暮らしを変え、ここにやってきた。お母さんがうちに来てくれたので、お茶しながら話をしてて、我が家が藤野に行こう!と決めた時のこと、気持ちを思い出した。こんなことほんとうにできるのかな?と半信半疑で、でも行くしかない!と動いた。あの時動いてほんとうによかった、と今、心から思う。





6月13日

「ANNE FRANK HOUSE」という洋書をひょーさんが買ってきたのをきっかけに、アンネ・フランクに興味を持った花種さん。質問に答えるために、改めてアンネのことを調べていたら、わたしももっともっとアンネのことが、この時代のことが知りたい。知らなくては、という気持ちになった。本をいくつか注文した。


6月14日

樹根くんの破れたズボンをダーニング。ひょーさんに「最近庭の草抜きしてないんじゃない?」と言われたので、草抜き。やるまでがちょっと面倒なんだけど、やりはじめると草抜きはやはり気持ち良い。快感だ。





6月15日

バルーンポットで育てていたキュウリ、記念すべき1本目の収穫。小さな種から芽が出て、育ち苗になり、葉も茎もどんどん伸びて、花が咲いて実がなる。野菜ができるまでの、当たり前の過程に改めて感動している。種って、土って、太陽って、なんとすごいのか。

6月16日

初収穫きゅうりは、ぬか漬けにした。「ぬか~ぬか~」と、ぬか漬けの唄をうたいながら舞う子どもたち。アンネの本が届き、花種さんはあっという間に読んで「なんでこんなことしたの?ナチスってばかだよ」「またこんなことが起きたらどうしたらいいの?」と。こんなことは許されないことだから、過去の歴史も、今起きていることも、わたしたちは学んでかなきゃいけなんだと思うよ、と話をした。



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中村俵太(ひょうた(父/夫)

「HYOTA」として空間デザインを生業にしつつ、中村家のあらゆる『家族』活動のディレクター的立ち位置も。決断力と実行力はあるけど計画や段取りは非常に苦手。人見知り。日本生まれ日本育ちなのに日本語がおかしい。極めて楽天的でポジティブ。家族愛は強いがピントがいつもややずれがち。

中村暁野(あきの(母/妻)

家族や生活をテーマに執筆活動を行なっている。理想を追って突っ走りがち。でもその突っ走りによって人生動かしてきたという自負もあるので、引き続き突っ走る気まんまん。ブリコラ生活の果て2021年夏「家族と一年商店」がオープンし小商店主という予想だにしていなかった人生展開もスタート中。

中村花種(かたね(娘)

繊細で敏感な子ども時代を経て、現在爆発的パワーで家族を圧倒する思春期入り口の13歳。極度の内弁慶だったけれど藤野暮らしの中で壁を越え、自分の世界を築こうと成長中。現在両親のやることなすこと、言うことスベテが気に入らない反抗期真っ只中。

中村樹根(じゅね(息子)

マイペースでごきげんな6歳児。人類みな友達的オープンマインド。恐竜がだいすきで1日の半分、心は恐竜の世界へ。甘いもの大好き。虫歯になりがち。姉とはトムとジェリーのような関係。

バター(うさぎ)

花種さんの膝に飛び乗るすきを常に伺っていた、アメリカンファジーロップのオス。2022年の3月、天国へ...。花種さんの部屋の前の、ユスラウメの木の下に眠っている。



家族カレンダー

中村暁野
定価 1760円(本体価格1600円)
ひとつの家族を自身の家族で取材して制作する雑誌『家族と一年誌 家族』編集長である著者による初めての自著。ブログに綴った5年の間には、たくさんの幸せな日とそうでない日とがありました。「家族」を通して自分と社会に向き合い続けた実験の記録。一日々々のかけがえのなさを感じられる一冊です。


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