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かぞくのブリコラージュ~自分たちで暮らしを作る、日常の発明記~かぞくのブリコラージュ~自分たちで暮らしを作る、日常の発明記~

文・写真・題字/中村家


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その3
「4階建てバターハウス」
for うさぎ





花種さんの8歳の誕生日に家族の一員となったうさぎのバター。両手の上にちょこんとのるほど小さかったのに、今では小型犬と間違われるほど大きくなりました。バターが夜間とお留守番の間、過ごしていたうさぎ小屋も、成長とともにやや窮屈に。バターが1人時間をのびのび過ごせる空間作りを目指したところ、予想外の巨大ハウスになりました。










4階建てバターハウスへの日々(2020年5月7日~5月25日まで)



5月7日

引っ越してきた時からあった洗濯物干しをずっと使っているのだけど、サビサビだし、つぎのブリコラージュでは洗濯物干しを作るのはどう?とプレゼン。わたしの一番きらいな家事は洗濯を干すことと、とりこんだ洗濯を畳むこと。なので、新洗濯物干しという、少しでも前向きに取り組める要素が増えたら嬉しいんですけどもね、と話すと「じゃあ滑車レバーを引くと伸び縮みする物干しとかどう?」と壮大な計画を語りだすひょーさん。滑車をいちいち動かさないと干せないなんてますます洗濯物が嫌いになりそう…ということで却下。



5月8日

庭にあるバードハウス。毎年シジュウカラのつがいがやってきて、卵を産み、雛を育て、雛達が巣立っていく。その姿を見るのは春の楽しみ。今年も現在絶賛子育て中。樹根がまたゼコゼコヒューヒュー。昼まで寝て、復活して遊んでいたら夕方にはまた絶不調。咳止まらず、嘔吐。気圧の変化についていけない樹根くんよ…。先日仕込んだレーズン酵母がぷくぷく発酵していい感じ。しかし!強力粉を買おうとしたら、どこも売り切れ。ネットでも買えない。みんな家でパンを焼いているのだな。



5月9日

却下したはずの滑車式洗濯干しをひょーさんが作っていた…!早い。前回作った野外キッチンとテラスの屋根部分に制作。普段は屋根についている竿が滑車を引くと降りてくる仕組み。でもさ、ここに洗濯物干したら野外キッチンとテラスが毎日洗濯物に占領されちゃうじゃん…ということで、この滑車式洗濯干しは、「お布団干し」として数日に一回、使用されることになりました。冷蔵庫をあけたひょーさんに「母の日のプレゼントに、冷蔵庫のそうじをしてあげようか?」と言われたので「母の日に限らず、気づいたほうが掃除をすればよいと思いますよ」と言い返した。種から植えたキュウリの芽がでてきた。



5月10日

朝一番、強力粉をもらいにおでかけ。花種さんのクラスの保護者仲間より、国産小麦粉を25キロ買ったから欲しい人わけるよ、と連絡があり「ほしいほしい~」と1キロわけてもらうことに。その間、花種さんがバナナケーキを焼いて、コーヒーも淹れてくれていた。今日は母の日。夜はひょーさんが野菜の素揚げをのせたタイカレーを作ってくれ、子供たちがレストランのウエイターに扮して、テーブルに招待してくれた。花種さんは自分のお金で買ってきたという花までくれた。「ママに花をかってあげたいとおもっていたんだけど、花を売ってるお店がなくて…。仏壇の花でごめんね」と町にひとつのスーパーで買った花を、ラッピングして渡してくれた。うれしい。



5月11日

窓を開け放っているとツバメがすーんと入ってくる。一度入ってくるとなかなか出て行かなくて、部屋のあちこちにフンが…。窓をしめたらいいんだろうけど、通り抜ける風がなくなるのと、ツバメのフンと、どっちを取るかといったら、フンの方を選んでしまうわ。庭ににょきにょき生えてきたクローバーを食べているからか?最近バターもすこぶる快便。ツバメとウサギのフンを片付けるのに追われている…。



5月12日

近所のさくらんぼの木がタワワに実り、「好きなだけ食べていいよ」と言ってもらったので、果物大好きな樹根は最高潮に幸せそう。
レーズン酵母でパン焼き。発酵が足りなかったのか固めではあるけど、まあまあ美味しくできた。ひょーさんも酵母を仕込み中。山芋と人参とりんごをすりおろしたものにレーズン酵母のスターターをいれて発酵させるらしい。「もうパン屋になろうかな!」とか言っているので「今日だけで多分350人くらいの人が仕事辞めてパン屋になろう!って決意してると思うよ」と言うと「その数字、リアルゥゥ」とひょーさん。冗談ではなく、たくさんの人が人生を変える決断を今日この時もしているんじゃないかなと思う。そんで、わたしたち自身も、どんな決断をしていこうかねえと今日も考え続けてる、真っ只中。



5月13日

朝から張り切って豆腐クリーム作ったりマフィン作ったりしていた花種さん。続々と我が家のテラスに近所の子供たちがやってきて、各自作ってきたというお菓子を並べだした。なにやら「アフタヌーンティー」を計画してたらしい。見に行くとまさしくこれ、「アフタヌーンティー」だ!っていうような夢の会が開かれてた。自分たちで計画して、自分たちで作って、自分たちで楽しむ。そんな姿は頼もしさも感じた。
庭のブロッコリーを樹根くんと収穫。間引き人参と、近所のクマちゃんにもらったスナップエンドウとそら豆。野菜だけだけど、ごちそうの夕ご飯。



5月14日

次回ブリコラージュではバターハウスをつくることになった。基本家族がいる時は家中好きにウロウロしていて、小屋ステイは夜中と外出時くらいなのだけど、うちに来た時は小さかったバターも成長して小型犬くらいの大きさになっている現在。うさぎは夜行性で、ほんとは夜間こそ動きたいはず。ということでより幸せなバターライフのために「3階建ての小屋にするぅ!」と花種さん…。さ…3階建て??



5月15日

結婚記念日。しかも10周年というなかなかの節目。そんな日に夫婦で力を合わせ、ドイツ製の縦型洗濯機(めちゃくちゃ重い)をシゲさんのところに持って行った。シゲさんは藤野で「壊れたらシゲさんに」と言われている、なんでも直せるすごい人。アトリエに長らく放置されていた洗濯機(スタイリングで使うかもと手に入れていた)、もし直ったら家で使いたいよね、と。バターハウス作業をしたり、樹根がまたゴホゴホしだし気をとられているうちに夜。「結婚記念日のケーキを今日焼きたい!」と花種さんが言い出したのは20時すぎ。「今日はもういいから」「明日にして」とわたしとひょーさんに言われて号泣。樹根の咳はますますひどく。なんだか落ち着かないまま結婚記念日、終了。11年目もよろしくどうぞ!



5月16日

樹根ダウン。ヒューヒューゼコゼコ。もうこれは喘息なんだな、と認めたくなかったことを認め、今後どうやって向き合っていくべきか考える。バターハウス3階建て計画。うさぎは狭いところが好きなので中に入ったりもできる階段を作り上に上がっていけるようにしようということに。階段だけで、なかなかのでかさ。あまりのでかさに一抹の不安を感じ「でかすぎない?」と言うものの「でかくていいの!!」と花種さんに一蹴される。酵母ができたので、ひょーさん初のパン作り。成形まで意気揚々と「これ、すごいおいしいのできるかも!やっぱ週末だけパン売ろうかな」と調子に乗るものの、焼き上げてみるとそれはそれは固い、まるで木工作品のような塊となり、意気消沈…かと思いきや「パン作りむずかしい~~!おもしろい!!」と逆に盛り上がっております。噛めば噛むほどに、顎を痛めそうなパンを、みんなで噛み締めていただいた。



5月17日

樹根くん回復。朝、二十日大根の種をまき、バターハウスのペンキ塗り。ふと「ママってパパにきびしいよね」と樹根に言われ、びっくり。「厳しいかな?」ときくと「きびしいよ」と再びはっきり。
ひょーさんは今日もパン作り。「今回もうまく焼ける予定はないよ」と宣言の後、貴重な強力粉を大胆に500グラムも使っている。



5月18日

朝起きると宣言とは裏腹に、いい感じのパンがふたつも焼けていた!なかなか美味しい。ノリにノッテいるひょーさんは角食用の型とかクープとか色々注文している模様…。バターハウスの階段、試しにバターを登らせてみたら、やっぱり高さと角度がありすぎて危ないことが判明し、まさかの作り直し決定!



5月19日

隔週で行なわれているビオ市(地元の有機野菜やパンや卵などなど作り手さんから直接買えるマルシェ)も、コロナ対応で無人販売スタイル。置かれた瓶などにお金をいれて買う。苗も売っていたので八丈オクラとホーリーバジルの苗を買った。午後は、最近デリバリースタイルでパンを売り始めた友人のパンを受け取りに。自家採取して栽培している無農薬小麦粉も売ってくれるというので、1キロ買わせてもらう。ひょーさんが焼いたパンもまだあるし、パン祭り状態。バターハウス、作り直しとなった階段を活かしつつ安全性を考慮すると、なぜか4階建て構想に…。当初の予定より、どんどん大きくなっている…。



5月20日

花種さん、今週から週に1回1時間、学校に少人数登校が開始。「1時間だけ?!」といいながらも、嬉しそう。アトリエのひょーさんから急に「シジュウカラ、まだいる?」と電話がかかってくる。そろそろシジュウカラは旅立ちの時期ということで、その瞬間を見たくてみんなソワソワしている。



5月21日

もうストーブはいらないと思っていたのに、寒い。また灯油が必要。また樹根が体調崩す。最近、週に1、2回ペースで樹根くんは体調を崩している。さすがに多すぎる。通っているシュタイナー園の園医でもある先生が開いているアントロポゾフィークリニックに一度相談にいくことになった。




5月22日

甘夏でマーマレードつくったら、子供たちに不評で驚き。苦い!と。苦いのがうまいんじゃないの…。アントロポゾフィークリニックを受診。家から近いので、助かる。今出ている症状だけじゃなくて、その症状を持っている、その人全体を捉えようとしてくれるので面白い。とりあえず、急性症状が出る前に抑えられるような働きかけをしていけたらいいね、と先生と話せて少し安心。そして、ついにシジュウカラが飛び立った。4羽いた雛の、最後の1羽の旅立ちの瞬間を目撃したのはひょーさんと樹根くん。「胸はって、飛んでいったよ~」と感激している2人。見たかった!



5月23日

朝起きると4時半に起きたというひょーさん作の自家製酵母ドーナツ(崩れ気味)があった。朝の光とドーナツを前に気持ちがふっと軽くなる。ここ数日、樹根の体調のことや花種さんの反抗期的態度にやや参っていたわたし。2ヶ月ずっと家族と過ごしていたら、行き詰まるのも当然というか、参っていることの原因を追求しても意味はないってわかっている。こうやってふっと気持ちが切り替わる瞬間を待つしかない。庭の蛇苺をつんで、チンキをつくる。キュウリの苗をわける。4階建てのバターハウスの大枠が完成。あまりにでかいので、置き場所は玄関しかない。



5月24日

明日には緊急事態宣言解除の見込みとのニュース。うれしい!とは思えないわたしがいる。この2ヶ月で新しく見つけたものとか、馴染んできたもの。社会の中で芽生え始めたかもしれないもの。解除の後も、当たり前の感覚として残ってほしいものがたくさんある。でもあっという間に、この期間のことはなかったみたいに振る舞われるんじゃないかってことが怖いのだと思う。もちろんこのままずっと停止していていいわけがない。今より希望が持てる社会を作っていかなきゃいけない。希望は誰かに作ってもらうんじゃなくて、自分でも作っていかなきゃいけない。そのためには変わること、変わらないことをもっと明確に、自分の中で持たなくちゃいけない。まだ明確にしきれないままに、社会がまた動き出しちゃうような気がしてる。流されはしまいぞ…と、気合を入れる。バターハウスは枠ができたところで、ドールハウス的たのしみに発展。ベッドやテーブルをつくり、布団を縫う花種さん。バター的にはまったく嬉しくないだろう装飾部分なので、きっとすぐに取り払われるでしょうね。



5月25日

バターハウス、ついに完成!もはやマンションの域。慣れ親しんだ小屋が消え、巨大なマンションに変わり、戸惑いを隠せないバター…。でもきっと慣れたら夜間ものびのびできるはずだよ。楽しんでおくれ。花種さん2回目の登校日。8時半に行って9時半に帰宅。わたしは2回目のレーズン酵母パン焼き。うまく膨らみクープも前回よりうまくいった。焼きあがるものの、学校前に食べる時間がなくて花種さん帰宅後、おそい朝ごはんをみんなで食べた。緊急事態宣言は解除されたらしい。ひょーさんと今後の仕事について話す。ずっと続けられること、矛盾のないこと、そんな仕事のかたちを描きたくて、それはどうしたらできるのか。まだ話し合いの途中で、定まっていない。大きく何かを変えられる、そんなチャンスは滅多にないんだから、今このチャンスを大事にしたい。ということで、明日からも変わらず、わたしたちはブリコラージュをとにかくする。



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中村俵太(ひょうた(父/夫)

「HYOTA」として空間デザインを生業にしつつ、中村家のあらゆる『家族』活動のディレクター的立ち位置も。決断力と実行力はあるけど計画や段取りは非常に苦手。人見知り。日本生まれ日本育ちなのに日本語がおかしい。極めて楽天的でポジティブ。家族愛は強いがピントがいつもややずれがち。

中村暁野(あきの(母/妻)

家族や生活をテーマに執筆活動を行なっている。理想を追って突っ走りがち。でもその突っ走りによって人生動かしてきたという自負もあるので、引き続き突っ走る気まんまん。ブリコラ生活の果て2021年夏「家族と一年商店」がオープンし小商店主という予想だにしていなかった人生展開もスタート中。

中村花種(かたね(娘)

繊細で敏感な子ども時代を経て、現在爆発的パワーで家族を圧倒する思春期入り口の13歳。極度の内弁慶だったけれど藤野暮らしの中で壁を越え、自分の世界を築こうと成長中。現在両親のやることなすこと、言うことスベテが気に入らない反抗期真っ只中。

中村樹根(じゅね(息子)

マイペースでごきげんな6歳児。人類みな友達的オープンマインド。恐竜がだいすきで1日の半分、心は恐竜の世界へ。甘いもの大好き。虫歯になりがち。姉とはトムとジェリーのような関係。

バター(うさぎ)

花種さんの膝に飛び乗るすきを常に伺っていた、アメリカンファジーロップのオス。2022年の3月、天国へ...。花種さんの部屋の前の、ユスラウメの木の下に眠っている。



家族カレンダー

中村暁野
定価 1760円(本体価格1600円)
ひとつの家族を自身の家族で取材して制作する雑誌『家族と一年誌 家族』編集長である著者による初めての自著。ブログに綴った5年の間には、たくさんの幸せな日とそうでない日とがありました。「家族」を通して自分と社会に向き合い続けた実験の記録。一日々々のかけがえのなさを感じられる一冊です。


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