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世界自然遺産、屋久島。「海上のアルプス」とも呼ばれ登山のイメージが強い島ですが、登らずとも楽しめる自然やスポットがたくさんあります。そんな屋久島の知られざる魅力を紹介している旅ガイド『Hello!屋久島』。屋久島の港、宮之浦で一湊珈琲焙煎所を営んでいる著者の高田みかこさんが、旬の屋久島情報をお届けします!

20 からすうり 花の銀座に 売られをり






 最高気温20度を切る日が増えてきて、島にも遅い冬が訪れました。

 マイクロブリュワリー「Catch the beer」にビールの仕入れに行った帰り、視線を感じて見上げると、背の高いハマヒサカキのてっぺんにハロウィンのかぼちゃのような濃いオレンジ色のカラスウリ。高い木のてっぺんで色づくまで気づかない、つる性の植物です。
 以前、紹介したリンゴツバキと同じく、美味しそうなのに食べられないつやつやの丸々。



 かつて、島から東京に遊びに来た母が、銀座の生花店でなじみの山の植物を見かけて、懐かしいような滑稽なような、そんな思いを謳ったのが冒頭の句です。島の野山で見かける植物に、値札がついて売られていたのが、印象深かったのでしょう。

 カラスウリが色づくのと同じ頃、「喫茶 樹林」の庭には、親指の先ほどの琉球豆柿がたわわに実っていました。
 皮をむくことも困難な小さな渋柿は、食べられないけれど、柿渋の原料になる貴重な植物。



 この季節、一湊のまちなかには、あちこちに木綿糸が張り巡らされ、この柿の実を直接すり込んで強い釣り糸を作っていたそう。生の豆柿でしごくと、太い木綿糸はたちまち細く強く締まっていく、その様が大好きだったというのは、父の話。
 柿渋で漁具を染めるという話は全国によくあるけれど、生の柿をすり込むというのは、調べても出てこない手荒いやり方。屋久島の温度と湿度でたちまち発酵して、柿渋状態になるということなのでしょうか。
 ナイロンの釣り糸が普及する少し前のお話。



 両親世代と私とでは、植物との「近しさ」がまるで違う。
私が銀座でカラスウリを見ても、母のようにひとごみに懐かしいひとを見つけたような思いを抱くことはできないのです。
 こうして、かつてあった「人と植物との関係」を書き留めるばかり。



『Hello!屋久島』

全国書店にて好評発売中


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高田みかこ(たかた・みかこ)

屋久島の北の港町、一湊育ちの島ライター。東京の出版社に勤務したのちUターン。現在は、宮之浦のフェリービルディングで「一湊珈琲焙煎所」と一組限定の貸しコテージ「おわんどの家」を夫婦で営む。単行本の編集、里の取材コーディネイト、WEB サイト「屋久島経済新聞」「やくしまじかん」に執筆中。
issou-coffee.com


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