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世界自然遺産、屋久島。「海上のアルプス」とも呼ばれ登山のイメージが強い島ですが、登らずとも楽しめる自然やスポットがたくさんあります。そんな屋久島の知られざる魅力を紹介している旅ガイド『Hello!屋久島』。屋久島の港、宮之浦で一湊珈琲焙煎所を営んでいる著者の高田みかこさんが、旬の屋久島情報をお届けします!

19 祖母のおもかげ。






 先日、平海製菓(『Hello!屋久島』p.17)に「切りもち」が並んでいたので、懐かしく買い求めた。
 砂糖入りののしもちを薄切りにして、乾燥させ、焼き上げたせんべいで、塩味は一切ついていない。



 同居していた祖母が元気だった頃、わが家でも冬になると自家製のせんべいが、大きなクッキー缶にたくさん詰められていた。
 火鉢であぶられ、厚みも形もふぞろいのそれは、薄く形良く、均等に焼けたものから先に売れていき、焦げて厚みのある不恰好なものばかりが、缶の底に残っていく。砂糖入りだから、なおのこと焦げやすい。焦げた部分をナイフでこそいで、それでも残るほろ苦さともろともに、このおやつの味であった。



 母いわく、このせんべいは、朝飯前のおめざだったそうで、熱い緑茶とこのせんべいをつまんで、ひと仕事済ませてから、刺身と白米と味噌汁、ラッキョウや大根の漬物という朝昼兼ねた、ボリュームのあるご飯をいただくというのが、鯖節工場を営む彼女の生家のスタイルだったという。


 本州の人には驚かれるかもしれないが、私の育った一湊では、もちに砂糖を入れてつきあげる。お雑煮の中のもちも、砂糖入りだ。すまし汁の中に甘いもちが沈んでいる。  冬場も暖かい南の島で、カビや腐敗を防ぐための工夫であったのか、もったりとした天ぷらの衣にもドーナツ生地ほどに砂糖を入れるし、ちらし寿司や巻き寿司の酢飯や具もラッキョウ漬けもしっかりと甘酸っぱく仕上げる。冠婚葬祭の定番、里芋と厚揚げとかんぴょうの煮しめにも、たっぷりのザラメが注がれた。


 大人になって、自分で料理本をみながら料理をするようになってはじめて、島の料理がいかに甘かったかに気づいた。

 冷蔵庫のある現代を生きる我が家のもちは砂糖抜きだし、手間のかかるせんべいも自分では作らない。業務用のオーブンでこんがりと色好く焼き上げられた切りもちを買い求めては、祖母のおもかげを探すばかりとなってしまった。







『Hello!屋久島』

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高田みかこ(たかた・みかこ)

屋久島の北の港町、一湊育ちの島ライター。東京の出版社に勤務したのちUターン。現在は、宮之浦のフェリービルディングで「一湊珈琲焙煎所」と一組限定の貸しコテージ「おわんどの家」を夫婦で営む。単行本の編集、里の取材コーディネイト、WEB サイト「屋久島経済新聞」「やくしまじかん」に執筆中。
issou-coffee.com


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