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世界自然遺産、屋久島。「海上のアルプス」とも呼ばれ登山のイメージが強い島ですが、登らずとも楽しめる自然やスポットがたくさんあります。そんな屋久島の知られざる魅力を紹介している旅ガイド『Hello!屋久島』。屋久島の港、宮之浦で一湊珈琲焙煎所を営んでいる著者の高田みかこさんが、旬の屋久島情報をお届けします!

15 あの世とこの世の境目に立つ。




 フェリービルディングにコーヒーショップを移転して3年目。
 正月営業がすっかり定番になりました。
 家でお雑煮を食べたら、おせち料理をお弁当箱に詰めて、元旦早々家族で出勤。
 フェリー待合所の小さなテレビを前に、居合わせた人々と箱根駅伝や天皇杯観戦に興じるのもなかなか乙なひととき。今年の人出はうんと少なめでしたが、港湾で働く人や帰省客と一緒に手に汗握る瞬間を楽しみました。



 今でこそ、日本中のいろいろなおせち料理を楽しめるようになりましたが、暖かな島のおせち料理、伝統的には、重箱に詰めません。
 集落にもよりますが、大きな鍋に丸のままの里芋やこんにゃくを煮しめて、毎日火を入れながら少しずついただくのは、冷蔵庫が普及していなかった時代の名残。気温10度を下回っただけで「寒い、寒い」と大騒ぎする島で、重箱に詰めた料理を何日かに分けていただくのは少しリスキーなのです。



 1月7日には、かまぼこやさつま揚げ、煮しめも一緒に残ったものを細かく刻んで、七種雑炊ななくさどっしを作り、正月料理はすっかりきれいに無くなります。
 この日には、「七草祝い」と称して、数えの7歳になった子どもたちが、晴れ着姿で橋を渡らずに7軒の家を周り、雑炊を分けてもらうという風習もあります。
 7歳まで育った祝いに、子どもの後見人を定めるというセーフティーネット作り。親にもしものことがあっても、7世帯の後見人たちが力を合わせ、子どもを支えてくれますように。「死」が身近だった時代を思わせる行事です。



 初詣は、最寄りの「はちまんさま」へ。
 一湊集落を望む天然の洞窟に足を踏み入れると、冷んやりと湿った空気に包まれ、あの世とこの世の境目に立つような厳かな気持ちに。大昔のご先祖様たちの暮らしに想いを馳せ、呼応するようなそんな時間です。



 今年のお正月飾りの収穫は、息子の担当。
 じいちゃんの指示を受けながら、野山に分け入って、いくつかの枝を手折ってきてくれました。
 千両の枝は白く、万両は黒い。千両は葉の縁かギザっとしていて、万両はつるんとしている。千両の実は赤いけど、万両の実は赤や緑が混ざっている。千両は水揚げしやすく、万両は水揚げしにくい。
 「山の知恵」「海の知恵」を受け渡すことは、何年もかけて、お別れの準備をすること。年を重ねるごとに、そんなことを強く意識させられてしまいます。








『Hello!屋久島』

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高田みかこ(たかた・みかこ)

屋久島の北の港町、一湊育ちの島ライター。東京の出版社に勤務したのちUターン。現在は、宮之浦のフェリービルディングで「一湊珈琲焙煎所」と一組限定の貸しコテージ「おわんどの家」を夫婦で営む。単行本の編集、里の取材コーディネイト、WEB サイト「屋久島経済新聞」「やくしまじかん」に執筆中。
issou-coffee.com


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