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世界自然遺産、屋久島。「海上のアルプス」とも呼ばれ登山のイメージが強い島ですが、登らずとも楽しめる自然やスポットがたくさんあります。そんな屋久島の知られざる魅力を紹介している旅ガイド『Hello!屋久島』。屋久島の港、宮之浦で一湊珈琲焙煎所を営んでいる著者の高田みかこさんが、旬の屋久島情報をお届けします!

06 家が走る、島の台風。




 島には「家が走る」という言葉があります。
 台風の強い風で、家が基礎から浮かんでずれたり、落ちたりすることを指す言葉です。昔の家は、頑丈な箱型の「きゃくろ造り」がなされていて、台風の強い風でも家は崩れることなくそのままの形で、動くことがありました。
 伝統建築は、湿気対策に床を高く、通気性良く作ってあるので、その分、床下に風を呼び込みやすい構造。床の隙間から風が吹き込んで、畳が浮くなんていうことも珍しくありませんでした。

 直撃を免れても、遠くをかすめるだけで台風の影響を受けるのが、物流。本州に大きな被害をもたらした先日の台風19号では、貨物フェリーが3日間運休しました。飛行機や高速艇は運行していたので、手紙や新聞は届くのですが、スーパーの棚は、生鮮食品を中心に品薄に。インターネットで波浪予想を調べながら、運休期間の予測を立てて買い出しにのぞむのも、台風シーズンの日常です。
 運行再開の日には、コーヒーショップのあるフェリーターミナルも活気ある雰囲気に包まれます。貨物の積み下ろしが多いので、定刻よりも遅れ気味の島時間。「遅刻してしまった!」としても、意外と乗船できるかもしれません。




 最後の台風が去るとともに、涼しい風が吹き始めるころ、沿道を飾るのは、サキシマフヨウの花。薄桃色の和紙をくしゃっと丸めて広げたような、手のひらほどの大きな花。蕾は濃い桃色で、開くにつれて雲に溶け入りそうな白に変化します。
 ハイビスカスの仲間とあって、園芸種と見まごうような豪華な花ですが、日当たりの良い沿道の荒地に咲く、たくましい野生の植物。



 この季節、直売所に並ぶのが、ハイビスカスのガク。ローゼルという種類のハイビスカスで、乾燥させた状態のお茶は、一年を通して土産物売り場などに並んでいますが、フレッシュなものが手に入るのは、今だけ。内側の種を取り除いて、ガクだけを使います。
 お茶にすると見たままの鮮やかな赤紫色に発色、ジャムやサラダにしてそのまま食べることもできます。今回はカサ増しにリンゴを入れて、香りづけにクローブを入れて、桃色のジャムにしました。



 次にやってきたのは、山盛りのグアバ。こちらは皮が薄くて、とにかく傷みやすい。熟すととびきり香りがいいので、ざるに並べてその時を待っていると、あっというまに柔らかく崩れてきます。頃合いを見計らってこちらもジャムに。
 一見しただけではわかりませんが、切ってみると、象牙色と珊瑚色の果肉があって、直売所などで安くで売られているものには、混在しています。生で食べる場合は、かわをむいて、2ミリほどの固い種もそのまま飲み込んでしまいますが、ジャムにする際は、ザルでこして、種を取り除きます。




 真っ赤な炎のような、ドラゴンフルーツは、四つ割りにすると、簡単に手で皮がむけます。見た目とは裏腹に優しい淡い甘さ。キウイのようなプチプチの種が入っています。こちらも、皮の中身には紅白があって、赤いほうは、白い服につくとシミになってしまうほどの鮮やかな赤紫。目を瞑ると似ているような気もするけれど、目を開ければ、赤いものの方が少し濃い味に感じるのは錯覚でしょうか。
 『Hello! 屋久島』で取材させてもらった「やまがら屋」さんでは、ドラゴンフルーツの皮の天ぷらをいただいたことも。淡白でもっちりした味でした。



鍋の前に立つのも楽しくなってくる季節、植物に追われるように冬じたくは進みます。



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高田みかこ(たかた・みかこ)

屋久島の北の港町、一湊育ちの島ライター。東京の出版社に勤務したのちUターン。現在は、宮之浦のフェリービルディングで「一湊珈琲焙煎所」と一組限定の貸しコテージ「おわんどの家」を夫婦で営む。単行本の編集、里の取材コーディネイト、WEB サイト「屋久島経済新聞」「やくしまじかん」に執筆中。
issou-coffee.com


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