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世界自然遺産、屋久島。「海上のアルプス」とも呼ばれ登山のイメージが強い島ですが、登らずとも楽しめる自然やスポットがたくさんあります。そんな屋久島の知られざる魅力を紹介している旅ガイド『Hello!屋久島』。屋久島の港、宮之浦で一湊珈琲焙煎所を営んでいる著者の高田みかこさんが、旬の屋久島情報をお届けします!

03 黒潮に乗って旅をする植物。


 GWあたりから、息子の普段着は、スイムパンツ1択。
 大雨で泳げない日も、放課後の短い時間でも、すきあらば、海へ川へ、スタンバイしています。そんな息子に遅れること2ヵ月、ついに私も今年初の海水浴へ。



 腰まではひんやり、思い切って肩まで入ると、黒潮の温度がぬるめの温泉のように心地よく感じられてくるのが不思議。プールとは違う海水の浮力に身を任せ、水中眼鏡をつけて漂っていると、海底の砂に網目状の波紋が揺れながら反射して、じっと眺めているだけで、数式が解けそうな気持ちに満たされます。
 2020年の国体のオープンスイミング競技の会場にも選ばれた「一湊海水浴場」は、水晶の仲間である石英せきえいを多く含んだ白く粗い粒子の砂浜。ゲレンデのように太陽を反射して眩しく光ります。



 駐車場を挟んだ東側のダイビングスポット「元浦」は海の生き物たちに遭遇できる岩場。干潮の前後には、足がつく場所でもたくさんの生き物を見ることがでるので、我が家はもっぱら「元浦」でシュノーケリングしてから海水浴場のシャワーを利用。海の家も並ぶので、かき氷をつつきながら、ぼんやり海水浴客を眺めていると、いくつもの夏休みの記憶が立ち上ってきます。



 この季節、海辺にはハマユウの白い花。長い花弁を反らせた花が、たくさんのつぼみを芯に、打ち上げ花火のように放射状に広がる様子は、ひと株だけでも充分ゴージャス。黄昏時、甘い香りを漂わせながら、海辺いっぱいに群れ咲いている様は、あの世との扉が開きそう。
 花が終わり実を結ぶと、太い茎は地面に倒れます。そこからこぼれたピンポン球状の大きな種は、黒潮に乗ってどこの海辺へいくのでしょう。



 ハマユウの足元を這うのは、ハマゴウの青い花。こちらも、波に乗って旅をする植物です。ビロードのようになめらかな手触りの葉をもむと、ユーカリを思わせる爽やかな香り。ひと枝枕元に置けば、安眠に誘ってくれるという和製ハーブでもあります。



 他にも、珊瑚だらけのビーチや丸い小石だらけのビーチ、異国の漂流物が見つかるビーチ、溶岩が固まってできた岩場、切り立った断崖絶壁、屋久島の海辺は、それぞれにまったく異なる表情を見せてくれます。

 ひと粒の種、ひとかけらの貝……、手のひらに収まる海からの贈り物は、どんなお土産よりも雄弁に旅の思い出を語るかもしれません。





『Hello!屋久島』

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高田みかこ(たかた・みかこ)

屋久島の北の港町、一湊育ちの島ライター。東京の出版社に勤務したのちUターン。現在は、宮之浦のフェリービルディングで「一湊珈琲焙煎所」と一組限定の貸しコテージ「おわんどの家」を夫婦で営む。単行本の編集、里の取材コーディネイト、WEB サイト「屋久島経済新聞」「やくしまじかん」に執筆中。
issou-coffee.com


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