<< 目次へ

[3 ]
雑草と仲良く!


庭にひとめぼれしてこの家に越してから、
早いもので1年が過ぎました。

庭がある生活は、とても楽しいものです。
四季の移り変わりを肌で感じることができ、
毎日たくさんの発見があります。
東京に住んでいながら、
とても贅沢な時間を過ごせていることに日々感謝しています。

けれど、実はこの家、広い庭がネックとなり、
1年近くも空き家だったのだそうです。
駅からの距離や住環境を見れば、優良物件なのですが、
『皆さん、庭の雑草を見た途端、あー無理って言うんですよ』
と、不動産屋さん。

私は、勢い良く伸びる雑草を見て、
とてもわくわくして、入居を決めたのですが、
多くの人にとって雑草とはとても厄介で、
手に負えないものなんでしょうね。


●これって雑草?

ところで雑草とは、随分と大ざっぱな言葉ですよね。
実際は、どんな草のことを雑草って言うのだと思いますか?

例えばこれはどうでしょう?

niwa


夏に勢いよく咲いていた朝顔です。

去年のこと、ノルウェーから
友達のミュージシャンが我が家に泊まりに来ました。
自然が大好きな彼らは、我が家の庭をとても楽しんでくれました。
けれど、フェンスに絡み付く朝顔を見て、不思議そうな顔に。

『これって育ててるの?それとも伸びちゃっただけ?』
『大好きだから、毎年植えているのよ。きれいでしょ。』

そう答えると驚きの表情でこう言いました。

『ノルウェーでは朝顔は雑草だよ。全部抜いちゃうね。』
『ええ!?日本では小学校1年生の理科の授業で、朝顔の育て方を習うのよ。』
私も驚きましたが、
授業で習うと聞いた彼らの驚きようもすごいものでした。
雑草の育て方を習うだなんて、なんだかとっても理不尽ですものね。


さらにこちらはどうでしょう?

niwa

まだ芽が出たばかりのタケニグサです。
我が家の庭にもありますが、空き地などでもよく見かけます。

この草はとてつもない勢いを持っています。
放っておくとみるみる茎が太くなり、背丈もゆうに1メートルを越え、
簡単には抜けなくなってしまう手強い相手です。
雑草に寛容な私でさえ、見つけたら小さいうちに処分、
を鉄則にしていました。

ところがある日、イングリッシュガーデンの本をめくっていたら、
タケニグサが堂々と載っているではありませんか。
驚いて調べたら、葉の形の面白さ、背の高さでとても重宝がられ、
欧米では園芸植物として売られているのだそうです。

ところ変われば、雑草の定義も大きく変わるのですね。

●雑草の定義

これらからわかることは、自分が雑草と思えば雑草であり、
そうでないと思えば、かわいい植物である、ということなんです。

雑草の定義なんて、とてもあいまいで、
それぞれの主観に任されたものなんですね。

以前、庭の雑草抜きが悲しい、
とってもかわいい花をつけてるのに悪いなって思っちゃって、
と相談してきた友達がいました。

だったら、抜かなきゃいいんですよ。
かわいいんですから、育てましょう。

庭やプランターに自分が蒔いたもの、植えたもの以外が生えてくると、
あー雑草がいっぱい生えてきて困った!抜かなきゃ!と
思ってしまう方が数多くいると思うのですが、
抜く前に、ちょっとだけ考えてみましょう。

その草、抜きたくなるほど嫌いですか?

花がかわいいなとか、葉の形がきれだなと思ったりしたら、
その草はもうあなたにとって雑草ではないのかもしれません。

ようは、その草に愛着があるか、ないかでだけなんです。
それが雑草かどうかの決め手になります。


●おすすめ雑草 その1・かわいい花

さて、雑草の中でもかわいいもの、
育てたくなるようなものがたくさんあります。
世で雑草と言われる中からおすすめをご紹介します。

niwa

カタバミ
とても可愛らしい小さな花をつけます。背丈も大きくなりません。

niwa

イヌダテ
控えめで、どこかほのぼのとした印象が好きです。

niwa

ツユクサ
瑞々しい青色の花が清楚です。

niwa

ホトケノザ
愛嬌のある花の付き方が特徴。春の訪れを教えてくれます。

niwa

タンポポ
小さな頃に綿帽子を飛ばして遊んだ方も多いのでは?
ここはひとつ、綿帽子になるまで見守りましょう。

どの草も決して主張することなく、控えめで愛らしいと思います。
生えていても、どれもたいして邪魔になりません。


●おすすめ雑草 その2●役に立つ草

雑草の中には、食べられるものや、日々の生活に役立つものがたくさんあります。

niwa


ユキノシタ
写真左側に見える、しましま模様の草です。
葉を天ぷらにするとほくほくとして最高です。
擦り傷や切り傷には葉っぱを揉んであてると、
炎症を抑える効果もあります。

スベリヒユ
ユキノシタの右側に見える、小さなぷにゅぷにゅとした草です。
湯がくと独特のぬめりが出て、おひたしにすると美味。

niwa

ハハコグサ
春の七草の一つ、ゴギョウです。道ばたでもよく見かけますね。

niwa

ヨモギ
言わずと知れた、美味しい雑草の代表選手。
春の頃の若い葉を使って作るヨモギ餅は格別です。
また乾燥させてお風呂に入れれば、体を温める効果も。

niwa

ドクダミ
独特の臭気や繁殖力から嫌われ度の高い草です。
けれど写真のような、とても清楚できれいな白い花をつけます。
名前は毒を制するほどの殺菌力からつけられました。
それだけ力のある草ということです。
葉っぱを乾燥させれば、匂いもなくなり、
美味しく、効能たっぷりのお茶になります。

余談ですが、ドクダミとともに映る小さな花はブライダルベールです。
ドクダミとともに大繁殖して、
歩くスペースがなくなったので、むしり取っていました。
ある日、お店でかなりの高額で売られていることを知り、愕然。
それからは大切に育てました。


●おすすめ雑草 その3・名前を知る

ところで、雑草をいろいろ調べて行くと、
なんでこんなかわいそうな名前がついてしまったの!?と
同情せずにはいられない草があります。
私は名前や由来を聞いて、すっかり愛着がわき、
大切にするようになりました。

niwa

オオイヌノフグリ
大きい犬のフグリ、という意味です。
フグリとは書くのがはばかられますが、キンタマのことです。
この名前のもとになったイヌノフグリという草が
キンタマにはそっくりなんだそうです。
でももっと他に似ているものがあったはず!可哀想。

niwa

ヘクソカズラ
屁と糞が名前に入っているなんて!
こんなに可愛い花をつけるのに、可哀想すぎやしませんか。
葉っぱが臭いからこの名前がついたらしいのですが 、
実際試してみたところ、そんなに臭くないんです!

ヘクソカズラの花言葉って知ってますか?
『人嫌い、誤解を解きたい』なんです。

涙を誘いますね。
言うほど臭くないんですよ。
誤解を解いてあげたいです。


雑草に、少し愛着がわいてきたでしょうか?

それでも、雑草には勢いをつけて伸びるものも多く、
放置していると、汚いなという状況になってしまうこともあります。

でも全部抜くなんて面倒ですし、重労働なときもあります。
そこで、おすすめの対処法、そして
知っておくと見方やつきあい方が変わる、
雑草の働きっぷりをご紹介します。


○雑草との上手なつきあい方 その1・ある程度残す

背が高くなる雑草を放っておくと、
荒れた空き地や野原のようになってしまい、
素敵に見せるのはとても難しいことです。

そこで背の高いものだけ、抜いてみることにします。

niwa

背が伸びている草だけを抜いていきます。


niwa

背の低いカタバミだけが残りました。

もさもさとした印象がなくなりました。
この程度の処理なら、あっという間に終わります。

他にも、ツルモノの雑草なら、
フェンスやトレリスに巻き付けて楽しむのも一つの方法です。
第一回 夏はツルモノ!を参照)
ただ成長が早いので、時々カットするのを忘れずに。

いずれにせよ、全部抜いてしまうと土をさらす事になりますから、
それよりはずっと良いですし、何より短時間で終わります。

全ての草を抜いたり、除草剤などを使って全ての草を枯らしてしまうと、
土の部分だけになってしまいますね。
もともと雑草の根によって固められていた土は、
とてももろくなり、風の強い日などに舞い上がり、
飛ばされていってしまいます。

土は長い年月をかけて、ようやく土となったものです。
例えば、枯れ葉が積み重なり、微生物によって分解され、
10センチの土になるには100年以上の年月がかかると言われています。
土はとても貴重なものなのです。飛ばしている場合ではありません。

さらに、どんな雑草であっても光合成により、
二酸化炭素を吸収し、酸素を送り出してくれています。

また地表の温度を下げすぎず、上げすぎずといった調節もしているのです。
夏の暑い日に、アスファルトで固められた地面よりも、
雑草の生えている土のほうが、暑さが和らいでいると
感じたことはありませんか?

ある程度の雑草を残す、というのも実は意味のあることなのです。


●雑草との上手なつきあい方 その2・働いてもらう

雑草は意味なく生えているわけではありません。
実はとっても働き者でもあるのです。

さきほどの光合成による酸素の吐き出し、
温度調整の他にも、大きな役割があります。
それは土を耕し、良い土に変えてくれるということ。

例えば、タンポポを抜いてみると、根が深く伸びていることに驚きます。
長い根は、深く土に入り込むことで、固い土を耕してくれているのです。

また、シロツメクサやカラスノエンドウなどの豆科の植物は、
土の栄養素として必要な窒素を空気中から取り込み、
根に蓄えることができます。
畑に栄養を与える為に、蒔いて育て、 枯れたら抄き込む
という農法もあるくらいです。

これに習い、去年初めて我が家の庭に蒔いた種は、
シロツメクサ、アカツメクサでした。


niwa

シロツメクサ(クローバー)

niwa

アカツメクサ(クリムゾンクローバー)

もちろん放ったらかしにして育て、枯れさせ、土に帰しましたよ。


●雑草との上手なつきあい方 その3・虫との良い関係

他にも見逃せない雑草の役割があります。

雑草を残すことで、庭やプランターに、
多種類の緑が存在することになります。

例えば、紫蘇だけを育てていると、
紫蘇が大好きな虫、例えばアブラムシがどうしても集まります。
好きなんだから彼らを止めることはできません。

けれど、雑草を含め他の種類の草が周囲にたくさんあれば、
他の葉っぱが好きな虫も当然やってくるわけです。
その中には、テントウムシなどアブラムシの天敵も存在します。

多種多様の植物と虫が存在することで、
食物連鎖がしっかりと行われることになり、
一部の虫だけが大量発生することを防ぐことができるのです。

だから、私は野菜やハーブを育てるときに、
わざと雑草をある程度残しています。

去年の夏は、それをさらに実験すべく、
クローバーなどの雑草やハーブ、紫蘇などの種を混ぜて、
至るところに適当に蒔いて育てる、という方法を試してみました。

するとどうでしょう。
虫の害がびっくりするほど少なかったのです。
ゼロだったといってもいいほどでした。

niwa

紫蘇もバジルも虫食いなくキレイですね。つやつやです。
カタバミやクローバー、ニシキソウ、エノコログサも見えます。

niwa

クローバーに囲まれたこちらの紫蘇もとっても元気です。
赤みがかった葉っぱのブライトライトチャードがちらりと見えます。

あちこちに適当に顔を出した紫蘇の葉に、
虫食いはほとんどありませんでした。
こんなに快適なことはありませんでした。

また、草の組み合わせによっては、
育てている野菜の虫の害を予防し、成長をより促し、
味さえも良くしてしまうという魔法の組み合わせもあります。
これらはコンパニオンプランツと呼ばれ、
たくさんの研究がなされ、実践されています。
これはとても楽しい方法なので、後日に取り上げますね。


●雑草との上手なつきあい方 その4・楽しむ


緑を育ててみたいけれど、面倒な気がして、という方に朗報です。
雑草は種を蒔かなくとも、勝手に生えてきてくれます。
風や鳥や虫が種を飛ばしてくれるからです。

コリアンダーが枯れたあと、 鉢を放置していたら、
素敵なことになっていました。

niwa

雑草の寄せ植えといったところでしょうか。
勝手に生えてきたとは思えない、いいバランスです。
小さな花もかわいいですね。

niwa

こちらは我が家の北側、自転車置き場の近くに、
コンクリートの隙間から生えて来た雑草です。
緑のベルトのようで素敵な模様です。
とても気にいったので、もちろん残すことにしました。

いいなと思ったら、それらが雑草であっても、
もう、あなたのガーデニングの一部です。
手をかけずとも、結構楽しめるものだとは思いませんか?

雑草は、響きだけなら、
なんだかとても厄介なような気もしていましますが、
それぞれにとても可愛らしく、素敵な面を持っています。

お気に入りの雑草が見つかったなら、そのまま育てるも良し、
しばらく育ててあまりに大きくなったら、切ったり、抜いたりも良し、
もっとおおらかな気持ちで、向き合ってみてください。

雑草を抜かなくちゃ!の義務感は、今日限り捨ててしまいましょう。
気軽に楽しく、そして仲良くつきあってみてくださいね。


参考文献:
ひきちガーデンサービス著『雑草と楽しむ庭づくり』築地書館 2011年
川原勝征著『野草を食べる』南方新社  2005年
*オオイヌノフグリのみフリー画像を使いました。


<< 目次へ

copyright 2011 anonima studio