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『キツネと星』著者コラリー・ビックフォード=スミスさんQ&A


photo: Michele Cote
──普段は本のデザイナーとしての仕事が多い中、ご自身で創作したこの絵本にこめた想いをきかせてください。


 クリエーターとして、わたしはウィリアム・モリスとウィリアム・ブレイク二人のヒーローを仰ぎ見て、影響を受けてきました。モリスは19世紀後半を生きた人で、アーツアンドクラフツ運動の主要人物です。植物をモチーフとした装飾的なパターンが有名ですが、みずから印刷製本も手がけ、数々の美しい本をつくってもいます。

 ブレイクはそれより前の18世紀末に生まれた画家、・詩人で、時代をつきぬけたすばらしい仕事をしました。卓越したクラフツマンでもあって、自宅でこつこつと印刷技術の工夫を重ね、文章と絵と印刷がたがいに補完しあい、響きあうような本をつくりあげました。文章も、アートワークも、印刷製本も、すべて手がけたんですね。

 モリスやブレイクがしたように、文章、イラスト、デザインをすべて自分で手がけて一冊の本をつくるのは、私にとっても長年の夢でした。それをようやく実現できた『キツネと星』は記念すべきほんとうに大切な作品です。ふだんペンギン・ランダムハウスではカバーだけを手がけていますが、この本では、本文用紙の選択から本を綴じる糸にいたるまで、内容だけでなく印刷製本のすべてを自分で決めることができました。


──普段のお仕事とちがうところ、おもしろかったところ、むずかしかったところはどんなところですか?

 なんといっても、個人的な経験や感情を盛り込んだ物語をつづることができたのが、いちばんやってよかったと思う点です。
『キツネと星』を構想するために、6ヵ月休みをとって、自宅の屋根裏部屋にこもり、自分をかなり追い込んでイメージをふくらませました。これはある意味ですばらしい贅沢です。ふだんの仕事や都会の喧噪から身を引いて、考えに煮つまったらジョギングで汗を流してもいいし、なにより電車で通勤しなくていいんですから!
 キツネとともに自分の内面と向き合い続けたこの作業を通して、ものを生み出すのはどういうことかをあらためて発見できたし、私自身もそれによって成長し、強くなれたと思います。


──『キツネと星』がさまざまな外国語で翻訳出版されたことをどう思いますか?

 こんなにいろいろな国で読まれるなんて、じつは、まったく考えていませんでした。この物語とアートワークが海外でもたくさんの人びとの共感をよんでいると思うと、ほんとうにうれしいです。
 












──『キツネと星』のなかで、コラリーさんがとくに気に入っているページを教えてください。

 キツネの目がアップになった見開きがいちばん気に入っています。
 この見開きにはずいぶん悩んで、何度も何度も練り直しました。ここで表現したい感情をどうしてもうまく視覚化することができなくて、追い詰められた気分になったことも。そして最終的にはシンプルな表現に落ち着きました。そのほうが、思いの強さを伝えるのにふさわしいと確信できたんです。粘りに粘って、印刷に回さなければならない最後の段になって、このビジュアルイメージを決定しました。それだけに、試し刷りを見たときはほんとうにうれしくて。最後の1ピースがぴったりとはまって、パズルがついに完成したと思いました。


──日本語版をご覧になってどう思いますか。 (おもしろいと思ったところ、気にいっているところなど)


日本語版はとても美しい仕上がりになりました。本文用紙、表紙のクロスも綴じ糸も私の希望どおりです。日本語版の訳者であるスミス幸子さんが訪ねてきて、訳文やデザインの変更点について直接話すことができたのもとてもよかったと思います。信頼できる相手が訳してくれることがわかったし、なにしろ本やデザインについて深く話しあえる仲間と出会えたのは大きな喜びでした。


──日本の読者へのメッセージをお願いします。

『キツネと星』を手にとってくださってありがとうございます。この物語とアートワークが読者のみなさんの心に響いて、喜びや希望をもたらしてくれたらいいなと願っています。私はこれまで日本のアートやデザインが好きでおおいに刺激を受けてきましたので、自分の本が日本語で読まれるのは誇らしい気持ちです。このような機会をつくってくださったすべての方に感謝しています。



photo: Joe Stenson
コラリー・ビックフォード=スミス
グラフィックデザイナー。イギリスのレディング大学でタイポグラフィとグラフィックコミュニケーションの学位を取得。ロンドンの出版社、ペンギン(ランダムハウス)にて、「ペンギン・クラシックス」シリーズの布装版をはじめとする本のデザインを多く手がけ、高く評価されている。本書ははじめての著書。


スミス幸子
出版社勤務を経て、現在はフリーランスのライター、翻訳者。イギリス在住。

さよならがはじまりになる、心あたたまる物語

キツネと星

作・絵:コラリー・ビックフォード=スミス
訳:スミス幸子
本体価格2800円(税別)

ひとりぼっちの臆病なキツネが、唯一のともだちである星を探すために勇気をだして一歩踏み出す、シンプルで奥行きのあるストーリー。イギリスで刊行されて以来数々の賞を受賞し、世界10ヵ国で翻訳され、世界中で愛されています。
色彩や絵柄、布貼り上製の装丁まですべてが美しいこちらの作品は、イギリスの老舗出版社でエディトリアル・デザイナーとして活躍する著者が手がけたはじめての絵本。 大人から子どもまで、とびきりの一冊を贈りたい人へのプレゼントにおすすめです。


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